
この記事は、「障害年金の話を、家族にどう切り出したらいいか分からない」と悩んでいる方に向けて書いています。
こんにちは。
私は、愛知県春日井市を拠点に、名古屋市をはじめ県内全域(とその周辺)で、うつ病・双極性障害など精神疾患の障害年金を専門にしている社会保険労務士の渡邊智宏と申します。
そして同時に、あなたと同じように双極性障害という病気と付き合いながら暮らしている当事者でもあります。
最初に、少しだけ私自身の話をさせてください。
私は今、障害厚生年金の3級を受給しながら、社会保険労務士として仕事をしています。
仕事の専門分野は、まさに「障害年金」。
うつ病や双極性障害など、精神疾患の方の請求をお手伝いするのが、私の仕事です。
こう話すと、よく言われます。
「先生は、ご自分の年金請求はすぐされたんですよね?」
実は、全然そんなことはありません。
私が自分の障害年金を請求したのは、病気になってからだいぶ時間がたってからのことでした。
しかも、障害年金専門の社労士として開業して、しばらくしてからです。
制度のことは、もちろん知っていました。
自分の病状から考えて、「対象になりそうだ」ということも、頭では分かっていました。
それでも、なかなか一歩が踏み出せませんでした。
一つは、病気の性質です。
双極性障害は、調子が落ちている時期には特に、「よし、やろう」と自分から動くことが本当に難しくなります。
「そのうちやらなきゃな」と思いながら、先延ばしにしてしまう。
そんな時期が、正直かなり長く続きました。
もう一つは、「本当に自分がもらっていいのか?」という、ハッキリしないモヤモヤした感覚です。
私は長いあいだ、両親の世話になりながら暮らしていました。
生活費も、かなりの部分を親に頼っていました。
そういう状態だと、「自分の力で生活していく」というイメージそのものが、なかなか湧いてこないんですね。
そして、両親の気持ちもありました。
障害年金の話をしたとき、最初の反応は、決して歓迎ムードではありませんでした。
「国のお世話になってしまう」
言葉にするとシンプルですが、その一言に、親世代ならではの感覚が詰まっているように思います。
「まだ若いのに」「そこまでしなくても」という、なんとなくの抵抗感。
はっきり反対されたわけではありませんが、空気として、そういうものを感じていました。
そんな私たち家族の雰囲気が変わっていったのは、「自分ひとりで生活していくこと」を現実的に考え始めてからです。
一人で生活できるようになろう。
仕事もしたい。
でも、病気の波がある以上、元気だった頃と同じようには働けない。
収入が多い月もあれば、ほとんど働けない月もある。
そのとき、私はようやく気づきました。
「安定した生活を続けていくためには、仕事だけじゃなくて、障害年金という“もう一本の柱”が必要なんだ」
そう思えたとき、両親の反応も、少しずつ変わっていきました。
「仕事以外に収入の道があるなら、そのほうが安心だね」と、今ではむしろポジティブに捉えてくれているように感じます。
この経験から、私は強く思うようになりました。
障害年金の話は、「働くか・働かないか」の話ではなく、「家族として、どうやって生活の土台を守っていくか」という話なんだ、ということです。
とはいえ、頭ではそう分かっていても、いざ家族に障害年金の話を切り出そうとすると、ものすごく気まずく感じる方も多いはずです。
実際、私自身もそうでした。
そこでこの記事では、
- なぜ家族は障害年金の話にモヤモヤしてしまうのか
- そのモヤモヤを、どう言葉にしていけばいいのか
を、当事者であり社労士でもある私の視点から、整理してお話ししてみたいと思います。
なぜ家族は障害年金の話にモヤモヤしてしまうのか?
