
こんにちは。
私は、愛知県春日井市を拠点に、名古屋市をはじめ愛知県全体(周辺地域含む)で、うつ病・双極性障害など精神疾患の障害年金を専門にしている社会保険労務士の渡邊智宏です。
そして同時に、自分自身が双極性障害の当事者でもあります。社労士の専門家としての視点と、双極性障害の患者である当事者としての視点、両方の目から障害年金のサポートをしています。
「家族と一緒に読む障害年金」シリーズの第2回目です。第1回では、家族が障害年金にモヤモヤしてしまう理由や、障害年金を「国のお世話」ではなく倒れないための安全ネットとして捉える視点をお話ししました。
今回はその続きです。テーマはズバリ、
「じゃあ、家族は何をすればいいの?」
という話です。
家族としては助けたい。本人にも安定して暮らしてほしい。
でも、いざ手続きとなると、こんなことが起きがちです。
- 家族が一生懸命に動くほど、本人が傷ついたような顔をする
- 本人が動けないので家族が代わりにやろうとすると、ケンカになる
- かといって放っておくと、本人が「もういいや」と諦めてしまう
- 「何をどこまで言っていいか」が分からず、家族も疲れてしまう
この“難しさ”は、家族の愛情が足りないからでも、本人の努力が足りないからでもありません。
精神疾患の障害年金は、手続きの内容そのものが「心を削る作業」になりやすいからです。
今回は、家族が関われるポイントを整理しつつ、実際の面談でよく起きるすれ違い——
「本人の前で“できないこと”を話すと、本人が反発してしまう」という問題についても、具体的に書きます。
家族が関われるのは、この4つのポイント
まず全体像です。障害年金の手続きで、家族が関われるところは大きく4つに分かれます。
① 受診・通院のサポート
精神疾患の場合、診察時間は短く、話すべきことが整理できないまま終わってしまうことがあります。
家族が関われるのは、たとえばこんな部分です。
- 予約や通院日の管理(カレンダー共有など)
- 移動のサポート(体調が落ちると外出自体が負担)
- 診察前に「今日伝えること」を一緒にメモ化
- 診察後に「何を言えた/言えなかった」を振り返る
「付き添う=家族が全部しゃべる」ではなく、本人が話しやすくなる準備を手伝う、というイメージがちょうどいいです。
② 日常生活・症状の「記録」を手伝う
本人は、体調の波の中にいるので、生活の困りごとを振り返るのが難しいことがよくあります。
特に、
- 記憶が抜ける
- しんどかった時期を思い出すのがつらい
- 「自分は大丈夫」と思いたい気持ちが働く
- そもそも毎日が精一杯で記録どころじゃない
こういう事情が重なります。
そこで家族ができるのは、責めるための記録ではなく、“波の実態”をつかむためのメモです。
例:
- 「入浴:週に○回/調子悪いと○日空く」
- 「食事:準備できる日/できない日」
- 「外出:月に○回程度、単独は難しい」
- 「睡眠:昼夜逆転が起きる頻度」
- 「服薬:飲み忘れがあるか」
- 「家事:洗濯・掃除が止まっている期間」
- 「対人:電話が出られない/LINEが返せない」
このメモがあるだけで、本人の言語化がずっとラクになります。
③ 書類・情報整理
障害年金は、精神疾患に限らず「時系列」が命です。
そして精神疾患は、本人が自分の経過を整理するのが難しくなりがちです。
家族が関われるのは、例えば、
- 「いつ頃から調子が悪くなったか」の思い出し
- 初診日になりそうな病院の候補整理
- 受診歴・転院歴の一覧化
- 休職・退職・復職など仕事歴の年表作り
- 薬が変わった時期、入退院の時期などの整理
ここは、本人がやると“心の負担”が大きいことが多いので、家族が手を貸しやすいポイントです。
④ 気持ちのサポート
忘れがちですが、いちばん効くのがここです。
障害年金の準備は、本人にとって「ダメだった時期」を直視する作業になりやすい。
だから、
- 自己否定
- 罪悪感
- 「こんな自分を見せたくない」
- 「家族に迷惑かけてる」
こういう感情が強く揺れます。
家族ができるのは、根性論ではなく、
- 「ここまで進んだね」
- 「今日はこれで十分」
- 「一緒にやろう」
と、手続きそのものを“耐えられる形”にする声かけです。
「やってあげる」から「一緒にやる」へ
家族が頑張れば頑張るほど、なぜかギスギスする。
これは本当に多いです。
家族側の本音は、だいたいこうです。
- 「早く安定してほしい」
- 「放っておけない」
- 「このままじゃ生活が詰む」
本人側の本音は、こうです。
- 「迷惑をかけて申し訳ない」
- 「できない自分を見せたくない」
- 「手続きを進める気力がない」
- 「でも、家族に言われると責められてる気がする」
すると、関係がこうなります。
- 家族:やってあげてるのに…(不満)
- 本人:迷惑かけてるのに…(罪悪感)
- その結果:ケンカか沈黙
このねじれを減らすコツは、役割をこう寄せることです。
決めるのは本人。
