こんにちは。
私は、愛知県春日井市を拠点に、名古屋市をはじめ愛知県全域(周辺地域含む)で、うつ病・双極性障害など精神疾患の障害年金を専門にしている社会保険労務士の渡邊智宏です。
そして私自身も、双極性障害の当事者です。
私の強みは、「制度のプロ」×「当事者の実感」の両方の視点でお話しできること。
制度としての要点や手続きの進め方だけでなく、病気の波の中で「分かっているのに動けない」「言葉にできない」「家族とのすれ違いがつらい」といった現実もふまえて、あなたの状況を整理し、前に進める形にしていきます。

第1回では、家族が障害年金にモヤモヤしてしまう理由(「国のお世話」「レッテル」「将来不安」など)を整理しました。
第2回では、家族ができるサポートの「ちょうどいい距離感」と、面談で「できないこと」を話すと本人が傷つくことがある、というすれ違いの話をしました。
そして今回、第3回はシリーズの中でも最もこじれやすいテーマ、「お金の話」です。
今回の前提は、ここです。
本人は、今すぐ働けない。
働けたとしても、ごく短時間が限界。
むしろ“働けないこと”が現実として大きい。
実際、私のところにご相談に来られる方の多くは、まさにこの状態です。
「働くかどうか」を選べる段階ではなく、生活がすでにギリギリで、家族が支えざるを得ない。
だからこそ、お金の話が怖い。だからこそ、家族の関係が壊れやすい。
今日の記事のゴールはこれです。
「働け」と言わずに、生活を崩さない設計をつくる。
家族の不安と、本人の罪悪感がぶつからない“話し方の型”を持つ。
なぜ「働けない前提」のお金の話ほど揉めるのか
お金の話がこじれるのは、「言い方の問題」だけではありません。
もっと根っこの部分に、感情の“地雷原”があります。
家族側の本音は、冷静さより「恐怖」に近い
働けない状態が長く続くと、家族は心の中でこう思います。
- 「この先ずっと支え続けられるのか」
- 「自分が倒れたらどうする」
- 「親なきあとが怖い」
- 「いずれお金が尽きるんじゃないか」
これは冷たい気持ちではありません。
むしろ、守りたいからこそ出てくる恐怖です。
本人側の本音は「罪悪感」と「防御」
一方で本人は、こういう気持ちを抱えやすいです。
- 「迷惑をかけている」
- 「自分は役に立たない存在なんじゃないか」
- 「働けないことを認めたくない」
- 「お金の話になると責められている気がして、心が閉じる」
そしてここで起こるのが、典型的なすれ違いです。
- 家族の言葉:「現実を見て欲しい」
- 本人の受け取り:「責めないで欲しい」
この状態で言葉が出ると、火種ワードが飛びます。
- 「いつまでこの状態なの?」
- 「働けないの?」
- 「甘えじゃない?」
- 「こっちだって限界だよ」
言った側は「心配してるだけ」でも、言われた側は「人格を否定された」と感じやすい。
だからこそ、ここは根性ではなく、安全装置(ルール)が必要です。
私自身の経験:お金の話し合いが始まると「来た」と身構えてしまう
ここで、少し私の話をさせてください。
私は病気になって働けなくなった時期、両親からお金をもらってやりくりしていた時期がありました。
その頃、両親から「収入と支出、これからのことを一度ちゃんと話そう」と言われたことがあります。
いわゆる「家計の話し合い」です。
このとき、私の心に最初に湧いた感情は、理性的なものではありませんでした。
「来た……」
この一言です。
もうその瞬間に、体が固くなる。緊張感が走る。
“何かを責められる”前から、もう防御態勢に入ってしまうんです。
当然の事ながら、私は普段から不安を感じていました。
「このままどうなるんだろう」「将来は大丈夫なのか」
そういう不安は、いつも頭の片隅にありました。
でも、ここがやっかいで——
不安はあるのに、具体的なことは考えないようにしてしまう。
目を向けたら壊れそうだから、見ない。
見ないままでは良くないと分かっているのに、見ない。
だから、話し合いが必要なのは頭では分かる。
でも、いざ「話そう」と言われると、ものすごく居心地が悪くなる。
しかも当時の私は、自分のお金の使い道を、そこまで正確に把握できていませんでした。
病気の状態が悪い時期は、日常生活を回すだけで精一杯で、家計簿をつける余裕なんてない。
何にいくら使ったかを聞かれても、即答できない。
そうなると、本人側の感覚としてはこうなります。
「詰め寄られている」
両親は責めたいわけではない。心配しているだけ。
でも、聞かれる側の私は、質問そのものがもう負担で、「問い詰められている」「責められている」と感じやすくなっていました。
