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【うつ病体験談】働きながら障害年金はもらえる?“無理して出勤する”あなたに、当事者社労士が伝えたい3つの選択肢

2025-09-17

「もう限界だ…。でも、生活のために、仕事を辞めるわけにはいかない」
「周りには元気なフリをしているけど、本当は毎日、心をすり減らしながら出勤している」

あなたは今、そんな風に一人で痛みを抱え、無理をして笑顔の仮面を被っていませんか。

こんにちは。双極性障害(躁う-病)の当事者として絶望の淵をさまよい、現在は愛知県春日井市で障害年金を専門とする社会保険労務士として活動している渡邊智宏と申します。

かつての私も、あなたと全く同じでした。先の見えない不安の中、「働き続ける」ことの苦しさと、「働かなければならない」というプレッシャーの、出口のない板挟みになっていました。

この記事では、「働きながら障害年金を受給する」という選択肢が、いかにあなたの心と生活を守るための賢明な戦略であるか。そして、その先にある新しい働き方の可能性について、私自身の赤裸々な体験と専門家の視点の両方から、徹底的に解説していきます。

障害年金は、仕事を辞めるためだけの制度ではありません。あなたが、あなたらしく働き続けるための、何より力強い「お守り」になるのです。

〈目次〉

 

【結論】うつ病で働きながらでも、障害年金はもらえます。ただし・・・

まず、あなたの最大の疑問にお答えします。

結論から言えば、うつ病などの精神疾患で働きながらでも、障害年金を受給できる可能性は十分にあります。実際に、働きながら受給している方は、たくさんいらっしゃいます。

しかし、ここには非常に重要で、デリケートな注意点があります。
それは、請求において「あなたの働き方の“実態”を、いかに正しく、そして戦略的に伝えるか」という、専門的な技術が不可欠になる、ということです。

安易に「働いています」とだけ伝えてしまうと、「なんだ、働けるくらい元気なんだな」と判断され、不支給という厳しい結果に繋がる危険性が非常に高いのです。

 

【私の体験談】「働くこと」に絶望し、再び希望を見出すまで

本題に入る前に、少しだけ、私の話をさせてください。
なぜなら、これからお話しする制度の解説は、この私の原体験と深く結びついているからです。

うつ病と診断されても、辞められなかった会社

私自身もかつて躁うつ病(双極性障害)と診断され、働けなくなるという経験をしました。病気になった当初は、うつ傾向が強く、働く事がとても辛い状況にありました。しかし、うつ病と診断されたからといって、すぐに仕事を辞めるわけにはいきません。生活は、仕事の給料で成り立っている。その大前提がある以上、「辞める」という選択肢は、現実的ではありませんでした。

それに、当時はまだ、この病気がこれほど長く続くものだとは思っていませんでした。「少し休めば、また元通りに働けるはずだ」という、今思えば甘い希望的観測を抱いていたのです。

しかし、病状は待ってくれません。朝、目が覚めた瞬間に襲ってくる、絶望的な倦怠感。「もう今日は、仕事に行けない・・・」そう思いながらも、必死に体を起こし、会社へ向かう。しかし、どうしても耐えられない日もある。そんな日は、「体調不良」を理由に欠勤する。気づけば、欠勤日はどんどん増えていきました。出社しても、強い不安感で仕事に全く集中できない。そんな日々が続いた結果、私は上司に呼び出されました。

「正社員から、アルバイト待遇にならないか」

自由に休まれては困る。アルバイトなら、出勤日を調整しやすいだろう。体調が戻ったら、また正社員に戻ればいい。
一見、温情にも聞こえるその提案が、私には「戦力外通告」のように響きました。しかし、冷静に考えれば、会社側の言い分も分かります。いつ休むか分からない人間を雇い続けるリスク。そして、私自身も、頻繁に休むことで周囲に迷惑をかけているという罪悪感に、押しつぶされそうになっていました。

「もう、この会社にしがみつくのはやめよう」
そう思った日、ちょうど通院日だったので、医師に相談しました。すると、「一旦、休職して仕事から離れることを勧めます」と言われ、そこで初めて「傷病手当金」という制度の存在を知ったのです。働かなくても、一定期間、収入が確保される。その事実が、私の心を決めました。
「一旦、仕事を辞めよう。療養に専念し、元気になったら、また社会復帰すればいい」
そう、単純に考えていたのです。

 

3日でクビに・・・失われた「働く自信」

実際に退職し、傷病手-当金を受給しながらの療養生活が始まりました。しかし、生活は苦しいまま。社会復帰への焦りだけが募っていきました。

退職から1年ほど経ったある日、知人から「税理士事務所で、簡単なデータ入力のアルバイトをしないか」と声をかけられました。病気のことも知ってくれているし、単純作業なら無理なくできるかもしれない。一縷の望みをかけて、私はその仕事を引き受けました。

しかし、それは、私の「働く自信」を完全に打ち砕く、決定的な出来事となりました。

いざ仕事を始めてみると、簡単なはずの作業が、全く進まないのです。
分からないことにぶつかると、途端に思考が停止し、手が固まってしまう。隣の人に聞けば済む、ただそれだけのことができない。頭の中を、不安と焦りだけがぐるぐると駆け巡る。

自分でも愕然とするほど、仕事ができないのです。
そして、働き始めてから、わずか3日後。
私は呼び出され、「明日から、来なくていい」と、静かに告げられました。

不思議なことに、その言葉を聞いた瞬間、私は心の底から「ホッとした」のです。
こんな状態で働き続けることへの耐えがたい罪悪感から、ようやく解放された。クビにしてくれて、助かった。本気で、そう思いました。

この経験で、私は働くことにすっかり臆病になり、その後、何年にもわたる完全な引きこもり生活へと、沈んでいくことになったのです。

 

私が選んだ「自営業」という道と、障害年金3級の現実

数年の時が経ち、少しずつ病状が改善してきた頃、私は再び社会復帰を考え始めました。そして選んだのが、今の仕事である「社会保険労務士」です。

なぜ、この仕事を選んだのか。
理由は、「自営業」だからです。
良くなったとはいえ、体調の波は激しい。「今日は動けない」という日が、頻繁にありました。決まった時間に、毎日出社するサラリーマンは、もう絶対に無理だという自覚がありました。

  • 仕事の量を、自分でコントロールできる。
  • 働く時間を、自分の裁量で決められる。

この2点こそが、私が社会復帰するための、絶対条件だったのです。

こうして、私は障害年金の専門家として、仕事を始めました。自分の経験が、誰かの役に立つ。それは、大きなやりがいでした。しかし、働き方は、サラリーマンの兄から「遊んで暮らしている」と揶揄されるような、特殊なものでした。

仕事を始めたばかりの頃は、週に2、3日程度の稼働に抑える。朝、調子が悪ければ、夕方から仕事をする。打ち合わせの予定は、過密にならないよう、自分で調整する。それでも、たまに1週間びっしりと仕事が詰まってしまうと、途端に心身のバランスが崩れ、日常生活がガタガタになりました。

そんな状況の中、私は、自分自身の障害年金の請求を行いました。
働きながらの、請求です。

当然、審査では「就労」の状況が大きなポイントになります。
私は、主治医の先生に、自分の働き方の実情を、ありのままに伝えました。
「社会保険労務士として働いてはいるが、それは自営業だからこそ成り立っている。サラリーマンのようなフルタイムでの就業は、到底不可能です」と。

幸い、先生はその状況を深く理解し、診断書に「フルタイムの就業はできない」という趣旨の一文を書き添えてくれました。
その結果、私は「障害厚生年金3級」を受給することができたのです。

これが、私が病気と共に「働く」ということを、もがき苦しみながら見つけ出してきた、偽らざる実態です。

 

【専門家解説】なぜ「働いている」と不利になる?審査官が見ている“5つのポイント”

さて、私の体験談からも分かるように、「働きながら」の申請は非常にデリケートです。では、なぜ「就労」の事実は、審査でそれほど厳しく見られるのでしょうか。
それは、障害年金の等級が、「労働がどれくらい制限されるか」という基準で、明確に定義されているからです。

  • 障害厚生年金3級: 労働が著しい制限を受ける程度のもの
  • 障害厚生年金2級: 労働によって収入を得ることができない程度のもの

この定義に照らし合わせた時、あなたが「普通の働き方」をしていると見なされれば、等級に該当しない、と判断されてしまうのです。審査官は、あなたが提出する書類から、以下の5つの客観的なポイントを総合的にチェックし、あなたの「労働能力」を判断しています。

 

①雇用形態:正社員とアルバイト、その意味の違い

正社員か、パート・アルバイトか、あるいは障害者雇用か。これは、あなたの労働強度を測る最初の指標です。私の例で言えば、「正社員からアルバイトへ」という会社からの提案は、責任の重さや拘束時間の観点から、労働能力が低下していることを示す一つの材料になります。

 

②勤務状況:タイムカードに映らない「実態」

週何日、1日何時間の勤務か。これは基本ですが、それだけではありません。頻繁な遅刻や早退、欠勤はないか。時短勤務をさせてもらっていないか。雇用条件の数字だけでは見えない「実態」が重要です。私が正社員時代に欠勤を繰り返していた事実は、フルタイムで働ける能力がなかったことの証明になります。

 

③業務内容:責任の重さと、必要なサポート

責任の重い仕事か、単純作業か。他の人の助けなしに、一人で業務を完遂できているか。私が税理士事務所で挑戦した「単純なデータ入力作業」ですら遂行できなかった事実は、私の就労能力が著しく低下していたことを示す、何よりの証拠でした。

 

④収入:給与額が示す労働能力

同じ職場で、同じような仕事をしている健常者と比べて、給与額に差はないか。著しく低い場合は、それ相応の働きしかできていない、と判断される材料になります。

 

⑤職場の配慮:特別なサポートはありますか?

病気のことを職場に伝え、業務量を減らしてもらったり、定期的な面談があったりといった、特別なサポートを受けているかどうかも非常に重要です。これらは、あなたが「配慮なしでは働けない」状態であることを示します。

 

【最重要】「出勤できている ≠ 問題なく働けている」この違いをどう伝えるか

ここまで、審査でチェックされる客観的なポイントを解説しました。しかし、これだけでは不十分です。
当事者である私が、あなたに最も強くお伝えしたい、この記事の核心。それは、

「会社に出勤できている」という事実と、「問題なく働けている」という状態は、全くの別物だということです。

審査官に伝えなければならないのは、タイムカードや給与明細といった数字の裏に隠された、あなたの「見えない努力」と「ギリギリの状態」なのです。

  • 出勤前の現実: 毎朝、鉛のように重たい身体と戦い、吐き気と闘いながら、なんとかギリギリで玄関のドアを開けているのではないですか?
  • 勤務中の現実: 落ち込んだ気分の中、周りに悟られないよう必死に笑顔の仮面を被り、ボーッとする頭でミスのないよう、人の何倍も神経をすり減らしていませんか?
  • 帰宅後の現実: 仕事で全てのエネルギーを使い果たし、家に帰った途端に倒れ込み、食事も入浴もできず、ただ泥のように眠るだけの日々を送っていませんか?
  • 休日の現実: 平日の無理がたたり、休日は一日中ベッドから出られず、ただ回復のためだけに時間を費やしてしまっていませんか?

これらのリアルな実態を医師に伝え、診断書に具体的に書いてもらうこと。そして「病歴・就労状況等申立書」という書類で、あなた自身の言葉で具体的に書き記すこと。

これこそが、申請の成否を分ける、最も重要な鍵となるのです。
私たちの病気は、伝えなければ、伝わらない。このことを、どうか忘れないでください。

 

あなたの未来を守る“3つの働き方”という選択肢

障害年金を受給することは、ゴールではありません。
それは、あなたがこれからの人生を、より自分らしく、穏やかに生きていくためのスタートラインです。年金という経済的な基盤を得ることで、あなたの働き方の選択肢は、大きく広がります。

 

選択肢①:「今の職場」で働き方を変え、年金というお守りを手に入れる

もし、あなたが今の職場を辞めたくない、あるいは辞めることが難しいと考えているなら、「働き方を見直す」ことを条件に、現在の仕事を続けながら障害年金3級を目指す、という道があります。

ここで重要なのは、「これまで通り無理をして働き続ける」のではない、ということです。
そのままの状態で請求しても、「問題なく働けている」と判断され、不支給になる可能性が非常に高いからです。

目指すべきは、会社と相談し、あなたの病状に合わせた「特別な働き方」を実現すること。そして、その「配慮された状態」を客観的な事実として示し、障害厚生年金3級の基準である「労働に制限がある状態」だと認めてもらうことです。

▼会社に相談・交渉すべき「働き方の見直し」具体例

  • 勤務時間の短縮: フルタイム勤務から、時短勤務(例:1日6時間勤務など)に切り替えてもらう。
  • 業務内容の変更: 責任の重い部署や、顧客対応が多い部署から、より負担の少ない単純作業や後方支援の部署へ異動させてもらう。
  • 労働日数の調整: 週5日勤務から、週3~4日勤務など、出勤日を減らしてもらう。
  • 在宅勤務の活用: 通勤の負担を減らすため、在宅勤務が可能な日を設けてもらう。
  • 明確なサポート体制の確立: 定期的な上司との面談、業務の指示を一つひとつ明確にしてもらう、困った時にすぐに相談できる担当者を決めてもらうなど、職場内でのサポート体制を文書などで明確にしてもらう。

これらの交渉は、決して簡単なことではありません。しかし、障害年金という「月数万円の安定収入」というお守りを手に入れることは、長期的に見れば、あなたの心と生活を支えるための、非常に大きな価値があります。

年金というセーフティーネットがあることで、「もしこれ以上働けなくなっても、すぐに収入がゼロになるわけではない」という絶大な安心感が生まれます。その心の余裕こそが、あなたの病状を安定させ、結果的に仕事を長く続けるための、何よりの力になるのです。

会社にどう相談すればいいか、どのような配慮を求めれば等級認定に繋がりやすいか。それも含めて、あなたの状況に合わせた最適な戦略を、私と一緒に考えていきましょう。

 

選択肢②:「障害者雇用」で、2級を目指し心と生活を再建する

選択肢①でお話しした「今の職場で働き方を変える」というアプローチ。これを、さらに一歩進め、より強固な会社のサポート体制と、国の制度に則った形で実現するのが、「障害者雇用」という働き方です。

会社との個別の交渉による配慮は、担当者や上司の異動によって、いつ覆されるか分からないという不安が残るかもしれません。それに対し、障害者雇用は、「障害のある社員を、特別な配慮をもって雇用する」ことが、会社側の“義務”として法律で定められている制度です。

つまり、あなたが必要とするサポートが、個人の善意や温情ではなく、会社の正式な制度として保障されるのです。

この「障害者雇用」という選択は、障害年金の申請においても、極めて大きな意味を持ちます。

  • メリット: 会社側があなたの病状を理解し、合理的配慮(時短勤務、業務量の調整、通院への配慮など)を制度として提供してくれます。そして、この「十分な配慮がなければ働けない」という客観的な事実が、障害年金2級(労働によって収入を得ることができない状態)に該当する可能性を、大きく引き上げるのです。一般雇用でフルタイム勤務をしながら2級を目指すのは至難の業ですが、障害者雇用であれば、その道が現実的な選択肢として開かれます。
  • 当事者としての視点: 障害者雇用に切り替えるには、障害者手帳の取得が必要であり、自分の病気をオープンにし、「障害者」であるという事実をご自身が受け入れるという、大きな心理的ハードルがあります。これは、決して簡単な決断ではありません。相応の覚悟が必要になるでしょう。
    しかし、それによって得られるメリットは計り知れません。障害者雇用による給与に、障害年金2級という手厚い経済的基盤を加えることで、生活の安定度は飛躍的に向上します。何より、病気への理解がある職場で、再発のリスクを抑えながら安心して働き続けることができる。それは、あなたの人生を本格的に再建するための、最高の環境と言えるのではないでしょうか。

