倹約したら訴えられた?!でござる  「派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令」

今朝、何気なく新聞を読んでいたら、こんな記事を見つけました。

111103

派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令 名古屋地裁

派遣先の三菱電機名古屋製作所(名古屋市東区)で一方的に雇用契約を打ち切られたのは不当として、元派遣社員の男女3人が三菱電機に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟の判決が2日、名古屋地裁であり、田近年則裁判長は同社に計約140万円の支払いを命じた正社員としての地位の確認については認めなかった

判決によると、3人は請負や派遣社員として同製作所で勤務。2008年12月に契約期間の途中で解雇通告を受け、09年1~2月に派遣会社が解雇した。
判決理由で田近裁判長は「リーマン・ショックで雇用情勢が厳しい状況での突然の派遣切りで、経済的、精神的な打撃は甚大」と指摘。「ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者の生活を著しく脅かし、派遣先として信義則違反の不法行為が成立する」と結論づけた。
さらに原告2人については業務請負会社の社員として派遣された「偽装請負」だったと認定。労働者派遣法の制限を超えて長期間にわたって就業させていた点に触れ、「規則をないがしろにしながら、一方で自社の生産の都合で派遣契約を中途解約したのは身勝手も甚だしい」と述べた。
判決後に記者会見した原告の男性(45)は「これまで追及されてこなかった派遣先企業の責任が認められ、うれしい」と話した。原告側代理人の弁護士は「同様の事案は全国で訴訟になっているが、派遣先の責任を認めた例は少なく意義がある」としている。
三菱電機の話 当社の主張が認められず、残念である。今後は判決の詳細を検討して対応したい。

引用元: 派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令 名古屋地裁  :日本経済新聞.




初見の印象は、「何言っているか解らない」でした。


まずは事実関係を整理しましょう

そこでまず内容を確認しましょう。


三菱電機と派遣契約があった
  ↓
偽装請負もあった
  ↓
リーマンショック
  ↓
生産量減少
  ↓
派遣契約解消
  ↓
派遣社員、失業



と読めます。


詳しい内容は新聞からだけではわからない事を前提に話しますが、これって三菱電機のどこが悪いんでしょうか?
契約関係を確認しておくと、


三菱電機 ←派遣契約→ 派遣会社
派遣会社 ←雇用契約→ 労働者
三菱電機 ←指揮命令→ 労働者



となります。
いわゆる派遣契約の三角形の契約関係です。


再度確認しますが、三菱電機のどこが悪かったかと言えば、偽装請負をしていたという点です。
派遣労働者が失業した責任は三菱電機にはなく、派遣会社が負うのがこの契約の中身です。
訴えられるべきは派遣会社、という事になります。



なぜ三菱電機を訴えられるのか?

では、なぜ今回三菱電機が訴えられたかというと、憶測ですが件の派遣会社は既に倒産するなりして責任追及できなかったからではないかと。


リーマンショックで派遣切りにあって悔しい!
訴えたいけど雇用主はもういない。
じゃあ、派遣先の三菱電機を訴えよう。
そもそも三菱電機が派遣契約を切ったりしなければよかったのだから。


という論法だと思います。
なんとなく社会正義的には「派遣切り」即「悪」という図式は定着しつつあるので三菱電機も悪いよね、という感情論に流されそうですが、ここは冷静に考えてほしいのです。三菱電機と派遣労働者の関係を。



三菱電機は派遣労働者の雇い主?

繰り返しになりますが、この派遣労働者と雇用関係にあったのは派遣元企業です。
三菱電機から見れば、派遣労働者は余所の人達であって正社員でもなければ期間雇用でもアルバイトですらない。
三菱電機が契約しているのはあくまで「派遣元会社」との「労働力を提供する」という契約です。
派遣労働者は実質的に三菱電機と雇用関係にあったとする社員としての地位確認請求も行っていますが、それについてはきっちり否定されています。


現実のこの契約の内容がどうなのかは現状では知る由もないので憶測になりますが、製造業で働く多くの友人・知人から聞くところによると、この労働者供給契約の中途解約にあたってはメーカー側は相当金額の違約金を派遣会社に支払うのが通例だそうです。この場合に、解雇予告手当相当の一か月分の賃金以上の違約金が支払われていたかどうかは解りませんが、三菱電機ともあろう大企業が、いくら財政逼迫とはいえ、後から揉めることが分かっているこの状況で何ら解決金の支払いをせずに契約解除はしていないと思います。



派遣労働者のもつ労働契約上の権利とは何か?