家族が障害年金の話を聞いたときに、最初から「それはいいね!」と素直に言えるケースは、実はそこまで多くありません。
頭では「困っているなら、制度を使ったほうがいい」と分かっていても、心のどこかで引っかかる。
その「引っかかり」の正体を、少し分解してみます。
「障害年金=一生働かない人のお金」というイメージ
まず、とても多いのがこれです。
障害年金をもらう = 一生働かない宣言
障害年金をもらう = 社会のお荷物になる
こういうイメージを、どこかで植え付けられてしまっている方は少なくありません。
特に、親世代の感覚だと、
- 「国のお世話になるなんて、できれば避けたい」
- 「税金のお世話になるのは、最後の最後の手段だ」
という価値観を、ずっと大事にしてきた方も多いでしょう。
私の両親も、まさにこのタイプでした。はっきり口には出さないものの、「できれば自分たちだけの力でなんとかしたい」という気持ちは、強く感じていました。
でも実際の障害年金は、
- 一生固定で続くわけでもない(更新や支給停止もありうる)
- 働いている人が受けているケースもある
「完全に働けない人専用のお金」ではありません。
ここが、まず大きなギャップになりやすいポイントです。
「うちの家族は“障害者”じゃない」というラベリングへの抵抗
もう一つ、大きなモヤモヤの原因があります。
「障害年金をもらう」
= 「うちの子(夫・妻)を“障害者”として認めること」
このように感じてしまう家族は、とても多いです。
- 「まだ若いのに、“障害者”扱いはかわいそう」
- 「そんなラベルを貼らなくても、きっとそのうち良くなる」
家族としては、「希望を捨てたくない」という優しさから出てくる言葉でもあります。
ただ、本人からすると、「今のしんどさを否定されたように感じる」ことも多いのです。
「障害者」という言葉そのものに、強いイメージがくっついてしまっている。
これもまた、家族が障害年金に抵抗感を持ちやすい理由の一つです。
家計・将来への不安が「もっと働いてほしい」にすり替わる
さらに正直なところを言えば、将来の不安も大きいです。
- 今後、生活費や治療費をどうしていくのか
- 子どもの教育費や、老後の資金は足りるのか
- 自分たちの年金だけで、本当にやっていけるのか
こうした不安が、じわじわと積もっていくと、
「もう少しだけでも働けるんじゃないの?」
「パートくらいならできるでしょ?」
という言葉になって口から出てしまいます。
本音の部分では、
- 「この先、大丈夫かな」
- 「倒れたらどうしよう」
と、家族のほうも怖いのです。
でも、その「怖さ」を素直に言葉にするのは、なかなか難しい。
結果的に、
「もっと頑張ってほしい」
「働いてほしい」
という方向にだけ、圧がかかってしまう。
ここに、当事者と家族のすれ違いが生まれてしまいます。
当事者の本音:「お金の前に、今のしんどさを分かってほしい」
一方で、当事者側には当事者側の本音があります。
「障害年金の話を家族にする」というのは、ただお金の相談をする、という話ではありません。
多くの方にとって、それは同時に、
「今の自分は、普通に働くのが難しい状態なんだ」
と、家族に認めてもらうための、とても勇気のいる一歩です。
「働けるなら働けば?」が突き刺さる理由
調子のいい日もある。
人としゃべれる日もある。
買い物にも行ける日がある。
そういう姿だけを見ていると、家族からは、
「元気そうに見えるけど?」
「このくらいできてるなら、仕事もいけるんじゃない?」
と言われてしまうことがあります。
でも、当事者からすると、
- 調子の悪い日は、そもそも外に出られない
- 「元気そうにしている時間」の前後で、ぐったり寝込んでいる
- それを見せるのもつらいから、家族にも隠してしまう
という“裏側”の時間があります。
そのギャップがある状態で、
「働けるなら働けば?」
と言われると、
「自分のしんどさを信じてもらえていない」
「サボっていると思われている」
そんなふうに感じてしまっても、無理はありません。
自分でも「甘えているのでは」と感じてしまうダブルパンチ
さらにやっかいなのは、当事者自身も、
「本当は働けるんじゃないか」
「これは甘えなんじゃないか」
という気持ちを、どこかで抱えていることが多い点です。
- 体調が少しいい日に、「このくらいならいけるのでは」と期待してしまう
- でも数日後にはまた落ちて、何もできなくなる
- そのたびに自己嫌悪と罪悪感が積み重なっていく
この状態で家族から「働けるなら働けば?」と言われると、
「自分でも責めているところに、追い打ちをかけられた」
ように感じてしまいます。
だからこそ、当事者の多くは、
「お金の話より先に、今の状態そのものを分かってほしい」
と強く願っているのだと思います。
実は、障害年金は「働かないためのお金」ではない
ここで、一度「障害年金って、そもそも何のためのお金なのか?」という、原点に立ち返ってみたいと思います。
結論から言うと、私は障害年金を、
「働かないためのお金」ではなく、
「無理して倒れないための安全ネット」
だと考えています。
「波」があるからこそ、2本立てが必要になる
精神疾患、とくにうつ病や双極性障害には、「波」があります。
- 働ける時期
- どうしても働けない時期
が、どうしても周期的にやってきます。
私自身も、社労士として仕事を続けていますが、
- 体調がいい時期には、ある程度集中して仕事ができる
- 体調が悪い時期には、仕事量をぐっと抑えないと続かない
という状態です。
そのなかで、障害年金3級の存在が何をしてくれているかと言うと、