現在の職場で、雇用形態を「一般雇用」から「障害者雇用」に切り替えてもらう交渉をする道もあります。あるいは、一度退職し、社会復帰の第一歩として、新たな職場で障害者雇用枠での就職を目指すのも賢明な選択です。

どちらの道を選ぶにせよ、障害者雇用は、あなたの心と生活を守るための、最も強力な選択肢の一つです。

 

選択肢③:「自営業」という、私が選んだ道

会社という組織に合わせるのが難しいと感じるなら、私自身がそうであったように、「自営業(フリーランス)」という道もあります。

  • メリット: 自分の体調の波に合わせて、働く時間や量を完全にコントロールできます。これは、生活リズムが不規則になりがちな私たちにとって、何物にも代えがたいメリットです。
  • 専門家としての注意点: ただし、自営業は「働けている」と判断されやすく、障害年金の審査では不利になる可能性も否定できません。だからこそ、私のように「どのような業務を、どれくらいのペースで、どのような制約の中で行っているか」という実態を、専門家の視点から客観的かつ論理的に説明する技術が、より一層重要になるのです。

 

まとめ:あなたの“働き方”に合わせた、最適な申請戦略を一緒に考えましょう

ここまで、「働きながら障害年金をもらう」ための、3つの具体的な選択肢についてお話ししてきました。
この記事を読んで、あなたはただ「もらえる可能性がある」というだけでなく、それがあなたの未来を主体的に選び取るための、極めて戦略的な選択であることを、ご理解いただけたのではないでしょうか。

改めて、3つの戦略を整理してみましょう。

  • 戦略A:【防衛策】今の職場で働き方を変え、障害年金3級という「お守り」を手に入れる。
    会社と交渉し、勤務時間や業務内容に明確な「制限」を設けてもらう。今の生活基盤を守りながら、心のセーフティーネットを構築する、最も現実的な選択肢です。
  • 戦略B:【再建策】「障害者雇用」に切り替え、障害年金2級という「経済基盤」を築く。
    会社の制度として、あなたの障害への配慮を確約してもらう。心身の安全を最優先にしながら、より手厚い経済的保障を得て、人生を本格的に再建していくための、最も強力な選択肢です。
  • 戦略C:【自律策】「自営業」として、自分のペースで働き、障害年金3級で生活を補強する。
    私自身がそうであったように、働く時間も量も、すべて自分の裁量で決める。自由と責任の中で、病と共存しながら自分らしい生き方を模索する、最も主体的な選択肢です。

どの戦略を選ぶべきか。正解は、一つではありません。
あなたの病状、職場の環境、そして何より、あなたがこれからの人生で何を一番大切にしたいかによって、最適解は全く異なります。

そして、どの戦略を選ぶにせよ、そこには共通の、そして最も重要な課題があります。
それは、「あなたの働き方の実態と、そこに存在する“制限”を、専門的な言葉で客観的に証明する」という、極めて高度な技術が求められる、ということです。

医師への的確な情報提供、審査官を納得させる申立書の作成・・・。
これらを、体調が万全でないあなたが、たった一人で、完璧にやり遂げるのは、あまりにも過酷な道のりです。

だからこそ、どうか一人で抱え込まないでください。
あなたの状況を深く理解し、あなたに代わって戦略を練り、あなたと共に診断書を創り上げていく。それが、専門家であり、同じ痛みを分かち合う同志である、私の役割です。

私が提供するのは、単なる書類作成の代行ではありません。
あなたの人生の、次のステージに向けた「働き方のコンサルティング」であり、あなたが安心して治療に専念できる環境を整えるための、総合的なサポートです。

まずは、あなたがどの選択肢に可能性を感じるのか、あるいは、どの選択肢も選べずに途方に暮れているのか、その正直な気持ちを、私に聞かせてください。

その第一歩が、あなたの未来を、きっと明るく照らしてくれるはずです

絶望の淵から、あなたの隣へ。私が、うつ病の経験を武器に障害年金の専門家(社労士)になった本当の理由【愛知県春日井市】

2025-09-08

「なぜ、この仕事をしているのですか?」

ご相談に来られたお客様から、時々、そう尋ねられることがあります。その問いに答えることは、私の人生そのものを語ること。それは、一度は社会からドロップアウトし、絶望の淵をさまよった一人の男が、いかにして再び立ち上がり、「かつての自分」と同じように苦しむ誰かのための光になるという使命を見つけたかの物語です。

こんにちは。愛知県春日井市で、うつ病や双極性障害など、精神疾患の障害年金を専門とする社会保険労務士の渡邊智宏です。そして、あなたと同じように、双極性障害(躁うつ病)という病と共に生きる一人の当事者でもあります。

この記事は、単なる私の経歴紹介ではありません。
もしあなたが今、病によって光を見失い、社会から取り残されたような深い孤独の中にいるのなら。この物語は、他の誰でもない、あなたのための物語でもあります。

どうか、少しだけ。私の、そして「あなたの」物語にお付き合いください。

〈目次〉

 

【第1章】失われた光:仲間と追いかけた夢、そして燃え尽きた心

若き日の挑戦と、手酷い洗礼

平成12年8月、私は新卒以来勤めてきた会社を退職しました。理由は、今振り返れば典型的な、しかし当時は逃げ出すことしか考えられなかった、激しいパワハラと過酷な労働環境でした。休みはなく、帰宅はいつも深夜。上司からの執拗な叱責と人格否定的な暴言が、若い私の心を少しずつ蝕んでいきました。

「このままでは、壊れてしまう」

その一心で下した、苦渋の決断は退職でした。しかし、不思議なことに、この経験が直接、今の病気に繋がったわけではないのです。半年もすると、ストレスから解放された心は回復し、再び社会復帰を志す気力が湧いてきました。

公務員試験に挑戦したり、知人の会社でお世話になったり・・・。紆余曲折の末に私が選んだのは、「起業」という、最も挑戦的な選択肢でした。会社員時代の知人と共に、Web関連の会社を立ち上げたのです。

希望に燃えていました。技術力のある協力会社とタッグを組み、自分たちは営業と管理に専念する。完璧な計画のはずでした。しかし、現実は非情です。その協力会社の技術力に、致命的な欠陥があることが判明。事業の根幹が、もろくも崩れ去りました。

行き詰まりは、人間関係をも蝕みます。社内の空気は急速に悪化し、4人いたはずの創業メンバーは、気づけば私を含め2人だけになっていました。

売るべきものがない。仲間もいない。途方に暮れた私たちは、生き残るために、自分たちでWeb制作の技術を1から学ぶことを決意します。デザインだけは外注し、それ以外は全て内製化する。悪戦苦闘の末、なんとか食べていけるだけの売上は立つようになりました。しかし、それは自転車操業のような、苦しい日々の始まりでもありました。

 

避けられなかった挫折、そして心の穴

経済的に苦しい状況は、数年続きました。そして、ついにその時が訪れます。私が手塩にかけてきたWeb制作事業は、私自身ごと、別の会社に移籍(事実上の事業売却)することになったのです。

起業家の端くれから、再び一人のサラリーマンへ。
今思えば、これこそが、私の心の歯車が狂い始める、決定的な瞬間でした。

売上が乏しいとはいえ、それは仲間と悪戦苦闘しながら、ゼロから育て上げてきた、我が子のような会社でした。それを手放した時の喪失感は、私の心に、ぽっかりと大きな穴を開けました。

仕事をすることは、生き抜くための「戦い」だった。それが、ただ漫然と時間を過ごしていれば給料がもらえる「作業」に変わってしまった。目標を失った心は、いわゆる「燃え尽き症候群」のような状態に陥っていました。

 

忍び寄る心の闇、そして不本意な「宣告」

この喪失感が、私の精神を静かに、しかし確実に蝕んでいきました。
追い打ちをかけるように、移籍先の会社での人間関係がこじれてしまったのです。

最初に現れたサインは、朝、目が覚めた瞬間に襲ってくる、強烈な拒絶感でした。
「会社に行きたくない」
いいえ、もっと正確に言えば、「行けない」のです。体が鉛のように重く、心が「もうダメだ」と悲鳴を上げる。起きた瞬間に、出勤できない、と強く感じてしまったのです。

そうして、会社を休む日が増えていきました。
2日連続で欠勤した後、出社した私を待っていたのは、上司からの「メンタルクリニックへ行ってこい」という、冷たい命令でした。

当時の私は、それが適切な配慮であるとは到底思えませんでした。「なぜ自分が・・・」という強い不信感と屈辱感。しかし、逆らうことはできず、不本意ながらクリニックの門をくぐりました。

そして、下された診断。
「うつ状態です」

平成18年の秋。それが、私の長い闘病生活の始まりでした。
当初は、その診断を受け入れられませんでした。しかし、症状は日に日に悪化していく。会社に行けない日が増え、家にいても、どうしていいか分からない。ただ、得体の知れない強い不安感だけが、四六時中、私を支配するようになっていきました。

もはや、自分の病気を認めざるを得ませんでした。

 

【第2章】終わらないトンネル:退職、引きこもり、そして“最後の砦”の崩壊

光の差さない部屋で考えたこと

そんな不安定な生活の中、会社から「正社員からアルバイトにならないか」という提案を受けます。「その方が休みやすいだろう」という、一見、優しさに見える言葉の裏に、「もう君は必要ない」という冷たい響きを感じ取った私は、退職を決意しました。

「これで、全てのストレスから解放される。きっと、すぐに楽になる」

そう、信じていました。
しかし、現実は、あまりにも残酷でした。会社を辞めたその日から、私の気分は奈落の底へと急降下していったのです。重しが外れるどころか、さらに重い鉛を心に抱え込むことになりました。

なぜか。
おそらく、「社会人である」という、社会と繋がる最後の拠り所を失ったことへの、精神的な反動だったのでしょう。そして、毎日決まった時間に起きて出社するという生活習慣が失われたこと、その急激な環境の変化自体が、私の心に大きなストレスを与えていたのかもしれません。

ここから、何年にもわたる、暗い引きこもり生活が始まりました。
毎日、襲い来る強烈な不安感。
何もする気が起きない、底なしの無気力感。
理由もなく、突然胸が締め付けられ、泣きたくなる衝動。

ただ、布団にくるまり、その嵐が過ぎ去るのを耐えるしかない。そんな日々でした。
当時は、その感情の波にどう対処していいか分からず、泣ける映画をわざわざ観て無理やり涙を流してみたりと、無駄な試行錯誤を繰り返していました。

 

収入ゼロという地獄、そして魂の告白(カミングアウト)

ただ、そんな暗闇の中にも、救いはありました。
これまでの人生で築いてきた、友人・知人という名の財産です。喫茶店を開業した友人は、毎日昼食を食べさせてくれました。同じ時期に同じ病気を患った友人は、「辛いよな」と、ただ黙って話を聞いてくれました。学生時代の友人は、気分転換にと、何度も私を外へ連れ出してくれました。

彼らのおかげで、私は完全な孤立からは、かろうじて免れていました。
しかし、うつ病という病は、本当に厄介なものです。そんな彼らの優しさすらも、時には耐えがたいストレスに感じてしまうのです。

電話が鳴るだけで、心臓が跳ね上がる。
「会おう」という誘いが、重いプレッシャーになる。
誰かと繋がることで救われながら、その繋がりそのものが辛い。このアンビバレントな葛藤は、経験した者にしか分からないかもしれません。

そんな生活を支えていた、最後の生命線。それが、健康保険から支給される「傷病手当金」でした。給料の約6割。働けなくても、最低限の生活を維持できる、唯一の収入源です。

最長で1年6ヶ月。
療養を始めた当初、それは永遠にも感じられる長い時間でした。「これだけあれば、きっと治る」と、本気で信じていました。

しかし、症状は一向に改善しない。むしろ、悪化していく。
1年6ヶ月という月日は、あっという間に過ぎ去りました。

「傷病手当金が、切れる」

その事実が、さらなるストレスとなって私にのしかかります。
収入が、ゼロになる。
アパートの家賃が、払えない。
万事休す。ついに私は、アパートを引き払い、実家に戻ることを決意しました。

これまで、病気のことは両親に伏せていました。すぐに治るつもりだったし、何より、うつ病で苦しむ情けない姿を、親に見せる勇気がなかったのです。

しかし、もう、そんなプライドを保っている余裕はありませんでした。
ある日、実家に帰り、両親の前で、全てを打ち明けました。
「病気で、働けなくなった。収入もない。だから、家に帰らせてほしい。助けてほしい」

何を言われるだろうか。根掘り葉掘り聞かれるだろうか。大騒ぎされるだろうか。
様々な不安が、頭をよぎりました。

しかし、両親の反応は、私の想像とは全く違うものでした。
「そうか。分かった。早く帰ってこい。生活のことは、心配するな」
ただ、それだけでした。
あれこれと事情を説明しなくても、ただ受け入れてもらえた。その事実が、どれほどありがたかったか、今でも鮮明に覚えています。

 

【第3章】かすかな光:「社会保険労務士」という一本の蜘蛛の糸

社会復帰への渇望と、高すぎる壁

こうして、実家での引きこもり生活が始まりました。
生きていくことへの直接的な不安はなくなりました。しかし、それと引き換えに、新たな地獄が始まりました。

「自分の名前で、1円もお金が入ってこない」という、耐えがたい現実です。
給料であれ、傷病手当金であれ、「自分の名義」で振り込まれる収入があるうちは、かろうじてプライドが保てます。しかし、それがゼロになると、まるで自分の存在価値そのものが失われたような、底知れぬ不安に襲われるのです。

「自分は、生きていていいのだろうか」

そんな自問自答を繰り返す、無為な日々。
しかし、そんな暗闇の中でも、時間は流れ、薬が効き、少しずつ変化が訪れました。病名は、うつ病から「双極性障害」に変わっていました。

一年かけて、薄紙を一枚ずつ剥がしていくような、遅々とした歩み。それでも、一年前の自分と比べれば、ほんの少しだけ、マシになっている。そんな小さな改善の兆しが、見え始めたのです。

そして、自然と「社会復帰」という言葉が、頭をよぎるようになりました。
とはいえ、気分が落ち込む日が少なくなった、という程度です。フルタイムで働ける状態には、ほど遠い。長いブランクのある履歴書。失われた自信。

「もう、普通の会社員に戻るのは無理だ」

当時の私は、障害者雇用という選択肢すら、頭にありませんでした。

 

運命の「戦友」との出会い

そこで、私が目を向けたのが、「フリーランス」という働き方でした。
幸か不幸か、一度は起業した経験もある。自分でできる仕事を、自分でできる範囲でやる。それしかない、と。

そのためには、「手に職」が必要です。
私が選んだのは、「社会保険労務士」という資格でした。実は、以前、起業がうまくいっていなかった頃に、一度だけ考えたことがあったのです。その時の、古びたテキストが、本棚の隅で私を待っていました。

「もう一度、これに賭けてみよう」

資格専門学校への通学は、週に2回、1回3時間。それでも、引きこもりだった私には、大きな挑戦でした。まずは、休まずに通うこと。そこから始め、少しずつ勉強のペースを掴んでいきました。

そして、一年後。試験の結果は、ギリギリの合格でした。
何も成し遂げられなかった自分が、久しぶりに掴んだ、小さな成功体験。それは、失いかけていた自信を、少しだけ取り戻させてくれました。

合格後、一年間の研修を経て、愛知県春日井市の自宅で、私は開業の日を迎えます。
しかし、それはゴールではなく、新たなスタートでした。

開業当初は、仕事などありません。同期の社労士たちが、精力的に活動し、次々と契約を取っていくのを、眩しい思いで眺めていました。「自分は病気を抱えている。焦るな」と言い聞かせながらも、心のどこかで感じる焦燥感。

そんな中、私の人生を決定づける、大きな出会いがありました。
同期開業組の一人。彼は、ギランバレー症候群という難病を患い、手足に障害を抱えていました。そして、その経験をバネに、「障害年金を専門にする」と、固く決意していたのです。