問題は、その支払先はあくまで派遣元会社である、という点にあるでしょう。
これは、この労働者供給契約の当事者が三菱電機と派遣元会社との間で締結されたものですから当然です。この契約の中に労働者は当事者としては登場しないので、それを直接三菱電機に請求することも難しいでしょう。派遣労働者はあくまで派遣元会社と雇用契約をしているので、この派遣労働者ができる請求というのは、派遣元企業に対して「仕事をよこせ」か「さもなければ休業手当を出せ」しかありません。もっとも、この時点で解雇を言い渡されていたならば、「解雇無効」を訴えることが考えられますし、「一か月分の予告手当」を請求することもできます。いずれにしても、派遣労働者は派遣元会社にしか請求することはできず、三菱電機に対しては何も言う権利がありません。三菱電機はあくまでたまたま「働く場所」だったにすぎず、何ら契約関係にないからです。


にも関わらず、今回の判決では、三菱電機は信義則違反で「派遣労働者に対して」不法行為を形成しているから、「派遣労働者に」慰謝料を支払え、という判決になっているのです。


ここが、冒頭で「何を言っているのか解らない。」という感想につながるのです。



働いていた人たちはひどい目にあっている その想いはどこにあるのか

勿論、実際に働いていた人たちのやり場のない怒りについても解らないではないのです。
働いていた人たちからすると、派遣元会社で働いていたという認識よりも、三菱電機で働いていたという認識の方が強いのかもしれません。単に直接雇用されている人たちとは給料の出所が違っていただけ、と。にもかかわらず、派遣というだけで差別的待遇を受けるという現実もあった。偽装請負で働かせるだけ働かせて使い捨てにされた、という気持ちもあったでしょう。


そうした気持ちは理解できます。そもそも派遣労働という形態事態が問題を含んでいて、かなりグレーな制度だと思います。本来であれば、「短期雇用」というリスクを採っている派遣などの非正規社員の方が、リスクプレミアムとして高い賃金をもらうべきなのに、正社員の既得権益のために給与水準が逆転してしまっているというのも問題です。
しかし、だからと言って法を曲げるべきだとは思わないのです。




派遣契約解消という事と解雇の違い

先ほども確認した通り、三菱電機はあくまで派遣先企業であって雇用主ではありません。三菱電機側からみると派遣労働者は「労働サービスを提供してくれる別の会社の社員」に過ぎないわけです。
直接雇用する労働者に対しては、会社の一員ですからある程度の責任が伴いますが、外の派遣さんについて言えば違います。むしろ三菱電機からすれば自分たちはサービスを受けている「お客さん」な訳です。「客」である自分たちが、自分の都合でサービスを断ることにどんな問題があるのでしょうか。


身近な例に引き寄せて言うとレンタカーで説明します。
車は通常、自分で所有します。所有するという事は所有権を主張できるので自分の好きな時に自由に使えますが、その代わり税金を負担したり、メンテナンスをしたりといった諸々の義務も発生します。普段よく車を使う人は所有することに意味がありますが、あまり使わないという人にとっては車を買うよりも、必要に応じて借りたほうが得なのです。
それがレンタカーです。レンタカーの所有者はレンタカー屋さんなので、税金、メンテ等面倒事は全部レンタカー屋が行います。その代わり、少し高い借り賃を支払って使いたい時だけ借ります。
このレンタカーについて、お金がないから今回は借りるのをよそう、と言ったからといって文句を言われる筋合いはないでしょう。また、1週間借りる約束だったけれど、途中で不用になったから3日で返すと言っても、違約金なり解約金なりを支払えばそれ以上の問題はないでしょう。例えとしては不適切であるというのは承知で言いますが、派遣労働者というのはこのレンタカーと同じ存在であるという事です。あくまでも「労働というサービスを提供してくれる業者の人」というのが原則なのです。手元不如意となれば、まず最初に手を付けるのは不要なサービスというのは誰しもが納得するところだと思います。
勿論、これは期間のある契約なので、それに伴う解約金なり違約金なりという問題は生じます。しかし、それと解雇とは問題が違っている、という点には注意が必要でしょう。解雇するのはあくまで派遣元企業です。需要の減少で仕事がなくなって雇用を維持できなくなったからと言って、無理にでも買ってもらわなければ困る、というのは押し売りと同じです。しかし、この判決は、そういう趣旨に基づいて、さばききれなかった商品に対する補償を買主に迫っている、とも取れるのです。
ただし、これはあくまでも三菱電機が派遣契約解消にあたって、1か月分の解雇予告手当相当額以上の解約金等を支払っているという前提です。もし、それらを何ら支払うことなく、一方的に派遣切りをしたという事になれば、これはもう三菱電機の自業自得という事になります。