この経験を通して、今、当事者の方やご家族に強くお伝えしたいことがあります。
お金の話し合いは、それを“するだけ”でも相当な心理的ストレスになる。
だから「話し合いができた」だけでも、まずは合格にしてほしい。
「結論を出せたか」「すぐに改善できたか」ではなく、
まず席に着けた。それだけでOK。
このくらい緩い気持ちで臨んでほしいのです。
まず共有したいルール:「稼ぐ話」より先に「守る話」
今回の前提は「働けない/働けてもごく短時間」です。
この前提で大事なのは、順番です。
1)稼ぐ話を先にしない
2)まず守る話(生活を崩さない設計)から入る
なぜか。
働けない状態の本人に「働ける?」と聞くこと自体が、もう負担だからです。
本人の中には、すでに
- 「働けない自分はダメだ」
- 「家族に申し訳ない」
という思いがあることが多い。
そこに「働ける?」をぶつけると、話し合いは“会議”ではなく“尋問”になりやすい。
だから、こう考えます。
働けない今を、責めない。
働けない今を、戦略として受け入れる。
その上で、生活の土台を作る。
これは「諦め」ではありません。
治療と生活を守るための、現実的な作戦です。
お金の話を安全にする“会話のルール”5つ(家庭で使える)
ここから、会話を安全にするためのルールを整理します。
第2回で「面談で『できないこと』を言われると本人が傷つく」という話をしましたが、お金の話も同じです。
“話題が重いほど、ルールが必要”です。
ルール1:人格評価をしない(「甘え」「怠け」は禁止)
- ×「甘えてるんじゃない?」
- ×「怠けてるだけじゃない?」
- ○「今の体調だと、何が一番しんどい?」
- ○「体調を崩さないためには、どこから守ろうか?」
人格評価が入ると、本人は守るために反発します。
そこから先は話し合いになりません。
ルール2:「結論を出す場」ではなく「整理する場」にする
働けない状態のときは、結論を急がない方が安全です。
- 「今日は現状の整理だけ」
- 「次回、決められるところだけ決めよう」
こう区切ると、本人も家族も耐えやすくなります。
ルール3:時間を区切る(30分で終わらせてOK)
おすすめは30分。長くても45分。
疲れたら中断してOK。
「話し合い=長時間」だと思うと、本人は身構えます。
家族もイライラしやすい。
短く区切って、回数を分ける方がうまくいきます。
ルール4:不意打ちで始めない(予告を入れる)
本人にとって、お金の話は“それだけで緊張が走る”テーマです。
なので、
- 「今日の夜、10分だけ家計の話してもいい?」
- 「日曜の午前中、30分だけでいいから一緒に整理しよう」
こういう予告があるだけで、本人の防御反応はかなり下がります。
ルール5:「できたらOK」の基準を共有する
私の経験からも、ここがとても大事です。
- 「今日は話せたらOK」
- 「紙に書けたらOK」
- 「途中でしんどくなったら中断してOK」
この基準がないと、家族も本人も「結論を出さなきゃ」と焦り、揉めやすくなります。
まず作るのは「生活の最低ライン」——家計を一枚にする
お金の話を「感情」ではなく「設計」にするために、まずこれをやります。
生活の最低ラインを可視化する。
目的は節約ではありません。
「生存ラインを見える形にして、安心の土台を作る」ことです。
生活の最低ライン(テンプレ)
A4一枚に、ざっくりでOKです。
【収入(今あるもの)】
- 障害年金(見込み/受給中):月___円(※2ヶ月分まとめて入る前提でメモ)
- 家族の援助(可能なら):月___円
- その他(手当、貯金取り崩し等):月___円
※ここでは「本人の就労収入」は、あえて“ゼロ”で置いても構いません。
働けるかどうかで揉める前に、まず土台を作ります。
【支出(最低限)】
- 住居費(家賃/ローン):___円
- 光熱費:___円
- 通信費:___円
- 食費:___円
- 医療費:___円
- 日用品:___円
- 返済(あれば):___円
【ここだけは守る(優先順位)】
1位:____(例:家賃、医療費)
2位:____
3位:____
【赤信号ポイント】
- どの費目が増えやすい?(例:医療費、食費、交通)
- どの月が危ない?(例:受診が増える時期、更新前後の不安が強い時期)
【不安の正体】
- 何が一番怖い?(例:家賃が払えない、医療費が増える、親が倒れる など)
「お金の話」を“問い詰め”にしない言い方
ここから、会話が刺さる言葉を「相談の言葉」に変える例を出します。
働けない前提の場合、特に効きます。
火種ワード→相談ワード
NG:いつまでこの状態なの?