衝撃でした。
自分自身の障害を、弱みではなく「武器」にする。
その彼の姿は、自分の進むべき道を、一筋の光のように照らしてくれました。

「自分も、双極性障害という、大きな病気を経験している」
「この経験こそ、障害年金の仕事に活かせるのではないか?」

自分と同じ境遇の人間がいる。その発見は、何よりの心の支えとなりました。

 

【第4章】使命の発見:寄り添う、ではない。あなたの痛みを、私は「知っている」

負の経験が「価値」に変わった瞬間

自分の進むべき道が見えてからは、迷いはありませんでした。
障害年金の専門家として、私は自分の経験を、積極的に語るようになりました。

そして、驚くべきことが起こります。
ご相談に来られたお客様、特に、私と同じようにうつ病などの精神疾患を患っている方から、感謝の言葉をいただくようになったのです。

「先生の話を聞いて、救われました」
「同じ経験をしている人に話せただけで、心が軽くなりました」

もちろん、障害年金を受給できることは、何より重要です。しかし、それ以上に、「自分の苦しみを理解してもらえた」という事実に、お客様は価値を感じてくださったのです。

私の、暗く、誰にも話せなかったはずの、負の経験。
それが、ただ話すだけで、誰かの役に立つ。
「自分の人生の“闇”が、誰かの“光”になる」

その事実に気づいた時、私は、これまでの人生が全て肯定されたような、魂が震えるほどの感動を覚えました。苦しかったあの日々は、決して無駄ではなかった。お客様から「救われた」と言われるたびに、私自身もまた、救われていたのです。

 

なぜ私は「寄り添う」と言わないのか

この経験を通して、社会保険労務士としての私の、確固たるスタンスが決まりました。
同業の社労士は、よく「お客様に寄り添います」という言葉を使います。もちろん、それは素晴らしい姿勢であり、決して否定するものではありません。

しかし、私は、あえてその言葉を使いません。
なぜなら、「寄り添う」という言葉には、どこか「他人事」の響きがあるように感じてしまうからです。

私は、あなたの苦しみを、「他人事」だとは到底思えません。

だから、私はこう言います。
「あなたのその痛み、私も“知っています”。だから、同志として、戦友として、一緒に立ち向かいましょう」と。

自分自身が、あの暗闇の中を歩いてきたからこそ、できる関わり方。
机上の知識ではない、血の通った言葉で、あなたと話がしたい。
これこそが、神様が私に与えてくれた、唯一無二の使命なのだと、今は確信しています。

 

結論、そしてあなたへ:絶望は、未来への武器になる

私が今、この仕事をしている理由は、たった一つです。
かつての私のように、暗闇の中で独り震え、自分の価値を見失いかけているあなたを見つけ出し、その隣に立ちたいのです。

障害年金は、単にお金をもらうための制度ではありません。
「自分の名前」で振り込まれる収入がある。その事実が、失われた自尊心を回復させ、もう一度、自分自身を肯定するきっかけになります。収入がないという苦しみ、どうしようもない無力感。私も、痛いほど味わってきました。

私の経験が、あなたが障害年金という助けを手にするための、一つの糸口になればと願っています。

そして、その申請という行動を、ぜひ私と一緒に起こしてほしいのです。
私の全ての経験は、あなたと出会うためにありました。

「あなただけではない」
「私も、その痛みを、知っている」

だから、一緒に、未来への一歩を踏み出してみませんか。
あなたの絶望は、決して無駄にはなりません。それは、あなたの人生を、もう一度始めるための、最も力強い武器になるのですから。

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【春日井市の社労士が告白】私がうつ病の障害年金請求で“他者の力”を借りた、たった一つの理由

2025-09-02

障害年金の請求を前に、あなたの心をがんじがらめに縛り付けているものは、一体何ですか?

「複雑そうな手続きへの、漠然とした不安」でしょうか。
それとも、「本当に自分なんかが受給できるのかという、自信のなさ」でしょうか。

こんにちは。愛知県春日井市で、うつ病や双極性障害など、精神疾患の障害年金を専門にしている社会保険労務士の渡邊智宏と申します。そして私自身も、あなたと同じように、双極性障害という病と共に生きる一人の当事者です。

かつて、私が自分の障害年金を請求しようと決意した時。私の前に立ちはだかった最大の壁は、手続きの複雑さではありませんでした。専門家ですから、知識はありました。では、一体何が、私の足をすくませ、動けなくさせたのか。それは、もっと根源的で、この病気を抱える者なら誰もが直面する、たった一つの問題でした。

そして、その巨大な壁を乗り越えるために、専門家である私が最終的に下した決断。それは、「他者の力を借りる」ことでした。

この記事は、私がなぜ、独りで戦うことをやめたのか。その「隠された事実」を初めて告白し、あなたが今抱えている本当の苦しみの正体と、そこから抜け出すための最も賢明な道筋を示すものです。これは、あなたを過去の私と同じ場所で、同じように苦しませないための、私の心からのメッセージです。

〈目次〉

 

はじめに:専門家でさえ動けなかった、障害年金請求のリアル

少しだけ、私の話をさせてください。
双極性障害と診断され、それまで勤めていた会社を辞めざるを得なくなった私は、長い引きこもり生活を送っていました。数年が経ち、症状が少し落ち着いてきた頃、私は社会復帰の道を模索し始めます。

しかし、フルタイムで働く自信は到底ありませんでした。そこで選んだのが、自分のペースで働ける「自営業」、そして国家資格である「社会保険労務士」という道でした。資格専門学校に週2回通うことから体を慣らし、なんとか試験に合格。それは、長いトンネルの先に見えた、小さな光でした。

社労士の仕事は多岐にわたりますが、私は自らの経験が活かせる「障害年金」の分野に、自然と惹かれていきました。自分の病気の経験が、同じように苦しむ誰かの役に立つかもしれない。そう信じて、春日井市に事務所を構え、障害年金の専門家として歩み始めたのです。

何件か、ご依頼者様の請求をお手伝いする中で、私はある事実に気づきます。
「あれ?一年を通して体調の波があり、人並みに働けない今の自分も、十分に障害年金の対象になるじゃないか…」

専門家として仕事をするまで、自分自身が対象になるなど、考えたこともありませんでした。灯台下暗し、とはまさにこのことです。

さあ、あなたならどう思いますか?
障害年金のプロが、自分の請求をする。これほど簡単なことはない、そう思われるかもしれません。私も、そう思っていました。

しかし、現実は全く違いました。
「よし、自分の請求をやろう」と思い立ってから、実際に行動へ移すまで、実に数ヶ月もの時間を要したのです。駆け出しでしたので、仕事が山積みで身動きがとれなかったというわけではありません。時間は、ありました。それなのに、どうしても第一歩が踏み出せないのです。

 

第一の壁:分かっているのに動けない地獄

他人の請求はできるのに・・・自己嫌悪に陥った日々

社労士として独立し、障害年金の専門家として歩み始めた私が直面した、最大の皮肉。それは、「ご依頼者様の請求手続きはできるのに、自分の手続きの第一歩が、どうしても踏み出せない」という、困った現実でした。

頭の中では、やるべきことは全て分かっています。初診日を確定させ、受診状況等証明書を取り寄せ、診断書の依頼をし、病歴・就労状況等申立書を書き上げる・・・。その一つひとつの手順も、注意点も、全て理解している。

それなのに、体が動かない。
「明日こそ、病院に電話しよう」
「週末に、申立書を書き始めよう」
そんな「明日やろう」を、毎日毎日、呪文のように唱え続ける。そして、何もできないまま一日が終わり、自己嫌悪と共に眠りにつく。そんな日々が続きました。

知識があるからこそ、「やるべきこと」の膨大さと、その一つひとつに潜むリスクが見えてしまう。それが、かえって私の足を重くさせました。

「専門家としての自分」が、「当事者としての自分」を責め立てるのです。
「なぜできないんだ?やり方は分かっているじゃないか」
「他の人のためには動けるのに、なぜ自分のことになるとダメなんだ」

この、プロとしてのプライドと、病気の症状との乖離が、私の心を少しずつ、しかし確実に蝕んでいきました。

 

私が下した、最初の「依頼」という名の約束

ここで、少し恥ずかしい、しかしこの記事で最も重要な事実を告白します。
この、出口のない泥沼から抜け出すために、私が最終的に取った行動。それは、信頼する仲間の社労士に、自分の障害年金の請求をする決意を表明し、「進捗を報告する」という“約束”を取り付けることでした。

私には、同じ時期に開業し、同じように障害年金を専門とする、戦友と呼べる友人がいました。そして、驚くべきことに、彼もまたギランバレー症候群という難病を抱える当事者でした。さらに、彼も私と同様に、「自分の障害年金が対象になる」と知りながら、請求できずにいたのです。

境遇も、悩みも、全く同じ。
私たちは、顔を合わせるたびに「お互い、分かっているのに、できないね」と、苦笑いを浮かべるばかりでした。

ある日、私は彼に持ちかけました。
「二人で、同時に、自分の障害年金の請求をやらないか?」

病気の種類は違えど、当事者と専門家、両方の視点から互いのケースを共有すれば、きっと学びになる。そして何より、互いに進捗を報告し合うという“縛り”を設ければ、後回しにしがちな自分自身の問題に、真剣に向き合えるのではないか。そう考えたのです。

彼は、私の提案に快く乗ってくれました。
こうして、私たちは互いの障害年金請求の進捗を報告し合うことを、固く約束したのです。

実際の作業は、当然ながら全て自分自身で行いました。書類を集め、文章を書き、医師と話をする。しかし、もし、この「他者との約束」という名の“外部エンジン”がなければ、私は永遠に、あのスタートラインにすら立てていなかったでしょう。

専門家でさえ、独りでは動けないのです。
これこそが、うつ病や双極性障害という病気の、本当の恐ろしさなのだと、私は身をもって知りました。

 

【解決策】あなたに必要なのは知識ではなく「外部エンジン」

もしかしたら、この記事を読んでくださっているあなたも、かつての私と同じではないでしょうか。
障害年金をもらいたい。もらわなければ、生活が立ち行かない。そう思っているのに、どうしても動けない。「明日やろう」と思いながら、時間だけが過ぎていく・・・。

それは、決してあなたの意志が弱いからではありません。
病気が、あなたの中から「行動のきっかけ」という、人間が前に進むために不可欠なエネルギーを、根こそぎ奪っているのです。知識の有無は、関係ありません。やり方が分かっていても、最初のスイッチを押すことができないのです。

だとしたら、答えはシンプルです。
その「きっかけ」を、外部に求めればいい。

専門家に依頼するということは、あなたのために計画を立て、あなたのために動き続けてくれる、最も強力で、最も信頼できる“外部エンジン”を手に入れることなのです。あなたを引っ張ってくれる機関車を、隣に置くことなのです。

病気で苦しんでいるあなたが、自分自身の力だけで、この重い列車を動かそうとするのは、あまりにも酷な話です。その最初のひと押しを、私たち専門家に任せてみませんか。

 

第二の壁:専門家になったからこそ知った自己分析という拷問

プロの視点が暴き出す、本当の地獄

「外部エンジン」を手に入れ、ようやく請求準備という名の列車を動かし始めた私。しかし、その先に待ち受けていたのは、予想だにしなかった、さらに深い絶望の谷でした。

それは、「専門家になったからこそ、自己と向き合う本当の地獄を知ってしまった」という、新たな苦しみです。

もし、私が障害年金について何も知らない素人だったら、ここまで苦しまなかったかもしれません。
しかし、専門家である私は、嫌というほど知っていました。等級を左右するのは、病名や症状の重さそのものではない。診断書に書かれた、たった数行の「日常生活の状況」なのだと。

そして、その数行に説得力を持たせるためには、自分自身の人生の「ダメな部分」「情けない部分」「惨めな部分」を、根こそぎ洗い出し、客観的な言葉で、医師に赤裸々に伝えなければならないのです。

これは、自分自身の魂を削るような、壮絶な作業でした。
風呂に入れなかった日々のこと。
ゴミに埋もれて暮らした部屋のこと。
誰とも話さず、社会から孤立していた日々・・・。

それらを思い出し、リストアップするたびに、強烈な自己嫌悪に襲われる。「こんなこともできないのか」「こんな生活を送っているのか」と、自分自身を軽蔑してしまう。

専門家としては、これらを戦略的に診断書に反映させなければならないと分かっている。
しかし、当事者としては、その記憶に触れること自体が、耐えがたい苦痛なのです。

この「自己分析」という名の拷問こそが、私の足を再び止め、請求のプロセスをさらに困難なものにした、第二の壁でした。

 

私が持つ「二重の知見」という、唯一無二の強み

しかし、皮肉なことに、この地獄のような経験こそが、今の社会保険労務士としての私の、最大の強みを形作ってくれました。
この経験を通して、私は、他の誰にも真似できない、「二重の知見」を手に入れたのです。

  1. 当事者として、うつ病や双極性障害の“リアル”な苦しみを知っている。
    あなたが言葉にできない、漠然とした不安。行動できないもどかしさ。自己嫌悪の渦。その全てを、私は理屈ではなく、原体験として知っています。
  2. 専門家として、その苦しみを「等級に結びつく言葉」に翻訳する方法を知っている。
    あなたのその苦しみが、障害年金の審査において、どのような意味を持つのか。それを、法的な根拠と実務経験に基づいて、最も効果的な「言葉」へと変換する技術を持っています。

よく、「患者さんに寄り添って」という言葉が使われます。しかし、私は少し違うかもしれません。私は、あなたに「寄り添う」のではありません。

同じ苦しみを分かち合う「同志」として、あなたの隣に立ちます。
共に、障害年金という難敵に立ち向かう「戦友」として、あなたの痛みを「知って」います。

もちろん、症状の現れ方は、人それぞれ千差万別です。だからこそ、丁寧なヒアリングが何よりも重要になります。私がヒアリングを行う際、それは単なる事務的な質問の繰り返しではありません。

「私の場合、こういうことで本当に苦しかったのですが、あなたの場合はどうですか?」
そんな風に、私自身の経験を一つのものさしとして、あなたの、あなただけの苦しみを、深く、正確に理解することができるのです。

 

【解決策】あなたの苦しみを「等級に結びつく言葉」へ翻訳します

障害年金請求で、最も心がすり減る「自己分析」の作業。
それを、あなたの痛みを本当に理解できる人間に、任せてみませんか?