準備と段取りは一緒に。
役割分担の具体例
本人が握る部分(本人が決める)
- 障害年金を請求する/しない(最終決定)
- 医師に何を伝えるか(主語は本人)
- 生活の目標(今は休む、短時間なら働く等)
家族が支えやすい部分(家族が手伝う)
- 予約やスケジュール管理
- 診察前メモを一緒に作る
- 日常生活の様子のメモ
- 書類のコピー、提出物の管理
「全部代わりにやる」だと、短期的には早く進みます。
でも長期的には、本人の罪悪感が増え、家族の不満が溜まりやすい。
だから、“一緒に進める形”を作るのが安全です。
「そんなにできなくはない!」と本人が反発したケース
——面談が“悪口の時間”に聞こえてしまう問題
ここから、私の実務でよく起こる場面をひとつお話しします。
第2回でいちばん大事なところです。
障害年金の準備では、日常生活で「何ができなくなったか」を具体的に整理します。たとえば、
- 入浴・洗面・着替え
- 食事の準備・片付け
- 掃除・洗濯・ゴミ出し
- 買い物
- 金銭管理
- 予定管理(約束を覚えていられるか)
- 対人関係(電話・LINE・来客対応)
- 外出(単独でできるか)
- 睡眠
- 服薬
こういうことを一つひとつ確認します。
すると、ご家族が協力的で、次々に具体例を挙げてくださるケースがあります。
「調子が悪い時は、お風呂は数日入れません」
「部屋は片付けが止まってしまっています」
「約束を忘れてトラブルになったこともあります」
家族としては、善意です。
「正確に伝えた方が本人のため」と思って話してくださっている。
ところが、横で聞いているご本人の表情がだんだん曇っていき、最後にこう言われることがあります。
「いや、そんなにできなくはないよ」
「そこまでひどくないと思う」
「悪く言い過ぎじゃない?」
家族としては「事実」でも、本人には悪口に聞こえる。
この瞬間、面談が“協力の時間”から“攻撃の時間”に感じられてしまいます。
どうして、こういうすれ違いが起きるのか?
私は、ここにはいくつかの要素が重なっていると考えています。
1) 家族は「観察」を話している
家族は毎日見ています。できない日も見ています。
だから「現状の説明」のつもりなんです。
2) 本人は「評価」されているように感じる
しかし本人は、社労士という“他人”の前で、できないことを並べられると、
- 「ダメな人間だと言われている」
- 「そんなに何もできないと思われたくない」
- 「恥ずかしい」
- 「情けない」
と感じやすい。
3) 本人にとっては「できる日」もある
精神疾患には波があるので、本人の中では、
- 「昨日はできた」
- 「今日はまだマシ」
- 「本気出せばできる」
という感覚もあります。
だから家族の話が、「自分の全部を否定された」ように感じてしまう。
4) 家族間で“共有の土台”がないまま、外部の場に出てしまう
家族は困りごとを共有したつもりでも、本人がそれを受け止めきれていない。
すると面談の場で、すれ違いが露出します。
ここで大事なのは、“責める時間”にしないこと
こういうとき、私はできるだけ早い段階で、場の意味を言葉にします。
「今日は責める場ではありません」
「できないところ探しではなく、今の状態を一緒に整理する作業です」
障害年金の審査では、どうしても「困りごと」が中心になります。
それは人格否定ではなく、
- どれくらい生活に支障があるのか
- どこに支援や配慮が必要なのか
を、第三者に伝えるためです。
この言葉を最初に共有するだけで、場の空気はかなり変わります。
本人にお願いしたい「フラットな視点」
本人にとっては本当にしんどい作業なのですが、コツはこれです。
- 「できる日」だけを基準にしない
- 「元気だった頃の自分」と比べない
- ここ最近の“平均”で見てみる
私はよくこう伝えます。
「今日だけは、“いい自分を見せる場”ではなく、
“現状確認の場”だと思ってください」
「ご家族の言葉を、攻撃じゃなく“観察メモ”として聞いてみてください」
ここができると、本人も家族も同じ方向を向きやすくなります。
本人は、普段色々な事ができていない、という事に大きな引け目を感じている事が多いものです。その「できていない」部分を正確に指摘されると辛い、という気持ちが根底にあるという事は意識しておいても良いでしょぅ。
家族にお願いしたい「言い方の工夫」
家族側も、伝え方を少し変えるだけで、本人の抵抗が減ります。
ポイントは3つ。
- 「いつも」「全然」「絶対」を避ける
- 「調子が悪い時は」を付ける
- 事実+期間+頻度で話す(断定しない)
例:
- ×「全然お風呂に入れない」
- ○「調子が落ちている時期は、3日くらい空くことがあります」
- ×「何もできない」
- ○「夕方になると動けなくなって、家事が止まることが多いです」
- ×「いつも寝てる」
- ○「昼過ぎまで起きられない日が週に○回くらいあります」
言い方が変わると、本人の心の防御が和らぎます。