裁判所が因縁つけているようにしか見えない件

話を整理します。


①三菱電機は派遣元会社と派遣契約を解消したのだから、それに対して補償金なり解約金なりを相当額払ったかどうか。
②派遣労働者と派遣元企業の間には雇用関係が存在したのだから、解雇については一般の解雇の当不当を考える。
③三菱電機と派遣労働者との間には指揮命令関係はあるが法律的な契約はない


というのが原則的な考え方です。が、今回の判決では、


④三菱電機が派遣契約を解消したら、次の派遣先が見つからなかったから派遣元会社が派遣社員を解雇した。
⑤だから解雇になったのは三菱電機のせいだ、三菱電機が派遣契約を解消したのはけしからん。
⑥許せないから慰謝料払え。


という事になっています。


なんというか、それは完全に派遣元企業の企業としての力量が足りなかったとか、企業としてちゃんとしていなかったから従業員に迷惑をかけたとかいう事であって、売り上げが減って解雇したんだから、買ってくれなかった奴が悪いと言っているのと全く変わらないわけです。
これ、景気が良くて、次々と派遣先が決まるという情勢下であったとしても同じ結果になるのでしょうか
景気が悪くて生産縮小しなければならないのは三菱電機のせいというわけでもないでしょう。どこのヤクザかと思うような因縁っぷりです。



雇用調整を一切認めない国、日本

日本は解雇規制が異常なまでに強いとは思っていましたが、まさか、派遣契約を解消したら不法行為が成立して慰謝料支払いとか、もう資本主義を標ぼうするのをやめてくれとクレームが来てもおかしくないレベルです。
そもそも直接雇用している社員を整理解雇するためには、整理解雇の4要件というものがあって、


会社がつぶれそう
②クビにしないためにはあらゆる犠牲をいとわず頑張った
③辞めさせる人間は平等に選べ
④しっかり労働者に説明しろ


というようなものです。
③、④とかは理解できますが、①、②については非常に?マークが飛び交います。
潰れるくらいまでほっといたら、解雇くらいでは追いつかないレベルにまで事態が逼迫しませんか、とか、社員を雇うことが会社の存在意義じゃないんですけど、とか。
その中に、正社員クビにするからには、アルバイトやパートのクビも先に切ったんだろうな、という恐ろしいことも書いてあったりします。勿論、派遣社員のクビは真っ先駆けてぶっ飛ばせ、という事です。確か、職業に貴賤はない、と道徳の時間に習ったような気がするのですが、社会的身分としての社員区分というものは存在するようです、裁判所の中には。
しかも、最初にクビを切るべしと裁判所から推奨されている派遣労働者ですら、直接雇用でないにも関わらず、不法行為と認定されて慰謝料請求です。



日本の将来が心配でたまらない

2チャンネルの中のニートたちの言葉に「働いたら負け」というものがあるそうです。
一旦働きだしたら会社に奴隷労働的に尽くさなければならないので、経済的にも身分的にも自由なオレ達は勝ち組、という自虐的なネタです。
しかし、この裁判の判決とかを見ていると、むしろ逆に、企業は「雇ったら負け」といった状況に陥りつつあります。
年々増加する給与外労働コストとでも言いましょうか。端的に訴訟リスク激増とでも言いましょうか。そりゃ、出れる会社はみんな海外に出たほうが良いんじゃないかと本気で思ってしまいます。
この調子では、本当に10年後とかに残っている企業なんてほとんどなく、円高なんて飛んでもございません、スーパー円安、ってか、巨額の国債がさっぱり売れずにデフォルトしてますんで円は紙屑同然買い手なんて1人もいません的な将来が見えてきますが気のせいでしょうか。


もういい加減、法律の世界の人達も、現実について本気で真剣にまじめに、かつ具体的に有効な策を考えてみるべき時期が来ていると思います。
このままでは本当に日本はヤバいと思いますし、その原因の一つがこの異常なまでの労働者保護政策だと思います。






そろそろ社会主義はやめて資本主義を導入しないと間に合いませんよ。



 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

電話番号リンク 問い合わせバナー