私が、あなたと一緒に、あなたの人生と向き合います。
そして、あなたの言葉にならない苦しみを、あなたの未来を支えるための、最も強力で、最も的確な請求「武器」請求へと、私が翻訳してみせます。

 

【結論】あなたの苦しみを、あなたの「未来」に変えるために

障害年金の請求プロセスは、多くの当事者にとって、ただ辛く、苦しいだけの道のりです。
しかし、信頼できるパートナーと組むことで、それは「自分の人生を客観的に見つめ直し、次の一歩を踏み出すための、価値ある時間」に変わり得ます。

私が経験した「2つの壁」は、あなたが独りで、歯を食いしばって乗り越える必要は、全くありません。

  • 動けないあなたのための、強力な「外部エンジン」として。
  • 自己分析の苦しみを分かち合う、唯一無二の「同志」として。

私が、あなたの隣にいます。
私の知識、経験、そして何より、この「二重の知見」という強みの全てを、あなたのために使わせてください。

 

春日井市・愛知県で障害年金にお悩みの方へ

あなたが今、本当に戦うべき場所は、複雑な書類や役所の窓口ではありません。
あなたの心と体の中。ただ穏やかに休み、回復することだけが、あなたの最優先事項なのです。

どうか、書類との戦いは、その道のプロに、そしてあなたの痛みが分かる当事者に、任せてください。
あなたが安心して治療に専念できる環境を整えること。それが、私の仕事であり、使命です。

もし、かつての私のように、たった一人で悩み、動けずにいるのなら。
まずは一度、お話を聞かせていただけませんか。初回のご相談は無料です。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしております。

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【障害年金・うつ病】うつ病の障害年金|診断書「日常生活」のリアルな伝え方② 対人関係・服薬・社会性編|当事者社労士が解説

2025-08-26

「障害年金の等級は『日常生活』のリアルな姿で決まる」
「だからこそ、その困難を具体的に医師に伝えることが、あなたの未来を左右する」

前回の記事では、診断書の最重要項目である「日常生活能力」のうち、「食事」「清潔保持」「金銭管理」という、生きていく上で根幹となる3つのテーマについて、私の恥ずかしい体験談も交えながら解説しました。

 

▼前回の記事をまだ読んでいない方はこちらから

【体験談】うつ病の障害年金|診断書「日常生活」のリアルな伝え方① 食事・入浴・金銭管理編

 

多くの方から「まさに自分のことだと思った」「何を伝えればいいか分かった」という反響をいただき、改めてこのテーマの重要性を痛感しています。

こんにちは。双極性障害(躁うつ病)という精神疾患と向き合いながら、障害年金の専門家として、かつての私と同じように苦しむ方々のサポートをしている社会保険労務士の渡邊智宏です。

さて、今回は「日常生活」解説の後半戦。
前回よりもさらに一歩踏み込み、社会との関わりの中で生じる、より複雑で、より多くの人が悩むであろう4つのテーマを扱います。

  • (4)通院と服薬
  • (5)他人との意思伝達及び対人関係
  • (6)身辺の安全保持及び危機対応
  • (7)社会性

「ただ病院に行くだけではダメ?」「人と会えないのは当たり前じゃないの?」
そう感じているあなたの疑問に、当事者だからこそ分かるリアルな視点と、専門家としての客観的な視点の両方から、徹底的にお答えしていきます。

この記事を最後まで読めば、あなたの抱える「見えない困難」を言語化し、医師に正しく伝えるための、強力な武器が手に入るはずです。

 

〈目次〉

 

おさらい:あなたの日常を測る“7つのものさし”

本題に入る前に、もう一度だけ確認させてください。精神疾患の障害年金の診断書では、あなたの日常生活能力が、以下の7つの項目について、4段階で評価されます。

【日常生活の7つの項目】

  1. 適切な食事
  2. 身辺の清潔保持
  3. 金銭管理と買い物
  4. 通院と服薬
  5. 他人との意思伝達及び対人関係
  6. 身辺の安全保持及び危機対応
  7. 社会性

この評価が、あなたの障害等級を決定づける最重要ファクターです。そして、その評価の質は、あなたがどれだけ具体的に、正直に、ご自身の状況を医師に伝えられるかにかかっています。それでは、後半戦を始めましょう。

 

【項目④】通院と服薬:「できている」に潜む大きな落とし穴

「定期的に通院できていますか?」

この質問に、あなたはどう答えますか?
おそらく、多くの方が「はい、できています」と答えるのではないでしょうか。特に、うつ病で不眠に悩む私たちにとって、睡眠導入剤は命綱のようなもの。それを手に入れるためには、何が何でも通院しなければなりません。

私自身、引きこもり生活の中で唯一、社会との接点を保っていたのが週に一度の通院でした。だから、この項目については「自分は問題ない」と、ずっと思い込んでいました。しかし、それは大きな間違いだったのです。

障害年金で問われている「通院と服薬」とは、単に「病院に行っているか」「薬を飲んでいるか」という事実だけではありません。その「質」が厳しく問われるのです。

 

体験談:医師の前で「良い患者」を演じていた私

私は、きちんと予約通りに病院の扉をくぐっていました。しかし、診察室の中での私は、どうだったでしょうか。

医師の前に座っても、自分から積極的に話すことはほとんどありませんでした。「最近どうですか?」と聞かれても、「まあ、変わりないです…」と生返事をするだけ。本当は、夜中に得体の知れない不安に襲われて泣きそうになっていることも、一日中ベッドから出られずに自己嫌悪に陥っていることも、恥ずかしくて、情けなくて、とても言えませんでした。

医師のアドバイスも、右から左へ聞き流すだけ。「早くこの時間が終わらないかな…」と、ただうつむいて座っている。そんな患者だったと思います。

これでは、「通院」という行為の目的である「医師とのコミュニケーションを通じた治療」が、全く成り立っていません。ただ病院という場所に物理的に移動しているだけで、それは「適切な通院」とは到底言えないのです。

あなたの通院はどうでしょうか?
医師との間で、治療に必要な情報のキャッチボールができていますか?

また、通院という行為そのものに困難を抱えている方も多いでしょう。

  • パニック発作や不安感で、電車などの公共交通機関に乗れない。
  • 薬の影響で集中力が散漫になり、車の運転が危険。
  • そもそも外出するエネルギーがなく、家族に送迎してもらわなければ病院に行けない。
  • 診察室に一人で入るのが怖く、家族に同席してもらっている。

さらに深刻なのは、予約を守れないという問題です。
「明日は病院の日だ」と分かっていても、当日の朝、鉛のように重い体と心が、どうしても言うことを聞かない。ギリギリになってしまったり、間に合わなかったり、ひどい時には無断でキャンセルしてしまったり…。

もし、あなたが予約の変更や遅刻を繰り返しているのであれば、それは「適切な通院が困難である」ことの、何よりの証拠です。その事実は、カルテには記録されていても、医師が診断書に書く際に意識してくれるとは限りません。「予約を守れないことが多く、ご迷惑をおかけしています」と、あなた自身から伝える必要があるのです。

 

薬との闘い:オーバードーズと自己判断による断薬

次に、この項目のもう一つの柱である「服薬」についてです。
「薬の管理、できていますか?」と聞かれれば、多くの人は「飲み忘れはないか」「時間を守れているか」を問われていると考えます。もちろん、それも重要です。引きこもり生活で時間感覚が曖昧になり、飲み忘れてしまうことは、私たちにとって「あるある」です。

しかし、精神疾患の服薬管理で本当に問題となるのは、それだけではありません。
「処方通りに飲めていない」という、より深刻な2つのパターンが存在します。

  1. 処方以上に飲んでしまう(過量服薬)
    最も分かりやすいのが、オーバードーズ(OD)です。死にたい気持ちから、あるいは現実から逃避したい一心で、大量の薬を一度に飲んでしまう。いけないと分かっていても、衝動を抑えられない。これは、命に関わる非常に危険な状態です。

そこまでいかなくても、「効きが悪いから」という理由で、処方より多く飲んでしまうことはありませんか?
「睡眠薬を1錠飲んだけど、全然眠れない。もう1錠追加しちゃおう…」
「抗うつ薬の効果が感じられない。少し多めに飲めば、効いてくれるかもしれない…」
このような自己判断による増量は、実は非常にありふれた問題です。

  1. 自己判断で飲むのをやめてしまう(断薬)
    そして、その逆のパターン。これもまた、深刻な問題です。
    「この薬、副作用が辛すぎるから飲みたくない」
    「昼間まで眠気が残って、頭が働かない」
    「そもそも、こんな脳に作用する薬を飲み続けるのが怖い」

様々な理由から、医師に相談することなく、自分の判断で薬を飲むのをやめてしまう。実は、私自身がこのケースにどっぷりと当てはまっていました。

私の双極性障害には、抗うつ薬がうまく効きませんでした。効果を感じないどころか、指が震えるといった副作用ばかりが気になる。薬への不信感から、私は勝手に服薬を中断してしまったのです。しかも、そのことを医師に報告しませんでした。

すると、どうなるか。
医師は、私が処方通りに薬を飲んでいると思っています。それでも効果が出ないから、「薬が足りないのかもしれない」と、さらに薬を増やす。増えた薬を見て、私はますます怖くなり、飲むのをやめる…。

まさに、治療の悪循環です。半年や1年、勝手に断薬し、いよいよまずいと思って再開する。そして、またしばらくしてやめてしまう。そんなことを、私は何年も繰り返していました。

このように、「通院と服薬」という短い言葉の中には、非常に多くの、そして深刻な問題が隠されているのです。

 

「通院と服薬」6つのチェックリスト

あなたの状況を整理するために、以下のリストで自己チェックしてみてください。

□ 1. 通院の自立性:
一人で、公共交通機関や自家用車を使って、問題なく病院まで行けますか?(家族の送迎や付き添いが必要ではありませんか?)

□ 2. 医師との対話:
診察の場で、ご自身の症状や生活の困りごとを、具体的に医師に伝えることができていますか?

□ 3. 予約の遵守:
予約した日時に、遅刻やキャンセルをすることなく、通院できていますか?

□ 4. 服薬の管理:
薬の飲み忘れや、飲む時間を間違えることはありませんか?

□ 5. 過量服薬:
処方された量以上に、薬を多く飲んでしまうことはありませんか?(オーバードーズの経験はありませんか?)

□ 6. 自己中断:
医師に相談せず、ご自身の判断で薬を飲むのをやめてしまったことはありませんか?

 

【項目⑤】対人関係:「人と会えない」だけではない、コミュニケーションの質

「他人との意思伝達及び対人関係」。一言で言えば、コミュニケーション能力です。
これは、引きこもりがちな私たち精神疾患の当事者にとって、最も厳しい項目の一つと言えるでしょう。

「人と会うのが億劫」「誰とも話したくない」
これは、うつ状態の基本症状です。人と会う回数が極端に減っている。それだけでも、この項目で困難を抱えていることは明らかです。

しかし、この項目で問われているのは、コミュニケーションの「量」だけではありません。その「質」もまた、重要な評価ポイントとなります。

 

体験談:あらゆる関係から逃げ続けた引きこもり時代

例によって、私のケースをお話しします。
先ほどから何度も話している通り、私は完全な引きこもりでした。誰かと会話するという行為そのものが、ほとんど存在しない日々。定期的に話す相手は、週に一度会う医師と看護師だけ。何日も声を発しないことも珍しくありませんでした。

  • 友人との関係:
    もともと、親しい友人と話すこと自体に大きな問題はありませんでした。しかし、病状が悪化してからは、自分から連絡を取る気力は全く湧かない。友人から電話がかかってきても、話すのが億劫で、出ずに無視してしまう。そんなことを繰り返すうちに、次第に連絡は来なくなりました。
  • 元職場との関係:
    退職後も、引継ぎなどの用件で、元職場から頻繁に連絡がありました。その電話が、私には耐えきれないほどのストレスでした。最終的には、主治医に相談し、「本人への直接の連絡は控えるように」という内容の診断書を書いてもらい、関係をシャットアウトしました。
  • 家族との関係:
    意外に思われるかもしれませんが、私は家族との会話が最も苦手でした。近しい関係だからこそ、自分の惨めな現状を打ち明けられない。心配をかけたくないという思いと、理解してもらえないかもしれないという恐怖。一人暮らしを諦めて実家に戻ってからも、家族とのコミュニケーションはほとんどありませんでした。
  • 社会との関係:
    一人暮らしの時は、電話は基本的に無視。宅配便や来客があっても、居留守を使うのが当たり前。社会とのあらゆる窓を、自ら固く閉ざしていたのです。

こうして振り返ると、我ながら徹底的に人との関わりを避けていたな、と改めて感じます。

 

あなたの場合はどうでしょうか?

コミュニケーションの問題は、単に「人と会わない」だけではありません。

  • 意思伝達の質の問題:
    人と話していても、自分の言いたいことがうまく言葉にできない。相手の言っていることの意味が、すんなり頭に入ってこない。あるいは、人の言うことを何でも鵜呑みにしてしまい、簡単に騙されてしまう。
  • 集団行動の問題:
    1対1なら何とか話せるけれど、3人以上の集団の中に入ると、途端に居場所がなくなり、一言も発せなくなる。忘年会やパーティーのような、大勢の人が集まる場所は、耐えられないほどの苦痛を感じる。
  • 約束の問題:
    友人と会う約束をしても、当日になると気分が落ち込み、どうしても家から出られなくなる。申し訳ないと思いながらも、ドタキャンを繰り返してしまう。

このように、コミュニケーションの困難は、様々な形で私たちの生活に現れるのです。

 

「対人関係」7つのチェックリスト

ご自身のコミュニケーションについて、以下の視点から見つめ直してみてください。

□ 1. 交流の頻度:
家族以外の人と、会って話したり、電話したりする機会はありますか?(週に1回未満、月に1回未満など)

□ 2. 連絡への応答:
電話がかかってきた時に、出ることができますか?LINEやメールに目を通し、返信することができていますか?

□ 3. 意思の伝達:
会話の中で、ご自身の考えや気持ちを、相手に分かりやすく伝えることができていますか?

□ 4. 話の理解:
相手の言っていることを、集中して聞き、正しく理解することができていますか?

□ 5. 集団への適応:
複数人がいる場に参加し、その中で過ごすことができますか?

□ 6. 約束の遵守:
他人との約束(時間や内容)を守ることができていますか?(ドタキャンを繰り返していませんか?)

□ 7. 適切な距離感:
相手に対して、過度に馴れ馴れしくなったり、逆に極端によそよそしくなったりせず、適切な距離を保つことができていますか?

 

【項目⑥】危機対応:うっかりミスから災害、そして“最悪の事態”まで

「身辺の安全保持及び危機対応」。
この項目は、パッと見ただけでは、何を聞かれているのか分かりにくいかもしれません。私も、この項目を説明する時には、いつも少し戸惑います。

これは、大きく2つのことを問われています。

  1. 安全保持: 普段の生活の中で、うっかりミスなどから、ご自身の安全を危険に晒していませんか?
  2. 危機対応: 何か予期せぬトラブルが起きた時に、適切に対応し、乗り越えることができますか?
  3.  

体験談:前方不注意で起こした追突事故

まず「安全保持」について、最も分かりやすい例は自動車の運転です。
うつ病の症状や薬の副作用で、集中力や判断力は著しく低下します。私も、病状が悪化してすぐの頃、自動車事故を起こしてしまいました。渋滞の中で、ボーッとしていて前の車が止まっているのに気づくのが遅れ、追突してしまったのです。幸い、軽い事故で済みましたが、一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれません。

運転をしない方でも、

  • 道を歩いていて、車や自転車にぶつかりそうになる。
  • 料理中、ガスの火を消し忘れる。
  • 家の鍵をかけ忘れて外出してしまう。
  • 電車でうっかり乗り過ごし、知らない駅まで行ってしまう。

このような「うっかり」や「ヒヤリハット」の経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。これらは、集中力や注意力が低下していることの、明確なサインです。

そして、この「安全保持」の究極的な問題として、自殺企図があります。
常に死ぬことを考えている「希死念慮」から、実際に手首を切ったり、薬を大量に飲んだりする「自殺未遂」まで。ご自身の命を危険に晒す行為は、この項目で最も重く評価されるべき点です。

 

「助けて」が言えますか?危機に瀕した時の対応能力

次に、「危機対応」についてです。
これは、トラブルが「起きてしまった後」の対応能力を問うています。

先ほどの私の事故の例で考えてみましょう。
事故を起こしてしまった後、私たちは多くの対応を迫られます。負傷者の確認と救護、警察への連絡、相手との連絡先交換、保険会社への報告…。パニック状態の中で、これらを冷静に、的確にこなせるでしょうか。

私たちが病気によって判断力を失っているとき、その場で思考停止してしまい、同乗者や周囲の人に全てを任せてしまう、ということは十分に考えられます。

この「対応力」の中でも特に重要なのが、「困った時に、誰かに助けを求められるか」という点です。

事故の時に保険会社に電話するのも、道に迷った時に交番で尋ねるのも、一種の「助けを求める」行為です。しかし、対人関係に困難を抱えていると、この簡単なはずの行為が、途端に難しくなります。

最も身近で深刻なのは、お金の問題でしょう。
働けなくなり、収入が途絶える。いずれ生活が立ち行かなくなることは分かっているのに、誰にも相談できず、問題を先延ばしにしてしまう。そして、家賃や公共料金の督促状が届いてから、ようやく事の重大さに気づく…。

困った時に「助けて」と言えるかどうか。これは、私たちが社会で生きていく上で、極めて重要な能力なのです。

この危機対応能力が、最も極端な形で試されるのが、災害時です。
地震や台風が起きた時、あなたは一人で自分の命を守る行動がとれるでしょうか。

  • 情報収集: ニュースや防災無線に注意を払い、危険が迫っていることを察知できるか。
  • 判断: 家に留まるべきか、避難所に行くべきか、適切に判断できるか。
  • 行動: 避難すべき時に、ためらわずに行動に移せるか。
  • 避難所生活への適応: 大勢の人がいる避難所で、精神的な負担に耐えながら生活できるか。

ある方は、災害が起きたら、それに流されて死んでしまえばいい、と考えたそうです。自殺は能動的な行為だからハードルが高い。でも、災害死なら、何もしなければいい。そう思うほど、生きる気力を失っていたのです。

「危機対応」とは、まさに「生き抜く力」そのものを問うている、と言えるのかもしれません。

 

「危機対応」6つのチェックリスト

少し重い話になりましたが、ご自身の状況を客観的に評価するために、以下のリストを参考にしてください。

□ 1. 不注意による危険:
集中力の低下などから、事故や怪我につながりそうな「ヒヤリハット」体験はありませんか?(運転、歩行、火の元など)

□ 2. 自殺念慮・自傷行為:
死にたいと考えたり、実際に自分自身の体を傷つけたりしたことはありませんか?