- 仕事の量を、ムリに100%にしなくていい
- 収入が多い月・少ない月の「ブレ」をならしてくれる
という役割を果たしてくれています。
これは、家族から見ても、本当は安心材料になるはずのポイントです。
「仕事か年金か」ではなく「仕事+年金」という発想
家族の中には、
「働くなら年金はいらない」
「年金をもらうなら、もう働かない」
と、白か黒かで考えてしまう方もいます。
でも実際には、
- 就労しながら障害年金を受給している人
- パートタイムや短時間勤務と組み合わせている人
も、数多くいます。
病気の波を前提にすると、
完全に働けない時期も支えながら、
働けるときには、その力を生かしていく
という形のほうが、長い目で見ると安定しやすいのです。
家族にとってのメリット:「家計の見通し」が立つ
障害年金は、当事者本人だけでなく、家族にとってもメリットがあります。
- 「最低限これだけは入ってくる」という基盤ができる
- 完全に家族の稼ぎだけで支え続けなければいけない、というプレッシャーが少し軽くなる
- 「もし今月あまり働けなかったとしても、いきなりゼロにはならない」という安心感が生まれる
つまり、
家族全体の生活の土台を支える、もう一本の柱
と考えていただくと、イメージが変わってくるのではないかと思います。
家族と話し合うときのコツ:「一生の話」ではなく「しばらくの話」にする
ここまで読んで、
「理屈は分かるけど、それでも家族にどう話を切り出したら…」
と思われた方も多いかもしれません。
そこで、家族に障害年金の話をするときの「言い方」の工夫について、お話しします。
「一生このまま」ではなく、「まずは○年」と区切る
家族が一番不安になるのは、
「一度障害年金をもらい始めたら、一生そのままなんじゃないか」
というイメージです。
そこで、話をするときには、あえてこう区切ってみるのも一つの方法です。
- 「まずは、ここ数年(たとえば3年くらい)の生活を安定させたい」
- 「治療と生活のリズムを立て直すための時間がほしい」
つまり、
「一生の話をしているわけではなく、
いったん立て直すための“期間限定の作戦”として考えている」
と伝えるイメージです。
「お金の話」ではなく、「生活の土台の話」として共有する
家族と話すとき、「月いくらもらえるか」から入ると、どうしてもギスギスしがちです。
それよりも先に、
- 今の体調で、どれくらい働けそうか
- 突然働けなくなったとき、どうやって生活を守るか
- 家族の収入・貯金・支出のバランス
といった、生活全体の話を一緒に整理してみるのがおすすめです。
そのうえで、
「このままだと、どうしても不安定になってしまうから、
もう一本、障害年金という柱を足したい」
という順番で話をすると、家族も「自分ごと」として考えやすくなります。
主治医や社労士など、第三者に同席してもらう
どうしても当事者と家族だけで話すと、感情的になってしまうことがあります。
そんなときは、
- 主治医
- 社労士
- 支援機関の相談員さん
など、「第三者」に同席してもらうのも一つの方法です。
「本人 vs 家族」
ではなく
「本人+家族+専門家で、“生活の設計図”を一緒に考える」
という場にすると、ぐっと話しやすくなります。
当事者社労士として、家族に伝えたいたったひとつのこと
最後に、当事者であり社労士でもある私から、家族の方にお伝えしたいことがあります。
それは、
障害年金は、「国のお世話」になる事ではなく、
倒れないための安全ネットだということです。
このネットがあるかどうかで、
- 当事者が無理をしすぎずに、少しずつ社会とつながり続けられるのか
- 家族が、将来への不安で押しつぶされそうになりながら、全てを背負い続けるのか
その差が、大きく変わります。
もちろん、家族の不安や戸惑いも、決して間違いではありません。
「働いてほしい」「自立してほしい」と願う気持ちは、愛情の裏返しでもあります。
だからこそ、
- 当事者の「今のしんどさ」
- 家族の「将来への不安」
- そして制度が持つ「安全ネットとしての役割」
この3つを、ゆっくり言葉にしながら、すり合わせていくことが大切だと考えています。
もし、ご自身だけではうまく言葉にできないと感じたら、
そこはどうか、私たち専門家を「クッション」として使ってください。
春日井市や名古屋市周辺、愛知県内にお住まいの方であれば、直接お会いして一緒に整理することもできます。初回の相談料は無料となっておりますので、お気軽にお声をかけてください。
おわりに:第2回へ
今回は、
- なぜ家族は障害年金の話にモヤモヤしてしまうのか
- 当事者が本当に分かってほしいことは何なのか
- 障害年金を「働かないためのお金」ではなく「安全ネット」と捉える視点
について、お話ししました。
次回の第2回では、もう一歩踏み込んで、
「家族だからこそできるサポート」
について、より具体的にお伝えしていきたいと思います。
- 受診や手続きで、家族がどこまで関わるといいのか
- 逆に、やりすぎるとケンカになりやすいポイントはどこか
といった、かなり実務的な話も交えながら整理していきます。

愛知県(名古屋・春日井等)を拠点に、岐阜・三重を含む地域で障害年金の請求をお手伝いしている社会保険労務士の渡邊智宏です。自身がそううつ病を経験したことから、病気による生きづらさや不安にも自然と目が向きます。その経験を活かし、一人ひとりの事情に耳を傾けながら、障害年金の手続きをサポートしています。初回の出張相談は無料ですので、「よくわからない」「不安がある」という方も、どうぞ気軽にご相談ください。