結果的に、必要な情報も引き出しやすくなるんです。
面談前にやっておくとラクになる「家族内ミーティング」
このトラブルを減らすために、私は事前に家族内で5〜10分だけ打ち合わせすることをおすすめしています。
ポイントは、「誰が悪いか」ではなく、面談の目的をそろえることです。
目的はこれです
- 本人を責めるためではない
- 「困っていること」を整理して、生活を守るため
- 言い争いになりそうなら、その場で一旦止める
- できないことだけでなく、「支えが必要な場面」を確認する
打ち合わせの簡単な質問例
- 今日、社労士に一番伝えたいことは何?(本人→家族)
- ご家族から見て、一番困っている場面はどこ?(家族→本人)
- 今日は“評価”じゃなく“整理”の時間、でOK?(確認)
これだけでも、面談の雰囲気はだいぶ良くなります。
受診同行のコツ:「話しすぎない・黙りすぎない」
次に、家族が関わりやすい「受診同行」の話です。
ここも地味に揉めやすいポイントです。
よくあるNGパターン
- 家族が全部しゃべってしまい、本人が置いてけぼりになる
- 逆に家族が黙り、終わってから本人を責める
- 医師の前で本人のダメな部分を強調しすぎて、本人が傷つく
おすすめの型
私は「3ステップ」をおすすめしています。
- 本人がまず話す(短くてもOK)
- 家族は“短い補足”だけ(1〜2個で止める)
- 診察後に振り返り(言えなかったことはメモして次回へ)
家族の補足は、例えるなら“追い打ち”ではなく“補助線”です。
「本人は『大丈夫』と言いがちですが、
調子が落ちると3日くらい入浴が難しいことがあります」
こういう短い補足が一番効きます。
書類・お金のサポートで気をつけたいこと
書類のサポートは「情報整理」が命
家族が手伝いやすいのは、書類そのものより「整理」です。
おすすめは、A4一枚の年表です。
- 年/月
- 出来事(休職、退職、転院など)
- 生活の状態(家事が止まる、外出できない等)
- メモ(家族の観察)
こういう“地図”があると、本人も専門家も迷いません。
お金の話は「額」より「安心」に寄せる
お金の話は感情を刺激しやすいので、第2回ではこれだけ押さえてください。
- 「いくらもらえるか」だけで話さない
- 「どう生活が安定するか」を先に話す
- 「仕事の波をならすクッション」として位置づける
ここを共有できると、第1回の「国のお世話」という抵抗感も薄まりやすいです。
家族が燃え尽きないことも大事
サポートは続かなければ意味がありません。
- 無理なときは「今日はここまで」と言っていい
- すべてを背負わない
- 必要なら第三者に頼る(支援機関、専門家)
家族が倒れると、本人も一緒に沈みます。
「家族の限界」も、ちゃんと守ってください。
当事者社労士として「ありがたい家族の関わり」3つ
最後に、当事者でもあり社労士でもある立場から、実務的に「これはありがたい」と感じる関わり方を3つ挙げます。
① 代弁ではなく「短い補足」をしてくれる
本人の言葉が中心。家族は補足。
このバランスが一番きれいです。
② 「記録」と「年表」を一緒に作ってくれる
本人は波の中にいるので、時系列整理が苦しいことがあります。
そこを手伝ってくれると、準備が進みやすいです。
③ 「できないこと」だけで終わらせず、ねぎらってくれる
手続きは本人にとって精神的に削られます。
だからこそ、
「今日ここまで話せたね」
「一歩進んだね」
この一言が効きます。
おわりに:第3回へ
第2回は、「家族ができるサポート」と「ちょうどいい距離感」についてお話ししました。
- 家族が関われるポイントは4つ
- 「やってあげる」より「一緒にやる」
- できないことの聞き取りは、本人にとって“悪口”に聞こえることがある
→ だからこそ、フラットに現状確認する場にする工夫が大事
次回、第3回では、いよいよ一番こじれやすいテーマ、
「お金の話を、ケンカにならずにする方法」
を扱います。
家計、将来、働き方——ここを落ち着いて話すための“言い方”を、具体例つきで整理していきます。
もしこの記事を読んで、
「家族と話してみたけど、どう言葉にしていいか分からない」
「面談の場で揉めてしまいそうで不安」
と感じた方は、家族だけで抱え込まなくても大丈夫です。
私は春日井市を拠点に、愛知県全域で障害年金のご相談をお受けしています。
必要であれば、第三者として間に入りながら、現状の整理を一緒に進めていくこともできますので、気軽にご相談ください。

愛知県(名古屋・春日井等)を拠点に、岐阜・三重を含む地域で障害年金の請求をお手伝いしている社会保険労務士の渡邊智宏です。自身がそううつ病を経験したことから、病気による生きづらさや不安にも自然と目が向きます。その経験を活かし、一人ひとりの事情に耳を傾けながら、障害年金の手続きをサポートしています。初回の出張相談は無料ですので、「よくわからない」「不安がある」という方も、どうぞ気軽にご相談ください。