□ 3. トラブル発生時の対応:
予期せぬトラブル(事故、急な体調不良など)が起きた時、一人で冷静に対応できますか?

□ 4. 援助希求:
困った時、家族や友人、公的機関などに「助けてほしい」と相談することができますか?

□ 5. 災害への備えと対応:
自然災害などが発生した際、情報を収集し、避難などの適切な行動を一人でとれると思いますか?

□ 6. 危険の予測:
危ない場所や状況を避けたり、危険を予測して事前に対策をしたりすることができていますか?

 

【項目⑦】社会性:レンタルビデオの延滞から見えた、社会とのズレ

いよいよ最後の項目、「社会性」です。
この言葉も、非常に範囲が広く、何を指しているのか分かりにくいですよね。「社会性がない」と聞くと、何か突飛な行動をする人を想像してしまい、「自分はそこまでではない」と思ってしまうかもしれません。

しかし、診断書で問われている「社会性」は、もっと身近な問題を指しています。診断書の注釈には、「銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能か。また、社会生活に必要な手続きが行えるか」とあります。

つまり、社会のルールや仕組みを理解し、それに沿って必要な手続きや行動を、一人で遂行できるか、ということです。

ここでも問題になるのは、「やるべきこと」が分かっていても、気力や体力がなく、行動に移せないという点です。
例えば、毎年更新が必要な自立支援医療の申請。期限が迫っていると分かっていても、どうしても役所に行くことができず、期限が過ぎてしまった…。私も、そんな経験があります。

また、うつ病や発達障害の特性として、文字や文章を読むのが困難になることがあります。書類を読んでも、内容が全く頭に入ってこない。どこに何を書けばいいのか理解できない。こうなると、手続きそのものが物理的に不可能になってしまいます。私も、調子が悪い時は、本を読んでも同じ行を何度も読み返すだけで、全く内容が理解できない、ということがよくありました。

 

体験談:1万円の延滞料金が教えてくれたこと

この「社会性」という曖昧な言葉を、私が身をもって理解した、忘れられない出来事があります。それは、レンタルビデオ屋での一件です。

調子が良い時に、見たい映画を数本借りました。問題は、1週間後の返却日です。その日、私は絶不調のどん底にいました。ベッドから動けず、ビデオを返しに行くなど、到底不可能です。

「明日、行こう」
そう思って、一日、また一日と先延ばしにする。気づけば、1ヶ月が経っていました。
いよいよまずいと思い、重い体を引きずって店に行くと、店員から告げられた延滞料金は、1万円を超えていました。

たかがレンタルビデオの延滞です。しかし、この些細な失敗の中には、

  • 社会のルール(返却期限)を守れない。
  • やるべきこと(返却)を行動に移せない。
  • 問題を先延ばしにして、事態を悪化させる。

といった、私の「社会性」における様々な問題が凝縮されていたのです。

 

あなたの「日常の困りごと」は全て「社会性」の問題かもしれない

私がこの経験から学んだのは、「社会性」とは、これまでの6項目に当てはまらなかった、あらゆる日常の困りごとや失敗談の受け皿になる、ということです。

例えば、郵便受けの管理
引きこもっていると、郵便物を取りに行くことすら億劫になります。取りに行っても、仕分けができずに放置してしまう。その中に、公共料金の督促状や、重要な手続きの案内が含まれているかもしれません。たかが郵便物の処理ですが、これができないことで、社会的な不利益を被る可能性があるのです。

あなたが日常生活の中で、「これ、できなくて困ってるんだよな」「こんな失敗しちゃったな」と感じていることはありませんか?
一見、些細で、障害年金の評価とは関係ないように思えることでも、それが積み重なれば、「社会生活を円滑に送ることが困難である」ことの、有力な証拠となるのです。

そして、文字通り、社会との繋がりそのものも、この項目で評価されます。
この病気は、友人や職場との関係を、根こそぎ奪っていくことがあります。あなたは今、社会との繋がりを持っていますか?一週間のうちに、誰かと会話をする機会はありますか?誰とも話さず、社会から隔絶した生活を送っているとすれば、それは「社会性」に大きな問題を抱えている、と言えるでしょう。

 

「社会性」5つのチェックリスト

最後の仕上げとして、ご自身の生活を以下の視点から総点検してみてください。

□ 1. 公的手続き:
役所での手続き(自立支援医療の更新、住民票の取得など)や、銀行での金銭の出し入れを、一人で行うことができますか?

□ 2. 書類の理解と作成:
公的な書類や手紙を読み、内容を理解し、必要な箇所に記入することができますか?

□ 3. 日常生活のルール遵守:
ゴミ出しのルールを守る、約束の時間を守るなど、社会生活を送る上での基本的なルールを守れていますか?

□ 4. 社会との繋がり:
家族以外に、定期的に交流のある友人や知人はいますか?社会的に孤立していませんか?

□ 5. その他の困りごと:
上記の項目以外で、日常生活や社会生活の中で、病気が原因で「できなくて困っていること」や「失敗してしまったこと」はありませんか?(些細なことでも構いません)

 

結論:最高の診断書は、あなたの「勇気ある告白」から生まれる

ここまで、7つの項目について、非常に長く、そして詳細に解説してきました。
考えれば考えるほど、多くのことを聞かれている、と感じたのではないでしょうか。ぱっと聞かれて、その場で即座に答えられるような内容ではない、ということも、お分かりいただけたと思います。

もし、あなたが何も準備せずに病院へ行き、医師から「日常生活はどうですか?」と聞かれたとして、これら全ての事柄を、悔いなく伝えきることができるでしょうか。おそらく、難しいでしょう。

だからこそ、私は強くお勧めします。
時間をかけて、ご自身の生活を振り返り、紙に書き出してみてください。

箇条書きのメモで構いません。「こんなこと、関係ないかな?」と思うような些細なことでも、ためらわずに書き出してみましょう。書いているうちに、忘れていた記憶や、気づかなかった困難が、次々と思い浮かんでくるはずです。

そうして作り上げた「あなたの日常の記録」は、最高の診断書を作成してもらうための、何より強力な資料となります。

医師は、科学者です。根拠のないことは書けません。しかし、逆に言えば、患者からの具体的な証言という「根拠」があれば、それに基づいて診断書を書いてくれる可能性は、飛躍的に高まります。

あなたの状況を、あなた以上に知っている人はいません。
恥ずかしい過去や、情けない自分と向き合うのは、辛い作業かもしれません。しかし、その勇気ある「告白」こそが、医師の心を動かし、あなたの未来を支える、正当な評価へと繋がっていくのです。

【体験談】うつ病の障害年金|診断書「日常生活」のリアルな伝え方① 食事・入浴・金銭管理編

2025-08-18

「障害年金の等級は『日常生活』で決まる。だから、その状況を正確に医師に伝えることが何より重要です」

前回の記事で、私はそうお伝えしました。この記事を読んで、「なるほど、自分の生活をきちんと伝えなければ」と決意を新たにした方もいらっしゃるかもしれません。

▼前回の記事はこちら

【障害年金】うつ病の等級はどう決まる?認定基準の全貌と「あなたがすべきこと」を社労士が徹底解説

 

しかし、いざ「伝えよう」と思っても、次なる壁が立ちはだかります。
「日常生活って、具体的に何をどう伝えればいいんだろう?」
「こんなことまで話していいのかな…恥ずかしいな…」

そうですよね。その気持ち、痛いほどよく分かります。

こんにちは。双極性障害(躁うつ病)という精神疾患と共に生き、その経験を糧に障害年金を専門とする社会保険労務士として活動している渡邊智宏と申します。何を隠そう、私自身も障害年金を申請した当事者の一人。診断書に書かれる「日常生活」の項目を前に、何をどう伝えれば自分の本当の苦しみが伝わるのか、深く悩んだ過去があります。

だからこそ、この記事は単なる制度解説ではありません。同じ痛みを知る“当事者”として、そして数百件の申請をサポートしてきた“専門家”として、あなたが自分の状態を正しく、そして勇気をもって医師に伝えるための、超具体的なガイドブックです。

今回は、診断書に書かれる「日常生活能力」の7項目のうち、特に多くの人がつまずき、そして伝えるのが恥ずかしいと感じがちな最初の3項目「適切な食事」「身辺の清潔保持」「金銭管理と買い物」について、私の赤裸々な体験談も交えながら、徹底的に深掘りしていきます。

この記事を読めば、あなたが医師に伝えるべき「本当のあなた」の姿が、明確に見えてくるはずです。

〈目次〉

はじめに:あなたの「日常」を評価する“7つのものさし”

本題に入る前に、おさらいです。精神疾患の障害年金の診断書では、あなたの日常生活能力が、以下の7つの項目について、4段階で評価される仕組みになっています。

【日常生活の7つの項目】

(1)適切な食事

(2)身辺の清潔保持

(3)金銭管理と買い物

(4)通院と服薬

(5)他人との意思伝達及び対人関係

(6身辺の安全保持及び危機対応

(7)社会性

【4段階評価】

1.できる(特に問題なく、一人でできる)

2.自発的にできるが、時には助言や指導を必要とする(自分からやろうとはするが、時々手助けがいる)

3.自発的かつ適正に行うことはできないが、助言や指導があればできる(自分一人ではできないが、誰かに促されたり手伝ってもらえればできる)

4.助言や指導をしてもできない若しくは行わない(助けてもらっても、できない・やらない)

 

この「7項目×4段階」の評価が、あなたの障害等級を決定づける、最も重要な基礎となります。しかし、この評価は、あなたが何もしなければ、医師の「推測」で書かれてしまう可能性が高いのです。

なぜなら、医師はあなたの家庭での生活を直接見ることはできないから。だからこそ、私たち患者側から、「私の日常は、実はこうなんです」と、具体的な情報を提供する必要があるのです。

それでは、ここから一つひとつの項目について、それが一体「何」を評価しようとしているのか、私の経験も交えながら、じっくりと見ていきましょう。

【項目①】適切な食事:「食べられる」だけでは不十分な理由

最初にして、多くの方が「自分はできている」と勘違いしがちな項目。それが「適切な食事」です。

「ご飯、食べられますか?」

もし医師にこう聞かれたら、あなたはどう答えますか?
おそらく、多くの方が「はい、食べられます」と答えるのではないでしょうか。私たちが「食事ができない」と聞いて思い浮かべるのは、体が不自由で、お箸やスプーンが持てず、誰かに食べさせてもらう…そんな姿かもしれません。

しかし、思い出してください。この診断書は、精神疾患の重さを測るためのものです。身体的な機能を見ているわけではありません。

ここで問われている「適切な食事」とは、「栄養バランスの取れた食事を、規則正しく、計画的に準備し、後片付けまで含めて、自立して行えているか」という、非常に高度なレベルの話なのです。

体験談:コンビニ弁当とゴミ袋に埋もれた引きこもり生活

私の経験をお話しさせてください。
双極性障害が悪化し、会社を辞めて完全に引きこもるようになった頃、私の食生活は崩壊していました。

まず、食事が絶望的に不規則になりました。
うつ状態の時、経験した方ならお分かりいただけると思いますが、体が鉛のように重く、ベッドから起き上がるという、ただそれだけの行為がとてつもない苦行になります。「お腹が空いた」と感じても、食事の支度をするために立ち上がる、その最初のワンステップが踏み出せないのです。

「何か食べなきゃ…」と思いながら、時間だけが虚しく過ぎていく。結局、空腹が限界に達し、我慢できなくなるまで何も口にしない。そんな日が続きました。

当然、生活リズムは昼夜逆転。明け方に眠り、昼過ぎに起きる。朝食は昼過ぎ、夕食は真夜中。そんな生活でも三食きっちり食べられればまだマシですが、そもそも行動に移せないので、食事は1日2食、ひどい時は1食ということもザラでした。

そして、ようやく動き出すのは、飢餓感がピークに達した時です。すると今度は、反動で異常な量を食べてしまう。精神的なストレスを紛らわしたいという衝動も手伝って、過食に走るのです。一度に二人前くらいの量を詰め込むように食べる。糖尿病の治療中だったにもかかわらず、血糖値は悪化の一途をたどりました。

では、その食事をどうやって手に入れていたのか。
もちろん、自分で調理するなど夢のまた夢。かといって、外食に行く気力もありません。引きこもっていると、身だしなみを整えること自体が億劫になります。伸び放題の髭、何日も着替えていない部屋着。こんな姿で人前に出られるはずもありません。

唯一の選択肢は、コンビニでした。
人目が少なくなる深夜、部屋着のままコンビニへ行き、弁当を買い込む。これも、空腹のピークに行くものですから、一つでは済みません。弁当を2つ買い、さらにポテトチップスや甘いパンを買い込み、お酒で流し込む。そんな暴飲暴食が私の日常でした。

そして、食べ終わった後。
食べた後の弁当の容器は、当然のように放置されます。机の上がいっぱになると、レジ袋に突っ込み、口を縛って部屋の隅に転がしておく。ゴミ出しの日を知っていても、その時間に起きてゴミを出しに行くことができない。やがて部屋はゴミ袋であふれ、夏場には虫が湧く。そんな不衛生極まりない環境で、私は生きていました。

これが、私の「食事」の実態でした。
これを、先ほどの4段階評価に当てはめるとどうなるでしょうか。
レベル1「できる」でないことは明らかです。かといって、レベル4「援助があってもできない」わけでもない。最終的に自分でお金を出して食べているわけですから。

問題は、レベル2「自発的にできるが、時に援助が必要」か、レベル3「自発的にできないが、援助があればできる」か。

「最終的に自分で食べているのだから自発的だ」とも言えますし、「“適切な”食事は全くできていないのだから、自発的にできているとは言えない」とも解釈できます。非常に曖昧ですよね。

最終的に、これらの情報を伝えた上で、私の診断書に付けられた評価は、レベル2でした。正直、これだけ酷い状況なのに…と、少し辛く感じたのを覚えています。しかし、それは私が事前に「これだけ困っている」という情報を、具体的に伝えられていなかった結果かもしれません。

「適切な食事」とは?5つのチェックリスト

私の事例からも分かるように、単に「食事」と言っても、そこには様々な側面が含まれています。あなたがご自身の状況を整理し、医師に的確に伝えるために、以下のチェックリストを参考にしてみてください。

□ 1. 計画と準備:
献立を考え、必要な食材を買いに行き、調理するという一連の行動が一人でできますか?(コンビニ弁当や宅配、総菜ばかりに頼っていませんか?)