→ OK:今いちばん困ってるのって何? 通信費、医療費、食費……どれが一番きつい?
→ OK:今日は結論を出さなくていいから、お金の流れを一回“見える化”しよう。それができたら十分。
NG:働けないの?
→ OK:働けない前提で、生活が崩れない形を一緒に作ろう。
→ OK:治療を優先していい。その代わり、生活の土台は一緒に整えよう。
NG:何に使ってるの?(詰問口調)
→ OK:今月は“最低限”に何が必要だった?
→ OK:細かい把握は今は難しいよね。大きい項目だけ一緒に見よう。
NG:これ以上は出せない
→ OK:家族側の限界も、ちゃんと数字で共有しよう。
→ OK:支え方を“家族だけ”から分散できないか考えよう。
ポイントは、主語を「あなた」ではなく「私たち」に寄せること。
そして“断定”より“質問”にすることです。
障害年金を家計の「主柱」として置く(誤解をほどく)
働けない前提の家計では、障害年金を「補助」ではなく、最初から主柱として置くのが現実的です。
ただしここで、家族にとっての抵抗感が出やすい。
- 「国のお世話になる」
- 「年金に頼ったら終わり」
- 「働かない宣言みたいで嫌だ」
第1回でも触れましたが、ここは誤解が強いところです。
障害年金は「働かない宣言」ではない
障害年金は、本人を甘やかす制度ではありません。
治療と生活を崩さないための安全ネットです。
そして、働けない状態が続くほど、家族は無理をします。
- 経済的に支える
- 生活面で支える
- 感情面でも支える
これが長期化すると、家族が燃え尽きます。
障害年金は、その燃え尽きを遅らせるだけでも価値があります。
ただし「更新の可能性」は踏まえる
一方で、障害年金は「永遠に固定」とは限りません。
更新や支給停止の可能性もあります。
だからこそ、家計の設計では
- 「年金があるから安心」だけで終わらず
- 年金を主柱にしつつ、家族の負担を増やしすぎない設計
を考える必要があります。
「親が支える」だけで終わらせない——家族の負担を減らす設計
ここが、第3回の中でも特に重要な部分です。
働けない状態が長引くと、家族は「支えるしかない」と思いがちです。
でも、それだけだと家族が先に折れます。
だから視点を変えます。
家族の負担を減らす設計を、最初から考える。
家族が燃え尽きやすい3つの負担
- 経済的負担(生活費、医療費、突発費)
- 生活支援の負担(家事、手続き、通院付き添い)
- 感情労働の負担(励ます、見守る、ケンカの仲裁、我慢)
この3つが同時に積み上がると、限界が来ます。
ここで一度、家族側にも「言っていい言葉」があります。
「支える側にも限界がある」
「限界を超えると共倒れになる」
これは冷たさではなく、現実の共有です。
方向性として考えたいこと(制度名を並べすぎない)
具体名を列挙しすぎると混乱するので、方向性だけ挙げます。
- 相談先を確保する(医療機関の相談窓口、地域の支援機関など)
- 生活支援を分散させる(福祉サービスなど家族以外の支援を使う)
- 住まいの方向性を考える(同居が最善とは限らない)
- 医療費の負担を軽くする方向を検討する(自立支援医療や障害者手帳など、相談して選択肢を知る)
- 本人の“生活能力”を維持する工夫(全部やってあげない、できる範囲を一緒に探す)
要は、「家族だけで抱えない」道を、早めに作っておくことです。
家族会議の進め方(30分版・台本)
「話し合いが必要なのは分かる。でも、始めた瞬間に空気が重くなる」
私自身、まさにそうでした。
だから、こっそり台本を用意します。
台本があると、感情の暴走を止めやすいです。
0分〜3分:宣言(ここが一番大事)
- 今日のゴールは 「結論」じゃなく「整理」
- しんどくなったら中断してOK
- 人格評価(甘え・怠け)は禁止
