再審査請求の事件の概要と対策  再審査請求・参加日記【中編】

交通事故

 ◆ 事件の概要

さて、今回、東京に出て再審査請求の口頭審理に出席する事になりました。その道中記は

”厚労省の対応に不服あり!  労働保険審査会・参加日記【前編】”

”いよいよ口頭審理開始!  再審査請求・参加日記【後編】”でご覧下さい。

その事件の内容について、守秘義務にかからない範囲で説明しておきたいと思います。
なお、本人等が解らないようにといった配慮の元での事例発表の許可を受けております。

事件の概要は次のようなものです。


 ◆ 事故

大型のトレーラー(20t)で移動中、突然道路が陥没し、車輪がはまり急停止した。運転中のA氏は、落下と急停止の衝撃により、車内搭載の機械(ETC)に頭を激しくぶつけた。シートベルトは着用、ヘルメットもかぶっていた。

目立った外傷はないが、足が痺れ、自力で立ち上がったり車を運転し続ける事は困難。傘を杖代わりに何とかその日は帰宅するが、翌日、足が痺れて全く動かなくなっていたため、救急車で緊急搬送される。


 ◆ 事故後の経過と労災請求

その後、痺れはとれず、足首の麻痺も残存したまま。約3年以上経過した今も、両足首の麻痺の為、立ち上がる事もできず、屋内では這って、屋外では車いすで移動している。リハビリクリニックも通院を続けている。

事故後、約2年後に治癒として傷害補償給付を請求するが、「体幹から両下肢の局所に神経症状を残すもの」として最低等級の14等級と認定。


 ◆ 審査請求の結論

これを不服として審査請求を行うが、審査の結論は「そもそも残存する傷害は認められない」として等級不該当。その理由は、医師の診断書に「脊髄損傷」と記載されているが、脊髄損傷は「外傷直後の症状が一番強くて、次第に回復する」ものだが、この事件では、事故直後より翌日以降の症状が悪化している。CT、MRI等の画像所見も異常がない。従って、これは脊髄損傷では説明できず、他覚的所見もないので、「後遺障害は認められない」というもの。本来は労働基準監督署長の下した14等級も不該当なので取り消すところだが、審査請求は請求人の有利にする事が目的なので、14級の取り消しは行わない、とした。


 ◆ 事件についての所感

事件の被害者であるA氏は、未だに自分の足で立つ事ができず、車いすでの移動を余儀なくされていて、リハビリ病院にも通い続けているという事実があります。又、労災認定については、国民年金、厚生年金などの障害年金とは異なり、実際に地方労災医員という医師が診断した上で等級が決められます。実際に1人では立つ事すらできないにも関わらず、そんな事実はないと言い切った結果にA氏は非常な憤りをもっています。又、事業主である社長も、この決定には納得がいかず、審査請求時から不服申立をするようA氏に働きかけています。

事件の内容、A氏への聴き取りを続けて行くうちに、結局書面でしかものを見ていないお役所仕事と、何かと理由をつけて支給額を抑えようという意図が透けて見え、怒り心頭に発っします。


 ◆ 基本方針

再審査請求をするに辺り、方針としては、まず事故を契機に、事実として歩く事はもちろん、立つ事もできずに苦しんでいる、という現実をまず見て欲しいということを掲げました。

正直、画像所見等がない事から、請求時に14級だったのは「お役所仕事」である労基署の性格上、やむを得ないと思ってしまいます。しかし、それを何とかする役目である審査請求においてこのような判断が下った事には怒りしか感じません。

審査請求では、一般的な脊髄損傷の症状にぴったり適合するか否か、にしか焦点が当たっておらず、A氏が立てようが立てまいが関係ない判断でした。本当に脊髄損傷ではないのか。又、仮に脊髄損傷でなかったとするなら、その他の可能性について考えられないのか、という2点が現実的な対応となります。


 ◆ 本当に脊髄損傷ではないのか?

まず、本当に脊髄損傷に当たらないのか、については、過去の裁判例に助けを求めます。

やはり脊髄損傷というのはこれまでにも争点となっているようで、調べてみると今回とほぼ同じような症状でも、脊髄損傷を否定まではできない、として認められているケースが多数見られました。

そうした過去の例などを引きながら、今回の件も、必ずしも脊髄損傷を否定するような積極的な証拠はない、と主張しました。


 ◆ 脊髄損傷以外の可能性を求めて

次に、脊髄損傷以外の可能性についても検討してみました。

すると、頭を強打しているので、画像には映らない微細な傷がついて麻痺などの傷害が残るという症例で労災が認められているという事例がある事が解りました。こうした他の疾病の可能性がある以上、単に脊髄損傷を否定したからと言って労災の等級に該当しないと言い切る事はできない、と主張しました。


 ◆ 通達ではなく、「現実」を見て!

もう少し専門的に言うと、労災の各種補償の支給の法律的要件は、労働基準法の災害補償の規定を満たしていれば良いという事。そして、労働基準法上の傷害補償の法律的根拠を述べ、今回の事件がその支給の要件を満たしているという事を述べました。今回の等級認定の根拠は、実は法律ではなく、厚生労働省内の内部規律文書である「傷害認定基準」という通達でしかありません。あくまで通達でなく法律で、そして傷病名にとらわれる事なく、「現実の状態」を見て判断して欲しい、という事です。

これらの主張がどのような結果をもたらしてくれるのかは解りません。結果が出るのにはまだ数ヶ月を要します。なんとか良い結果が出て欲しいと祈ってやみません。
次回、後編ではいよいよ口頭審理に向かいます。





つづく・・・。



実際の口頭審理については
”厚労省の対応に不服あり!  労働保険審査会・参加日記【前編】”

”いよいよ口頭審理開始!  再審査請求・参加日記【後編】”
でご覧下さい。

 

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