□ 2. 規則性:
朝・昼・晩と、おおむね決まった時間に食事をとれていますか?(1日1食や2食になったり、食事を抜いたりしていませんか?)

□ 3. 内容と質:
栄養バランスの偏ったものばかり食べていませんか?(お菓子や菓子パンが食事代わりになっていませんか?)

□ 4. 量の問題:
拒食(食べられない)や過食(食べ過ぎてしまう)の傾向はありませんか?

□ 5. 後片付け:
食器を洗ったり、生ゴミを処理したり、ゴミ出しをしたりすることができていますか?

これら5つの項目すべてを、大きな支障なくできて、初めて「適切な食事ができている」と言えるのです。これは、健康な人でも時には難しい、非常に高いハードルだと思いませんか?

ましてや、うつ病で心と体が動かない状態にある方にとっては、むしろ一つでもできていたら凄い、というのが実情ではないでしょうか。

あなたは今、ご自身の「食事」の状況を、ここまで具体的に把握できていましたか?そして、その困難を医師に伝えられていましたか?もし、できていないのであれば、ぜひ一度、このリストを元にご自身の生活を振り返ってみてください。

【項目②】身辺の清潔保持:「死なないから」後回しになる、一番言いにくいこと

次にご説明するのが、「身辺の清潔保持」です。
簡単に言えば、「身の回りを清潔に保ち、衛生的な生活を送れていますか?」ということです。

そしてこの項目こそ、精神疾患を抱える私たちにとって、最も困難で、かつ、最も他人に打ち明けにくい項目だと、私は断言します。

なぜか。
先ほどの「食事」は、食べなければ命に関わります。どんなに辛くても、生きるために最低限の行動を取らざるを得ません。

しかし、「清潔」はどうでしょうか。
極端な話、お風呂に入らなくても、部屋が汚くても、すぐに死ぬことはありません。そして、引きこもっていれば、誰かにその不潔さを指摘されることもない。だからこそ、限られたエネルギーの中で、真っ先に切り捨てられ、後回しにされてしまうのです。

そして何より、この問題は「恥ずかしい」という感情と直結します。
「食事が作れない」と言うよりも、「何日も歯を磨いていない」と言う方が、何倍も勇気がいると感じませんか?

最も生活に支障が出やすく、最も人に言いにくい。それが「身辺の清潔保持」なのです。

体験談:「次のお風呂は1週間後」が当たり前だった日々

これも、私の恥ずかしい過去をお話しします。
引きこもり生活において、私の衛生観念は完全に麻痺していました。

まず、部屋の片付け
これは多くの方にとって“鬼門”ではないでしょうか。気力も体力もゼロの状態では、部屋を掃除するなどという高尚な行為にエネルギーを割くことは不可能です。いわゆる「汚部屋」「ゴミ屋敷」と呼ばれる状態に、程度の差こそあれ、多くの当事者が陥ります。

私の部屋も、前述の通りコンビニ弁当のゴミ袋で溢れかえっていました。掃除機をかけるなど、もはや異次元の話。何か物を探すときは、ゴミの山をかき分けるような状態でした。

次に、身だしなみ
これが、うつ状態の人間にとっては、本当に難しい。仕事に行く、誰かに会うといった「きっかけ」がなければ、人は驚くほど無頓着になります。

私は、まずヒゲを剃る事ができなくなりました。更に、お風呂に入らず、歯も磨かない。服は、同じ部屋着を着っぱなし。洗濯は、いよいよ着るものが一枚もなくなった時に、仕方なくやるだけ。

特に入浴は、うつ病患者にとってエベレスト登頂並みにハードルが高い行動だと思います。
一人暮らしなら、なおさらです。
湯船にお湯を張り、服を脱ぎ、体を洗い、髪を乾かし、また服を着る。この一連の動作を想像しただけで、どっと疲れてしまうのです。頭がかゆい、体がベタベタして気持ち悪い。そう感じてもなお、「明日でいいや」という先延ばしの誘惑が勝ってしまう。

そうして、「明日やろう」を毎日繰り返し、気づけば1週間が経っている。これは、私にとってごく当たり前のことでした。

人に会う予定がなければ、歯磨きや洗顔も億劫になります。食事すら辛いのに、わざわざ立ち上がって洗面所まで行くという行為が、果てしなく遠い道のりに感じられるのです。

私の場合、週に一度の通院日が、唯一の「リセット」の日でした。その日の朝、ようやく重い腰を上げてシャワーを浴び、歯を磨き、ヒゲを剃り、数少ない外出着の中からマシなものを選んで着る。もし通院が月に一度だったら、私の衛生状態はもっと悲惨なことになっていたでしょう。

入浴をしないということは、服を着替えるきっかけもなくなるということです。一日中ベッドの上で過ごす毎日。部屋着のまま眠り、そのまま起きる。下着すら、1週間替えないこともありました。

今、こうして文章にしながらも、自分のことながら顔から火が出る思いです。これは、到底人に話せるようなことではありません。しかし、これが当時の私の、偽らざるリアルな姿でした。

なぜ医師に伝わりにくいのか?病院に行く日の“ワナ”

ここで、非常に重要な問題があります。
それは、「清潔保持」に関する困難は、特に医師に伝わりにくいということです。

なぜだと思いますか?
答えは簡単です。私たちが病院に行くのは、「一番マシな状態」の時だからです。

普段、何日もお風呂に入らない人でも、病院に行く日となれば話は別です。それは、引きこもりの人間にとって数少ない「社会との接点」であり、一大イベントだからです。その日のために、私たちは残された最後の気力を振り絞って身綺麗にします。

お風呂に入り、歯を磨き、清潔な服に着替える。そして、精一杯の「普通」を装って、診察室のドアを開ける。

医師の目に映るのは、そんな「取り繕った姿」だけです。医師は、あなたが家では何日もお風呂に入れずに苦しんでいるなど、知る由もありません。あなたが自分から言わない限り、医師は「この患者さんは、身だしなみもきちんとされているな」と判断してしまう可能性すらあるのです。

だからこそ、声を大にして言います。
清潔保持に関する困難は、あなたが意識して伝えない限り、絶対に伝わりません。

とても恥ずかしいことだと思います。特に女性であれば、なおさらでしょう。口に出して言うのが辛ければ、この記事で紹介しているように、紙に書いて渡す方法を強くお勧めします。あなたの勇気が、正しい評価につながるのです。

「清潔保持」6つのチェックリスト

ご自身の状況を客観的に見つめ直すために、以下のリストを活用してください。

□ 1. 居室の掃除・整理整頓:
定期的に部屋の掃除ができていますか?(物が散乱し、足の踏み場もない状態ではありませんか?)

□ 2. ゴミの処理:
ゴミを分別し、決められた日にゴミ出しができていますか?(部屋にゴミ袋が溜まっていませんか?)

□ 3. 入浴:
入浴やシャワーを、適切な頻度(せめて2~3日に1回以上)で行えていますか?

□ 4. 洗面・歯磨き:
毎日の洗顔や歯磨きができていますか?

□ 5. 着替え:
毎日、清潔な衣服や下着に着替えていますか?

□ 6. 洗濯:
汚れた衣類を定期的に洗濯できていますか?

【項目③】金銭管理と買い物:「できない」のは浪費だけじゃない

3つ目の項目は、「金銭管理と買い物」です。
「お金の管理」と聞くと、多くの人は「無駄遣いをしていないか」「浪費癖はないか」といった側面を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、それも重要な評価ポイントです。特に、双極性障害の躁状態や軽躁状態の時には、気分が高揚して金遣いが荒くなり、返済能力を超えた借金をしてしまう、といった危険性があります。これは診断書でも非常に重視される点です。

しかし、この項目で問われているのは、それだけではありません。
うつ状態においては、むしろ真逆の問題が起こります。つまり、「必要なものを、必要な時に、買うことができない」という困難です。

体験談:支払いを滞納し、必要なものが買えなかった頃

引きこもり生活になると、必然的に外出の機会は激減します。「仕事帰りにスーパーに寄る」「休日にショッピングモールをぶらぶらする」といった、日常的な買い物の機会が失われます。

食料品は、生きるために最低限、買いに行かざるを得ません。しかし、トイレットペーパーや洗剤、シャンプーといった日用品はどうでしょうか。

「在庫が切れた。でも、まあ、なくても死なないか…」
そう、またしても「死なないから」という理由で、後回しにされてしまうのです。わざわざそのために服を着替え、外出するエネルギーがない。そうやって、必要なものが買えないまま、不便な生活を我慢し続ける。そんなことが頻繁にありました。

また、「支払管理」も大きな問題でした。
電話代、ガス代、電気代・・・。毎月やってくる公共料金の支払い。口座引き落としにしていればまだ良いですが、コンビニ払いなどの請求書が来ると、もう大変です。

指一本動かすのも億劫な状態では、お金の管理のような煩わしいことから、つい目を背けたくなります。請求書が届いても、封を開ける気力すらない。気づけば支払期限を過ぎ、督促状が届く。それでも、コンビニまで支払いに行くという行動がどうしてもできない。

私は実際にガスを止められてしまいました。ライフラインの中で、ガスは1番に止められるんですね。最終的には親に金を無心して何とか繋ぐ、という情けない状態でした。

このように、「金銭管理と買い物」の困難は、浪費という「やりすぎ」の側面と、必要な行動ができないという「できなさすぎ」の側面、両方から見る必要があるのです。

「金銭管理」5つのチェックリスト

あなたの状況は、以下の項目に当てはまらないでしょうか。

□ 1. 計画的な買い物:
日用品など、必要なものを計画的に購入できていますか?(在庫が切れても買いに行けない、ということがありませんか?)

□ 2. 支払い管理:
家賃や公共料金などを、期限内に支払うことができていますか?(口座の残高管理や、振込・コンビニ払いなどができていますか?)

□ 3. 浪費・衝動買い:
ストレスなどから、高額な商品を衝動的に買ったり、過度な浪費をしたりしていませんか?

□ 4. 借金の問題:
返済のあてがないのに、借金(キャッシングやローン含む)を繰り返していませんか?

□ 5. 予算管理:
自分の収入の範囲内で、計画的にお金を使うことができていますか?

まとめと次回予告

今回は、障害年金の等級判定で最も重要となる「日常生活能力」の7項目のうち、「適切な食事」「身辺の清潔保持」「金銭管理と買い物」という、最初の3項目について、私の体験談も交えながら詳しく解説しました。

▼今回のポイント

  • 適切な食事: 献立→準備→調理→摂食→片付け、という一連の流れを評価される。
  • 身辺の清潔保持: 「死なないから」と後回しにされがちで、かつ医師に最も伝わりにくい項目。意識して伝える勇気が必要。
  • 金銭管理と買い物: 「浪費」だけでなく、「必要なものが買えない」「支払いができない」といううつ状態特有の困難も重要な評価点。

一見、単純に見える項目にも、これだけ多岐にわたる評価の視点が隠されていることを、ご理解いただけたでしょうか。大切なのは、これらの視点を持ってご自身の生活を客観的に振り返り、そのリアルな姿を医師に伝えることです。メモ書きで良いのです。あなたのその行動が、未来を大きく変える一歩になります。

【次回予告】
さて、次回は残りの4項目、

  • (4)通院と服薬
  • (5)他人との意思伝達及び対人関係
  • (6)身辺の安全保持及び危機対応
  • (7)社会性
    について解説していきます。特に「対人関係」や「社会性」は、多くの方が悩みを抱える部分だと思います。引き続き、具体的なポイントを徹底的に解説していきますので、ぜひご覧ください。

【障害年金】うつ病の等級はどう決まる?認定基準の全貌と「あなたがすべきこと」を社労士が徹底解説

2025-08-08

〈目次〉

 

はじめに:心の病気の「重さ」はどう測られるのか?

「障害年金をもらえるなら、できるだけ手厚い等級で認定してほしい」
そう願うのは、病気と闘う誰もが抱く、切実な思いでしょう。経済的な安心は、心の安定に直結します。しかし、いざ申請を考えたとき、大きな疑問が頭をよぎります。

「うつ病や双極性障害の『重さ』って、一体どうやって判断されるんだろう?」

 

例えば、身体の障害であれば、ある程度は客観的な指標を想像しやすいかもしれません。「腕を失ったら何級」「関節がこれ以上曲がらなければ何級」といったように、目に見える形で基準が示されています。内科的な病気でも、「血液検査のこの数値が基準を超えたら」「レントゲン写真でこの所見が見られたら」というように、科学的なデータに基づいた判断がなされます。

では、私たちの抱える精神疾患の場合はどうでしょうか。

心の痛みは、外見からは分かりません。血液検査やMRIで「気分の落ち込み度」を測定することもできません。がんのように「ステージいくつ」といった、世界共通の明確な判定基準があるわけでもありません。

もし今、誰かに「あなたの病気の重さを、客観的な根拠をもって説明してください」と言われたら、あなたはどう答えますか?

「自分では、もう何もできないくらい辛い。だから一番重いはずだ」
「でも、世の中にはもっと大変な人がいるかもしれない。そう思うと、自分は中くらいなのかな…」

このように、自分の感覚に頼るしかなく、答えに窮してしまうのではないでしょうか。知り合いに病状を説明しようとしても、その辛さを裏付ける「根拠」を示すのは、驚くほど難しいことに気づかされます。この「客観的な根拠のなさ」こそが、精神疾患を抱える私たちが社会から理解されにくい、大きな要因の一つなのかもしれません。

しかし、ご安心ください。障害年金の世界には、この目に見えない心の病気の重さを測るための、明確な「ものさし」が存在します。そして、その「ものさし」が何を測ろうとしているのかを正しく理解することこそが、あなたが正当な評価を受けるための、何より重要な第一歩となるのです。

こんにちは。精神疾患の当事者として辛い日々を乗り越え、現在は障害年金を専門とする社会保険労務士として活動している者です。

この記事では、かつての私のように、先の見えない不安の中で「自分の状態が正しく評価されるのだろうか」と悩んでいるあなたのために、精神疾患の障害年金の等級がどのように決まるのか、その全貌を、どこよりも分かりやすく、そして詳しく解説していきます。

この記事を最後まで読めば、審査官が何を見ているのか、そして、あなたが正当な等級を得るために「今すぐ何をすべきか」が、明確に見えてくるはずです。

 

【結論】等級を決める2つのものさし:「日常生活」と「就労」

さっそく結論からお伝えしましょう。精神疾患の障害年金の等級を決定する上で、審査官が用いる「ものさし」は、大きく分けて2つしかありません。

  1. 日常生活能力: 日常生活を送る上で、どれくらい他者の助けが必要か?
  2. 就労能力: 労働によって、どれくらい収入を得ることができるか?

この2つの視点、特に「日常生活にどれだけの支障が出ているか」という点が、精神疾患の等級判定において、他のどんな要素よりも重視される、最重要キーワードとなります。

審査官は、あなたの心の中を直接覗くことはできません。だからこそ、あなたの「辛さ」や「苦しみ」が、日々の生活や仕事といった「具体的な行動」にどのような影響を及ぼしているのか、その「結果」を見て、病状の重さを客観的に判断しようとするのです。

これから、この2つの「ものさし」が、具体的にどのようにあなたの状態を測り、等級という結果に結びついていくのか、そのメカニズムを一つひとつ丁寧に解き明かしていきましょう。

 

ものさし①:「日常生活」を評価する“7つのチェックリスト”

まず、最も重要となる「日常生活能力」の評価についてです。
「日常生活」と一言で言っても、その範囲は非常に広いですよね。審査では、この曖昧な「日常生活」を、より客観的に評価するために、私たちの生活を7つの具体的な場面に分解して見ていきます。

これは、実際に医師が記入する診断書に記載されている公式なチェックリストです。

【日常生活の7つの場面】

  1. 適切な食事
  2. 身辺の清潔保持(入浴、洗面、着替えなど)
  3. 金銭管理と買い物
  4. 通院と服薬(自己管理ができるか)
  5. 他人との意思伝達及び対人関係
  6. 身辺の安全保持及び危機対応(突発的な出来事への対応など)
  7. 社会性(社会的な手続き、公共施設の利用など)

審査官は、この7つの項目一つひとつについて、「他者の助けがどれくらい必要か」という観点からあなたの状態を把握し、等級を判断していくのです。

「食事ができる」の本当の意味とは?

