パワハラの公式見解発表  会社としてできる事/やらなくてはならない事

昨日のNHKニュースでも報じられていましたが、パワーハラスメントについて、初めて行政が定義を発表しました。
それによりますと、

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。

となっています。

パワハラの定義のポイント

ここでのポイントは、

(1) 職場内の優位性を背景
(2) 業務の適正な範囲を超え

の二つが重要でしょう。

まず、(1)についてですが、「職場内の優位性」と言う事は、必ずしも「上司⇒部下」だけを意味しないという事です。
ここで言う優位性とは部長や課長などの職務上の「地位」に限りません。人間関係や専門知識などに基づく優位性なども含むとされており、例えば、先輩・後輩関係同僚同士に加え、部下⇒上司でも成り立ちます。

例えば、年上の部下や古株社員など、職場の人間関係や専門知識などで支配的な立場にある人ににらまれる気弱な上司というような事も考えられます。
「パワハラ」と言った時に、「上司の暴言」というような固定的な発想だけでなく、より広い範囲で考える必要があるという事です。



次に、(2)についてです。
どれくらいの事をしたらパワハラになるのか、という事の指針です。
パワハラの具体例として、本人の能力からすると相当に低いレベルの仕事をやらせる、というものも含まれています。では、どんな場合でも本人の能力に見合った仕事以外はさせてはならないのかと言えば、そうではありません。あくまで業務の適正な範囲内であれば仕方がないという判断になります。例えば、トイレや事務所の掃除といった事は日常的に職場でも行っていると思います。そういった仕事が自分の能力に見合っているとはいえないというケースが多いと思います。しかし、普通の状況であれば、事務所をきれいにするという事は必要な仕事と考えられますから、「業務の適正な範囲」内であると考えられます。
一方で、他にも社員がいるにも関わらず、その人だけに押しつけたり、制裁的に行わせる、となると業務の範囲とは言えなくなってきます。
あくまで仕事に必要な範囲内であるかどうか、という視点が大切となってきます。




パワハラの具体例

では具体的にどういった行為がパワハラに当たるのか、という点について、さらに詳しく見ていきます。

厚生労働省の発表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によれば、パワハラは以下の6つの類型に分ける事ができます。

1 暴行・傷害(身体的な攻撃)
2 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

この中で、1の暴行・傷害や2の脅迫・名誉毀損・暴言などは程度によっては犯罪行為になってしまいます。議論の余地なく「業務の範囲外」と言い切れます。
3の隔離や無視と言った行為も、度が過ぎれば人権問題に発展し得ます。また、仕事上必要であるとは言えませんから、ほとんどの場合「業務の範囲外」と言えそうです。

難しいのは4~6でしょう。
4、5は仕事の内容個人の能力の問題です。

できそうもない仕事をやれと命じられた方は、「ひどい話だ、パワハラだ」と感じるかもしれませんが、会社としてはそれは難しくても実行しなければならないプロジェクトかもしれません。仕事内容と能力のバランスになりますので、簡単な線引きは難しくなってきます。
6の私的な事への干渉となると、相当微妙な問題となってきます。どこまでが過度なのかも仕事によって違ってくるでしょう。例えば、医師という緊急性を伴う仕事であれば、休日にどこにいるのか、といった私的な事まで把握されている必要もでてくる事もあります。

そうして考えていくと、明らかに犯罪的行為以外については、いくら定義が発表されたと言っても、その判断はケースバイケースであるという事に変わりはなさそうです。
ただ、かなり大々的に報道され、厚生労働省も力をいれているようですので、今後、パワハラの被害者が訴え出てくる可能性は高くなったと思います。



パワハラが起こる事で・・・

ひとたびパワハラとなれば、大切な社員の能力が十分に発揮できなくなってしまいます。パワハラを受けている人は言うに及ばず、周囲の人も嫌な空気を味わいます。また、パワハラをしている側の人も、他人に対してそれだけ強く当たるという事は、何か自分自身も大きなストレスを受けているという可能性もあります。パワハラが起きているという事は、会社の中でパワハラ以外の何か別の問題が発生している可能性も示唆しているのです。
さらに、パワハラが契機となってウツと言ったメンタルヘルスにまで問題が波及してしまう事も往々にしてあります。そうなってくると、会社のパフォーマンスが十分に発揮できないというような生ぬるい問題ではなくなってきます。ウツになってしまえば、仕事自体ができなくなってしまいますし、周囲の人間に与える影響も相当に大きくなります。パワハラをしている人の事を周りの人は恐れるようになるでしょう。「嫌な職場」の誕生です。そうなってしまうと、社員はブラック会社に勤めているという認識になってしまい、関係のない人材まで辞めてしまう可能性があります。


そうした人間関係の問題以外にも、裁判などで訴えられて損害賠償請求されるというケースも考えられます。
ここまでくると、対外的な信用問題にまで発展しますし、実際の金銭賠償も行わなければならなくなります。この賠償問題は、単にパワハラをした人と受けた人という単純な構造ではありません。
安全配慮義務と呼ばれる、社員に安全な職場を提供する義務を会社は負っています。これは労働者を雇っている会社はすべて負っている義務ですが、パワハラでうつ病や自殺などが発生すれば、この義務をしっかりと行っていないとされ、パワハラをした人だけでなく会社にも責任ありと判断される事もあります。もちろん、パワハラをした本人にも個人責任が課せられる場合があり、そうなってくると会社内の空気は相当に重苦しいものになってしまうでしょう。




パワハラ防止のために会社ができる事

そこで、会社としてできる対策を考えていく必要があります。
いきなり会社内の人間関係を円滑にする、と言っても一朝一夕にはいきません。まずはできる事からコツコツと。

簡単にできる事として、会社として、又は社長がトップとして、我が社ではパワハラは許しません、という態度を表明する事です。社内報や朝礼、または就業規則など、会社としての姿勢を示す場面はいくつかあります。そういう場で、正式に「パワハラを許さない」という態度を明確にする事から始まります。

次のステップとしては、どういう場面がパワハラになるのか具体例を考え、それを社員に周知する事です。
先ほども見たように、仕事と能力の問題や私生活についてなど、各会社や部門によって事情は異なってきます。自分の会社ではどういう場面が該当するのかという事をはっきりさせなければ、防ぐ事はままなりません。例を示す事で、社員の意識を喚起する事が必要です。

さらに踏み込むなら、パワハラについての研修などを行う事を考えましょう。
単にパワハラ防止研修として行うよりも、スキルアップ研修やマネジメント研修などの研修の中に取り入れるとより効果的です。こうした研修を受講する人たちというのは、人事上、技術上優位な立場に立つ人材です。自分をアップグレードする一環として、自分が周囲に対して強い力を与える可能性があるという事を自覚してもらう事でパワハラの防止につながります。

この他にも専門の相談窓口の設置や専門機関の利用などの方法もありますが、そうしたものも、実際の解決手段という側面もありますが、パワハラを許さないという会社の意思表示という効果も大きいと思われます。
ちょっとした気遣いをできるかどうかで威圧的な態度を思いとどまったり、そういう振る舞いをする人をいさめる事ができたりします。

結局のところは人間関係の問題です。注意の喚起という単純な方法が最も重要な対策となります。また、そうした啓発活動であれば大きな費用もかかりません。逆に手間も費用もかからないにも関わらず放置していたとなると、会社側の責任も大きいと判断されかねません。そういう意味では、これらの対策は、「会社としてできる事」でもありますが、「会社としてやらなければならない事」でもあります。
大きな問題にならないうちに解決を図っていく事が快適な職場づくりのためには大切な事だと思います。

 

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