3分〜10分:不安を3つ書く(口ではなく紙)
- 家族:不安を3つ
- 本人:不安を3つ(言えなければ1つでもOK)
※言葉にできなければ「今は無理」でもOKです。
それでも座れただけで合格です。
10分〜20分:生活の最低ラインを埋める
- 収入(年金見込み、援助、その他)
- 支出(住居費、医療費、食費など大項目だけ)
- いま一番守りたい項目を1つ決める
20分〜27分:次の一歩を1つだけ決める
例:
- 次回までに、医療費の領収書をまとめる
- 固定費の一覧を一緒に作る
- 相談先(支援機関)を調べる
- 年金の相談予約を入れる
- “支出の大項目”だけメモする(細かい家計簿は不要)
27分〜30分:ねぎらいで締める
- 「今日はここまでできた」
- 「話せたこと自体が前進」
これ、本当に大事です。
本人は、話し合いそのものがストレスです。
だから「できた」を残して終えるだけで、次回がラクになります。
どうしてもこじれたら:その場で言っていい“合言葉”
話し合い中に空気が悪くなることはあります。
そのときの合言葉を決めておくと安全です。
合言葉例
- 「今、責め合いになってるから休憩しよう」
- 「今日は整理の日。結論は次回」
- 「疲れたから10分休憩」
- 「紙に書こう。口だと刺さる」
合言葉があると、止める人が悪者になりません。
“ルールが止める”形になります。
第三者を入れるタイミング(家族だけで抱えない)
第2回でも触れましたが、家族内でこじれやすいときは、第三者を入れていい。
これは逃げではなく、賢い戦略です。
- 本人が話し合いの場で固まってしまう
- 家族が感情的になってしまう
- 経済的な不安が強すぎて、言葉がきつくなる
- 「親なきあと」の話題で揉める
- 家族が燃え尽きそう
こういうとき、第三者ができるのは「結論」ではなく、
整理
これだけです。
主治医、支援機関、そして私たち社労士。
立場は違っても、役割は「整理する場を作ること」です。
まとめ:話し合いができたら、まず合格
最後に、今日の結論を3つにまとめます。
- 「働けない前提」で、生活の最低ラインを一枚にする
- 障害年金を家計の主柱として置き、生活を崩さない土台を作る
- 話し合いは「結論」より「整理」。話せたらまず合格でいい
私は、働けなくて、両親に支えてもらっていた時期があります。
そのとき「お金の話をしよう」と言われるだけで、身構えて、緊張して、居心地が悪くなる感覚がありました。
だからこそ、今この記事を読んでいる方に伝えたいです。
お金の話は、するだけでストレス。
だから、話し合いができたら、それだけで前進。
“できた”を残して終わっていい。
その上で、少しずつ、生活の設計を作っていけばいい。
焦らなくていい。崩れないことが何より大事です。
もし家族だけで難しければ(ご相談の案内)
「お金の話をすると感情がぶつかってしまう」
「本人が傷ついてしまい、話が止まる」
「生活の最低ラインをどう作ればいいか分からない」
「家族が疲れ切ってしまっている」
こういう場合は、家族だけで抱え込む必要はありません。
私は春日井市を拠点に、名古屋市をはじめ愛知県全域で、精神疾患の障害年金についてのご相談をお受けしています。
必要があれば、家族同席の形で「整理する場」を作るお手伝いもできますので、無理せずご相談ください。

愛知県(名古屋・春日井等)を拠点に、岐阜・三重を含む地域で障害年金の請求をお手伝いしている社会保険労務士の渡邊智宏です。自身がそううつ病を経験したことから、病気による生きづらさや不安にも自然と目が向きます。その経験を活かし、一人ひとりの事情に耳を傾けながら、障害年金の手続きをサポートしています。初回の出張相談は無料ですので、「よくわからない」「不安がある」という方も、どうぞ気軽にご相談ください。