この7つの項目を見て、「あれ?ほとんどできている気がするな…」と感じた方もいるかもしれません。しかし、ここでの「できる」という言葉は、私たちが日常的に使う意味とは少し、いや、かなり異なります。

その違いを理解するために、1番目の「適切な食事」を例に、深く掘り下げてみましょう。

障害年金の審査における「適切な食事ができる」とは、単に「お箸が持てるか」「食べ物を口に運べるか」といった物理的な動作のことではありません。それは、「食事」という行為を取り巻く一連のプロセス全体を、一人で、自発的に、そして適切に遂行できるか、ということなのです。

少し想像してみてください。私たちが「食事をする」までには、実に多くのステップが存在します。

  • ステップ1:意欲と計画
    まず、「お腹が空いたな、何か食べよう」という意欲が湧かなければなりません。そして、「今日は何を食べようか?」と献立を考える必要があります。うつ病の症状が重いと、この最初の「意欲」そのものが失われ、食事への関心が全くなくなってしまうことも少なくありません。
  • ステップ2:準備と調達
    次に、冷蔵庫の中身を確認し、足りないものがあれば買い物に行く必要があります。お店まで行き、商品を選び、レジで支払いをする。この一連の行動には、想像以上のエネルギーと判断力が必要です。
  • ステップ3:調理
    家に帰ったら、買ってきた食材を使って調理をします。野菜を洗い、切り、火を使って煮たり焼いたりする。複数の作業を同時に進める「段取り力」も求められます。
  • ステップ4:摂食
    そしてようやく、実際に食事をとる段階です。しかし、ここでも「適切に」という点が問われます。一日中何も食べなかったり、逆に過食に走ってしまったり、甘いものやインスタント食品ばかりで栄養が極端に偏っていたりする場合、「適切な食事」とは言えません。
  • ステップ5:後片付け
    最後に、食べ終わった食器を洗い、キッチンを後片付けする。この最後のステップをこなす気力が残っているかも、重要な評価ポイントです。

どうでしょうか。単に「食事」と言っても、これほど多くの複雑な行動が連鎖しているのです。障害年金の審査では、この一連の流れを「一人だけで」「誰の助けも借りずに」「きちんと」できるかどうか、という厳しい視点で見ているのです。

他の6項目、例えば「身辺の清潔保持」であれば、お風呂に入る気力が湧くか、季節に合った服を選べるか。「金銭管理」であれば、計画的にお金を使えるか、公共料金の支払いを忘れずに行えるか、といったように、すべて同じ考え方で評価されます。

 

あなたのレベルはどれ?「できる」を測る“4段階評価”

そして、この7つの項目それぞれについて、医師はあなたの状態を以下の4段階で評価し、診断書にチェックを入れることになります。

  1. (問題なく)できる
  2. 自発的にできるが、時には助言や指導を必要とする
  3. 自発的かつ適正に行うことはできないが、助言や指導があればできる
  4. 助言や指導をしてもできない、若しくは行わない

1番の「問題なくできる」と、4番の「全くできない」は、比較的イメージしやすいかと思います。問題は、多くの方が該当するであろう、2番と3番の違いです。

この二つを分けるキーワードは、ズバリ「自発性」です。つまり、「自分からやろうと思えるか、行動に移せるか」が決定的な違いとなります。

先ほどの「食事」の例で、もう一度考えてみましょう。

  • レベル2の状態とは?
    自分から「お腹が空いたからご飯を作ろう」と思えるし、行動にも移せる。しかし、調理の途中で手順がわからなくなってパニックになったり、何を作っていいか決められずに立ち尽くしてしまったりして、時々、家族に「次はこれをしたら?」と助けてもらう必要がある状態。これがレベル2です。行動のきっかけは「自分」にあります。
  • レベル3の状態とは?
    そもそも自分から「ご飯を食べよう」という意欲が全く湧かない。何時間もベッドから出られず、食事のことなど考えもしない。しかし、家族が「ご飯できたよ、ここに座って。さあ、一口食べてみよう」と根気強く促し、手取り足取りサポートしてくれれば、なんとか食事をすることができる状態。これがレベル3です。行動のきっかけは「他人」にあります。

この「自発性」という、非常に微妙でありながら決定的な違いを、医師に正しく理解してもらうことが、適正な等級を得る上で極めて重要になるのです。

 

ものさし②:「日常生活」を“全体として”評価する5段階評価

7つの項目を個別に評価する4段階評価とは別に、もう一つ、あなたの状態を評価する「ものさし」が診断書には存在します。

それは、「日常生活能力の程度」を、より大きな視点から全体として評価する、5段階評価です。

これは、先ほどの7項目のような細かい分類はせず、「日常生活」や「社会生活」という、より広い範囲での活動能力を、他者からの「援助」がどれくらい必要かという観点で評価するものです。

ここで「日常生活」と「社会生活」という、似たような言葉が出てきましたね。

  • 日常生活とは、食事や入浴、家の中での活動といった、主に個人的な身の回りの活動を指します。
  • 社会生活とは、会社や学校に行く、友人との付き合い、地域活動への参加など、他者や社会と関わる活動を指します。

この5段階評価では、より広い意味での「社会生活」まで含めて、あなたの能力を総合的に判断します。

【日常生活能力の程度(5段階評価)】

  1. 精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる。
  2. 精神障害を認め、社会生活には、助言や指導を必要とする。
  3. 精神障害を認め、社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。
  4. 精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする。
  5. 精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできないため、常時援助を必要とする。

レベル1は援助が不要な状態、レベル5は身の回りのこと全般に常時援助が必要な状態です。この5段階評価は、あなたの状態を大局的に捉えるための、もう一つの重要な指標となります。

 

【核心】あなたの等級が決まるメカニズム:「等級の目安」を読み解く

さて、ここまで2つの「ものさし」を見てきました。

  • 7項目 × 4段階 の個別評価
  • 1項目 × 5段階 の総合評価

では、これらの評価が、最終的に「障害等級1級、2級、3級」という結果に、どのように結びついていくのでしょうか。ここが、あなたが最も知りたい部分だと思います。

審査の現場では、これら2つの評価を組み合わせて等級を判断するための、「障害等級の目安」という、いわば「判定表」のようなものが使われています。

ものすごくザックリと、感覚的な目安をお伝えすると、以下のようになります。

  • 7項目評価で、「レベル2(時に援助が必要)」が多い → おおむね3級の可能性
  • 7項目評価で、「レベル3(援助があればできる)」が多い → おおむね2級の可能性
  • 7項目評価で、「レベル4(援助があってもできない)」が多い → おおむね1級の可能性
  • 5段階評価で、「レベル2~3」 → おおむね3級の可能性
  • 5段階評価で、「レベル3~4」 → おおむね2級の可能性
  • 5段階評価で、「レベル5」 → おおむね1級の可能性

より正確に言うと、審査官はこれら2つの評価を機械的に組み合わせて、等級の目安を判断しているのです。

「等級の目安」の表を公開!

少し専門的な話になりますが、実際に審査で使われている「等級の目安」の表をご紹介します。これを見れば、そのメカニズムが一目瞭然となります。

【精神の障害に係る等級判定ガイドライン(障害等級の目安)】

7項目の平均

1

2

3

4

5

1.0~1.4

非該当

非該当

3級

3級

2級

1.5~1.9

非該当

3級

3級

2級

2級

2.0~2.4

3級

3級

3級

2級

2級

2.5~2.9

3級

3級

2級

2級

1級

3.0~3.4

3級

2級

2級

1級

1級

3.5以上

2級

2級

1級

1級

1級

〈表の見方〉

  1. まず、「7項目×4段階評価」について、各段階を点数化します。(1:できる=1点、2:時に援助=2点、3:援助あれば=3点、4:できない=4点)
  2. 7項目の点数を合計し、7で割って平均点を出します。これが表の縦軸になります。
  3. 次に、「日常生活能力の程度(5段階評価)」の段階数を、そのまま表の横軸とします。
  4. 縦軸(平均点)と横軸(5段階評価)が交差するマスに書かれているのが、あなたの等級の目安となります。

【具体例】
例えば、あなたの診断書が以下のような評価だったとします。

  • 7項目評価の平均点が「3.0」だった。
  • 5段階評価が「3」だった。

この場合、表の「3.0~3.4」の行と、「3」の列が交差するマスを見ると、「2級」と書かれています。つまり、あなたの状態は、この判定表上では「障害等級2級に相当する可能性が高い」と判断されるわけです。

目安はあくまで目安。総合的な判断が下される理由

「なるほど、この表で決まるのか!」と、少し安心されたかもしれません。しかし、ここで非常に重要な注意点があります。

それは、この表はあくまで「目安」であり、この表の結果が100%あなたの等級になるわけではない、ということです。

審査では、この「等級の目安」を基本としながらも、診断書に書かれたその他のあらゆる情報を考慮に入れて、最終的な等級が総合的に決定されます。

例えば、判定表では「2級相当」という結果が出ても、診断書の他の部分に、「天気の良い日は散歩に出かけている」「友人と時々会って話をしている」といった、比較的「元気」だと判断されかねない記述があった場合、等級が3級に下がったり、不支給になったりする可能性も出てくるのです。

では、この「等級の目安」以外に、審査官が特に重視する要素とは何でしょうか。それが、冒頭で述べたもう一つの「ものさし」である「就労」の状況なのです。

 

等級に影響する最重要ファクター:「就労」の壁

思い出してください。障害年金の等級を決める2つのものさしは、「日常生活能力」と「就労能力」でした。ここまで解説してきた「等級の目安」は、主に「日常生活能力」を評価するものです。

そして、この目安で導き出された等級が妥当かどうかを判断するために、審査官はあなたの「就労」の状況を厳しくチェックします。

なぜなら、障害年金の認定基準には、就労能力について以下のような明確な定義があるからです。

  • 1級: (日常生活が極めて困難なため、就労は想定されていない)
  • 2級: 労働によって収入を得ることができない程度のもの
  • 3級: 労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

この定義を見れば一目瞭然ですね。
もし、判定表で「2級相当」という結果が出ていたとしても、あなたが一般企業でフルタイム勤務をしていたらどうでしょうか。審査官は「労働によって収入を得ることができている。2級の定義には当てはまらない」と判断し、等級を3級や不支給に変更する可能性が極めて高いのです。

これが、「日常生活」の評価が2級レベルでも、働いているというだけで2級が認められにくい、いわゆる「就労の壁」の正体です。

2級を目指すのであれば、最低条件として、

  1. まず、日常生活能力が「2級相当」であること(必要条件)
  2. その上で、就労能力も「労働によって収入を得られない」状態であること(十分条件)

この2つの条件を両方クリアする必要がある、と考えるのが現実的です。

「働いている=元気」ではない!正しい伝え方

では、「少しでも働いていたら、もう2級は絶対に無理なのか?」というと、必ずしもそうではありません。大切なのは、その「働き方の中身」です。

例えば、

  • 体調が悪く、週に2~3日、1日数時間の短時間勤務しかできない。
  • 常に上司や同僚からの特別な配慮(業務量の調整、頻繁な休憩、指示の単純化など)がなければ、仕事を続けることができない。
  • 欠勤や早退が多く、安定した勤務が全くできていない。

このような状況は、3級の定義である「労働に制限がある」状態に当てはまります。たとえ働いていたとしても、その実態が「普通の働き方」とはほど遠いことを、診断書や申立書で具体的に示すことができれば、3級に認定される可能性は十分にあります。

一番避けたいのは、「働いている」という事実だけが一人歩きし、「この人は元気で問題なく働けている」と誤解されてしまうことです。

障害者雇用という選択肢が持つ大きな意味

ここで、特に知っておいていただきたいのが「障害者雇用」という働き方です。

もしあなたが障害者雇用枠で働いている場合、一般雇用とは異なり、会社側があなたの障害を理解し、特別な配慮を提供していることが前提となります。そのため、障害者雇用で働いているという事実は、一般雇用の場合よりも、障害の重さを示す有力な材料として考慮される傾向があります。

ガイドラインにも、「障害者雇用制度を利用した就労については、2級の可能性を検討する」と明記されています。

これは、社会復帰を考える上で、非常に大きな意味を持ちます。
例えば、うつ病で退職し、障害年金2級を受給できるようになったとします。その後、体調が少し安定し、「もう一度働きたい」と思ったとき、いきなり一般雇用でフルタイム復帰するのは、再発のリスクも高く、非常にハードルが高いでしょう。

しかし、そこで「障害者雇用」という選択肢を検討するのです。
障害者雇用であれば、無理のないペースで、配慮のある環境で働くことができます。そして、たとえ働き始めたとしても、障害年金2級または3級を受給し続けられる可能性が残ります。

障害者雇用の給与は、一般的に低く抑えられがちですが、そこに障害年金を加えることで、「安定した収入」と「ストレスの少ない労働環境」を両立させ、再発のリスクを抑えながら、着実に社会復帰への道を歩むことができるのです。これは、長期的な視点であなたの人生を立て直すための、非常に賢明な戦略の一つと言えるでしょう。

 

【最重要】等級を左右する「診断書」の真実

ここまで、等級判定のメカニズムと、日常生活や就労の重要性について解説してきました。そして、これら全ての情報が、たった一つの書類に集約されます。

それが「診断書」です。

あなたの等級は、この診断書に何が書かれているかで、ほぼ全てが決まると言っても過言ではありません。7項目評価も、5段階評価も、就労状況も、すべてはこの診断書に基づいて判断されます。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。

医師はあなたの「日常生活」を知らない

考えてみてください。普段の診察時間は、5分か10分程度ではないでしょうか。その短い時間で、あなたは医師に何を話していますか?

「最近、気分が落ち込んでいて…」
「夜、よく眠れなくて…」
「薬を調整してほしいのですが…」

おそらく、症状や薬に関する話が中心で、「家で食事が作れなくて困っています」「お風呂に入るのが週に1回になってしまいました」「お金の管理ができず、支払いを滞納してしまいました」といった、具体的な日常生活の困りごとまで、詳しく話す機会はほとんどないはずです。

つまり、医師は、あなたの日常生活のリアルな実態を、ほとんど知らないのです。

それにもかかわらず、医師は診断書の7項目評価を記入しなければなりません。情報がない中で、医師はどうするでしょうか。患者さんの様子や、わずかな会話から「おそらく、これくらいだろう」と推測して書かざるを得ないのです。

その結果、あなたの本当の状態とはかけ離れた、実態よりも「軽く」見えてしまう診断書が出来上がってしまう危険性が、常に存在します。

 

「これだけはやって!」納得のいく診断書を書いてもらうための秘策

では、どうすればいいのでしょうか。答えはシンプルです。

「こちらから、医師に正確な情報を提供する」

これしかありません。医師も人間です。そして、科学者でもあります。診断書という公的な書類を作成する上で、「本人の証言」というエビデンス(証拠)は、非常に重要な参考資料となります。

「でも、診察中にそんなに長く話す時間はない…」
その通りです。だからこそ、「書面にして渡す」のです。

A4用紙1枚で構いません。診断書の作成を依頼する際に、あなたの日常生活の状況をまとめたメモを一緒に渡すのです。これは、驚くほど効果があります。私の経験上も、「こういう資料があると、非常に助かる」と言ってくださる医師は、年々増えています。

では、具体的に何を書けばいいのでしょうか。
一番のおすすめは、この記事で解説した「日常生活の7つの項目」に沿って、ご自身の状況を具体的に書き出すことです。

  • (1)適切な食事:
    • 週に何回、自分で調理できているか。
    • 食事の内容は偏っていないか(インスタント食品や菓子パンばかりなど)。
    • 家族に食事の準備をしてもらっているか。
  • (2)身辺の清潔保持:
    • 入浴やシャワーの頻度はどれくらいか。
    • 同じ服を何日も着続けていないか。
    • 部屋の掃除や片付けができているか。

このように、7項目それぞれについて、「できる/できない」だけでなく、「どれくらいの頻度で」「誰の助けを借りて」「どんな状態か」を、できるだけ具体的に書き出してみましょう。

この「情報提供」という一手間が、あなたの本当の苦しみを医師に伝え、実態に即した、納得のいく診断書を書いてもらうための、最も重要で効果的なアクションなのです。

まとめと次回予告

今回は、精神疾患の障害年金の等級がどのように決まるのか、その全体像と基本的な考え方について、詳しく解説しました。

▼今回の最重要ポイント

  • 等級は「日常生活」と「就労」の2つの「ものさし」で決まる。
  • 特に「日常生活の7項目」で、どれだけ他者の助けが必要かが重要。
  • 「できる/できない」の判断基準は、「自発性」がカギ。
  • 等級判定の土台となる「診断書」には、あなたのリアルな生活状況を、こちらから情報提供することが不可欠。

少し難しい話も多かったかもしれませんが、審査の仕組みを知ることで、あなたが今何をすべきかが見えてきたのではないでしょうか。

そして、納得のいく診断書を書いてもらうためには、7つの項目がそれぞれ「何を聞こうとしているのか」を、より深く理解しておく必要があります。

【次回予告】

次回のブログでは、いよいよ「日常生活の7項目」の一つひとつを、徹底的に深掘りして解説していきます。それぞれの項目で、具体的にどのような点が評価されるのか。それを知ることで、あなたは医師に渡す「メモ」を、より的確に、そして効果的に作成できるようになるはずです。

障害年金の申請は、あなた自身の人生を取り戻すための、大切な一歩です。焦らず、一つひとつ、着実に進んでいきましょう。

【障害年金の初診日】カルテがない?大丈夫。うつ病の初診日を証明する全手順を社労士が解説

2025-08-04

「障害年金の請求には『初診日』が重要だと分かった。でも、具体的に何をすればいいの?」

前回の記事を読んで、そう思われた方も多いのではないでしょうか。頭では理解できても、体調が優れない中、次の一歩を踏み出すのは本当に大変なことですよね。

こんにちは。精神疾患の当事者でもある、障害年金専門の社会保険労務士、渡邊智宏です。

今回は、「初診日を証明するための具体的なアクション」について、徹底的に解説します。すんなり証明できるケースから、「カルテがない」と言われて絶望しそうなケースまで、あらゆるパターンを網羅しました。

この記事を読めば、あなたが今すぐ何をすべきか、そして万が一壁にぶつかった時にどうすればいいのかが、明確にわかります。一人で抱え込まず、一緒に解決の糸口を探していきましょう。

まずは王道!「受診状況等証明書」をもらおう

初診日の病院に見当がついたら、まず試すべき最も確実な方法があります。それが「受診状況等証明書(じゅしんじょうきょうとうしょうめいしょ)」という書類を病院に書いてもらうことです。

「なんだか難しそうな名前…」と身構える必要はありません。これはA4用紙1枚のシンプルな書類で、「いつ、どんな症状で来院しましたか」という内容を証明してもらうものです。所定の書式があり、日本年金機構のホームページでダウンロードできます。

https://www.nenkin.go.jp/shinsei/jukyu/shougai/shindansho/20140421-20.files/0000012239XWI83snsjt.pdf

▼アクションプラン

  1. 書類を入手する: 日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
  2. 病院へ依頼する: 初診の病院の受付窓口で「障害年金の申請で使うので、受診状況等証明書を書いてください」と伝えればOKです。
  3. 待つ: 通常1~2週間ほどで作成してもらえます。

この書類が手に入れば、あなたの初診日は確定します。ようやく、障害年金申請の本当のスタートラインに立てたということです。

【注意!】こんな記載があったら要注意
書類の中に「以前、別の病院を受診」「〇〇病院からの紹介」といった記載があった場合、その「以前の病院」や「紹介元の病院」が本当の初診日と判断されます。その際は、そちらの病院で改めて証明書をもらい直す必要があります。

 

 

うつ病でよくある「初診日の勘違い」に注意!

精神疾患の初診日には、多くの方が陥る「勘違い」があります。

例えば、
「体調不良でA内科へ→原因がわからずBメンタルクリニックへ→初めて『うつ病』と診断」
この場合、なんとなく診断が出た「Bメンタルクリニック」が初診日だと思いがちですよね。

しかし、障害年金の世界では「A内科」が初診日になります。
なぜなら、初診日の定義は「その病気や症状について、初めて医療機関を受診した日」だからです。「診断名がついた日」ではないのです。

原因不明のめまい、不眠、動悸などで最初に内科などを受診した場合、そこがあなたの初診日になる可能性が高いことを覚えておいてください。

 

 

絶望しないで!「カルテがありません」と言われた時の3つの逆転手

「初診の病院に問い合わせたら、『カルテはもう破棄しました』と言われた…」

これは、本当によくあるケースです。法律上、カルテの保存義務は最終受診日から5年。それ以上経っていると、破棄されていても仕方ありません。頭が真っ白になりますよね。

でも、諦めるのはまだ早すぎます。ここからが専門家の腕の見せ所。カルテがなくても初診日を証明する、3つの逆転方法をお伝えします。

逆転手①:最強カード「紹介状の控え」を探せ!

もし、初診の病院から次の病院へ移る際に「紹介状」をもらっていたら、大チャンスです。

紹介状には「〇年〇月〇日に初診」といった経緯が書かれていることが多く、これ自体が初診日の強力な証拠になります。初診の病院にカルテがなくても、紹介先の病院にカルテと紹介状の控えが残っているケースは少なくありません。まずは紹介先の病院に問い合わせてみましょう。

逆転手②:合わせ技で勝負!「第三者証明+客観的な証拠」

紹介状もなかった場合、友人や元同僚など「第三者」(家族は不可)に、「この頃、確かに通院していました」という証明書を書いてもらう方法があります。

ただし、これだけでは証拠として弱いため、

  • 日付入りの診察券
  • お薬手帳
  • 医療費の領収書
  • 生命保険の告知書

など、通院の事実を示す客観的な証拠をセットで提出する必要があります。ハードルは上がりますが、諦めずに探してみましょう。
(※初診日が20歳前の場合は、第三者証明だけでも認められやすいという特例があります)

逆転手③:最後の奥の手「保険料納付による申し立て」

あらゆる証拠が見つからなくても、まだ道はあります。これはかなり専門的な方法ですが、

「初診日があったはずの期間、年金保険料を真面目に納めていたのだから、初診日不明という理由だけで不支給にするのはおかしい」

というロジックで申し立てる、いわば「誠実な納付者を救うための最終手段」です。

具体的には、「20歳から、カルテが残っている一番古い病院の受診日まで」といった長期間の保険料納付状況を証明し、その期間ずっと保険料を納めていれば、初診日を認めてもらえる可能性があるという方法です。

ただし、この方法を使うと、たとえ会社員期間が長くても「障害基礎年金」の対象とされてしまう可能性がある、というデメリットもあります。それでも、「全くもらえない」よりは遥かに良い選択と言えるでしょう。

 

 

【まとめ】一人で抱え込まないで。専門家を頼るのも賢い選択です

今回は、初診日を証明する具体的な手続きについて、かなり専門的な内容まで踏み込んで解説しました。

「自分一人でやるのは、難しそうだ…」
「体調が悪いのに、こんなに動けない…」

そう感じた方も多いのではないでしょうか。当然です。そんな時のために、私たち社会保険労務士(社労士)という専門家がいることを、ぜひ心の片隅に置いておいてください。

社労士に依頼すれば、今回お話しした面倒な手続きのほとんどを代行できます。もちろん費用はかかりますが、多くの事務所では年金が受給できた場合に成功報酬を支払う形を取っており、初期費用を抑えられるケースがほとんどです。

大切なのは、「行動を起こすこと」です。

ぐるぐると一人で悩み続けている間に、5年のカルテ保存期間が過ぎてしまうかもしれません。

  • まずは、一番最初に行った病院を思い出してみる。
  • もし難しそうなら、専門家に相談してみる。(最初は家族や友人など)

どれも、あなたの未来を切り拓くための、価値ある一歩です。この記事が、あなたの背中を少しでも押すことができたなら、これほど嬉しいことはありません。

うつ病の障害年金|「初診日」を知らないと大損する3つの理由【当事者社労士が解説】

2025-07-30

「障害年金をもらいたいけど、何から手をつけていいか分からない…」
「やるべきことが多そうで、結局後回しにしてしまう…」

もしあなたが今、そんな風に途方に暮れているなら、その気持ち、痛いほどわかります。私も、うつ病で動けなかった頃は全く同じでした。

でも、どうか聞いてください。障害年金がもらえるかどうかは、「最初の一歩」を正しく踏み出せるかで、その後の運命が大きく変わると言っても過言ではありません。

その「最初の一歩」こそが、「初診日」を特定すること。

「初診日って、初めて病院に行った日でしょ?」
そう思ったあなた、実はそこに大きな落とし穴が潜んでいるかもしれません。

この記事では、僕自身の経験も交えながら、なぜ「初診日」があなたの人生を左右するほど重要なのか、その理由を当事者であり社労士でもある僕が徹底解説します。この記事を読めば、あなたが次に何をすべきか、ハッキリと見えてくるはずです。

 

運命の分かれ道!「初診日」が超重要な3つの理由

「初診日」と聞くと、ただの日付だと思うかもしれません。しかし、障害年金の世界では、この日があなたの未来を決定づける「運命の日」になります。なぜそこまで重要なのか、知らなきゃ大損する3つの理由を、分かりやすく解説します。

理由① もらえる年金の種類と金額が変わる!

あなたがもらえる障害年金には、「障害厚生年金」と「障害基礎年金」の2種類があります。どちらがもらえるかは、なんと「初診日に、どんな働き方をしていたか」で決まるのです。

  • 障害厚生年金:初診日に会社員や公務員として厚生年金に加入していた人
  • 障害基礎年金:初診日に自営業、フリーター、主婦、学生など国民年金に加入していた人

一般的に、障害厚生年金の方が保障は手厚く、もらえる金額も多くなる傾向にあります。自分の給与明細を見て「社会保険料」が天引きされていれば、厚生年金に加入している証拠です。初診日が1日違うだけで、生涯受け取る年金額が大きく変わる可能性があるのです。

理由② 保険料を払っていたかの「チェック基準日」になる!

障害年金は、国が運営する「保険」制度です。普段から保険料をコツコツ払っていた人が、いざという時に助けてもらえる仕組み。そのため、「ちゃんと保険料を納めていましたか?」というチェックが入ります。

このチェックの基準日こそが、「初診日」なのです。

「病気になってから慌てて未納分を払う」という後出しジャンケンは認められません。「初診日より前」の時点で、保険料の納付要件をクリアしている必要があるのです。

では、どれくらい払っていればOKなのでしょうか?基準は2つあり、どちらか一方を満たせば大丈夫です。

  1. 【原則】全期間の3分の2以上を納付
    • 20歳から初診日までの全期間のうち、3分の2以上の月で保険料を納めている(または免除されている)こと。
  2. 【特例】直近1年間に未納がない
    • 初診日の前々月からさかのぼって、直近1年間の保険料をすべて納めていること。

「若い頃は払えていなかったけど、最近は真面目に払っている」という方でも、この特例のおかげで救われるケースは非常に多いです。あなたの納付状況が、初診日を基準に判断されることを、ぜひ覚えておいてください。

【上級者向けメモ】なぜ「初診日の前々月」なの?

法律では「初診日の前々月までに」と、さらに細かく決まっています。これは、年金保険料の納付期限が「翌月末」だからです。例えば3月15日が初診日の場合、1月分の保険料(納期限は2月末)は払っている必要がありますが、2月分の保険料(納期限は3月末)はまだ払っていなくてもセーフ、という理屈です。納付期間がギリギリの方は、このルールが明暗を分けることもあります。

理由③ 手続きの「スタートライン」が決まる!

障害年金は、原則として「初診日から1年6ヶ月経った日」から請求できるようになります。

つまり、初診日が特定できなければ、

  • いつから請求準備を始めればいいか分からない
  • 自分が厚生年金と基礎年金のどちらに該当するかすら分からない
  • 保険料の納付要件をクリアしているかチェックもできない

というように、何もかもが前に進まないのです。

逆に言えば、初診日さえ確定すれば、あとはパズルのピースがはまるように、やるべきことが次々と決まっていきます。年金事務所に「この日が初診日なのですが…」と相談すれば、その場であなたが対象になるかどうかの見通しを立てることさえ可能になります。

【まとめ】さあ、記憶の引き出しを開けてみよう

ここまで、障害年金における「初診日」がいかに重要か、お分かりいただけたでしょうか。

  • もらえる年金の種類が決まる
  • 保険料納付のチェック基準になる
  • 手続き全体のスタートラインになる

もしあなたが今、「どうしたらいいか分からない」と立ち止まっているなら、まずやるべきことは一つです。

「そういえば、今の心の不調につながる症状で、一番最初に病院に行ったのはいつ、どこの病院だったかな?」

この問いの答えを、記憶の引き出しから探ってみてください。忘れないように、スマホのメモや手帳に書き留めておきましょう。

その小さなメモが、あなたの人生を立て直す、大きな大きな第一歩になります。

【次回予告】

さて、今回は「初診日」の重要性について解説しました。次回の記事では、いよいよ「じゃあ、具体的にどうやって初診日を証明するの?」「カルテがなかったらどうするの?」といった、実践的な手続きについて詳しく解説していきます。お楽しみに!

11月14日に障害年金の無料相談会を行います

2020-10-19

新型コロナの影響で中止しておりましたが、障害年金の無料相談会を再開しております。

11月14日(土)に障害年金無料相談会を行います。
【障害年金 無料相談会】
場所:レディヤン春日井
日時:令和2年11月14日(土) 午後1時から午後5時まで

尚、感染防止の観点から、必ずマスクの着用をお願いいたします。

また、発熱等の症状がある方も、ご遠慮下さいます様お願いいたします。

障害年金をもらえるかどうか分からない方
年金を納めてない期間があって心配な方
長い間うつ病で苦しんでいる方
障害年金を請求したいけれど、やり方が分からない方
など、多数のご参加をお待ちしております。

完全予約制ですので、事前にご連絡下さい。
メールでのご予約はこちら
お電話でのご予約は 0568-92-4864 まで


大きな地図で見る

なお、誠に勝手ながら、完全予約制とさせていただきます。
事前にご連絡下さい。
メールでのご予約はこちら
お電話でのご予約は 0568-92-4864 まで

10月17日、障害年金の無料相談会を行います

2020-09-12

新型コロナの影響で中止しておりましたが、障害年金の無料相談会を再開しております。

10月17日(土)に障害年金無料相談会を行います。
【障害年金 無料相談会】
場所:レディヤン春日井
日時:令和2年10月17日(土) 午後1時から午後5時まで

尚、感染防止の観点から、必ずマスクの着用をお願いいたします。

また、発熱等の症状がある方も、ご遠慮下さいます様お願いいたします。

障害年金をもらえるかどうか分からない方
年金を納めてない期間があって心配な方
長い間うつ病で苦しんでいる方
障害年金を請求したいけれど、やり方が分からない方
など、多数のご参加をお待ちしております。

完全予約制ですので、事前にご連絡下さい。
メールでのご予約はこちら
お電話でのご予約は 0568-92-4864 まで


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なお、誠に勝手ながら、完全予約制とさせていただきます。
事前にご連絡下さい。
メールでのご予約はこちら
お電話でのご予約は 0568-92-4864 まで

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