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無念の棄却 再審査請求・参加日記【結果編】
◆ 再審査請求、裁決書到着
今年の6月に、東京で行われた再審査請求の結果が到着しました。
審査会場までの様子は”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
事件の概要と対策は”再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】”でご覧下さい。
◆ 結果は・・・、無念の棄却
結果は、残念ながら棄却。つまり「負け」でした。
やはり行政の壁は厚く、一筋縄ではいかないようです。
◆ 請求棄却の理由とは
結果を記した「裁決書」の棄却の理由によると、概略こういう事です。
1、今回検討するのは両足の麻痺などの神経症状や関節・運動障害についてである。
2、画像所見、他覚所見がなく、脊髄損傷である事を示す医学的説明はできない
3、厚生労働省の基準は、MRIやCTなどの画像所見で裏付けられる麻痺が対象となっている。
4、今回も画像所見などはないので脊髄損傷ではない
5、脳損傷やその他の原因による可能性については、他覚的な証拠がない
6、よって当初の判断は正しい
話をまとめて言うと、脊髄損傷、その他の障害である事を示す医学的な証拠はないので、下半身が動かないという事実も存在は確認できないと言っているようなものです。
◆ 雑感
確かに証拠がないと言えばその通りなのですが、実際には全く歩くことも立つ事もできないという請求人の現実は関係ないという、極めてお役所らしい回答には説得力を感じません。
今回の再審査請求は、裁判ではなく、あくまで厚生労働省の枠内で間違いがなかったかどうかを再検討するという会です。その会の性格を考えると、こういう結果が出てくることはある程度予想されてはいました。
つまり、役所が最初に下した判断が絶対に間違っている、という証拠を突きつけない限り、対応は変わらないというスタンスの会なのですから。そこは再審査請求という制度上の制約なのかもしれません。
この後、行政訴訟という、厚生労働省を相手取った裁判を起こすことは可能です。
ただ、下半身が全く動かなくなるという突発的な事故の後、家族はそれまでと全く違う生活を余儀なくされ、疲弊しています。裁判を戦うほどの気力や体力はなかなか残っているものではありません。今後、どのような展開をするのかは未定ですが、事前の様子では裁判までは行わないだろうと予想されます。
皆で色々と知恵を絞りがんばってきましたが、とても残念な結果となってしまいました。どんな現実があろうと役所の決めたルールは曲げられないというお役所の画一的対応への無力感をたっぷり味わう事となった案件でした。
いよいよ口頭審理開始! 再審査請求・参加日記【後編】
◆ 労災保険、再審査請求の為、東上。
労災保険について再審査請求について、労働保険審査会の公開審理に出席する為、東京へ行ってきました。
審査会場までの様子は”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
事件の概要と対策は”再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】”でご覧下さい。
◆ いよいよ審査会会場へ
審査会控え室で待っていた我々に、係員が会場への移動を促します。いよいよその時が来ました。出席者3人、緊張の面持ちで8階へ向かうエレベーターに乗り込みます。そのまま会場入り口に案内され、扉が開きます。
開くと、驚くべき会場が待っていました。事前に情報収集しており、かなりの人数の関係者がいるので、相当プレッシャーは感じるだろうと予想はしていましたが、思いの外立派な会場の為、それだけでも圧倒されてしまいます。
一般的な感覚で、長机が並んでいて、そこにずらっと審査員初め関係者が並んでいるのかと思っていました。が、あに図らんや。それぞれ独立した専用の立派な机があり、それぞれの位置についています。正面から見ると、中央の審査長を中心にまるで陣形を組むかのようで、人の数以前に、その陣容に驚かされてしまいました。しかも、それほど広い部屋でもないのに全員の各机には立派なマイクが二つずつあります。どうやら速記官という人が専門に速記をするのですが、同時に全ての発言を録音するらしく、速記録と同じ机にはどこぞのDJかテレビ局にあるようなマイクミキサーがあります。
◆ 審理会場の陣容
予想もしなかった目の前の光景に、一瞬ひるんでしまいましたが、すぐに気持ちを切り替えて挑まなければ気圧されると思い、グッと胸を張って入場します。落ち着いて見回してみると、入って右側、審査員たちと向かい合うような形で我々の机が四つあります。その左隣には、多分厚生労働省の官僚とおぼしき人がひとり、既に座って待っています。部屋の中央に堂々と鎮座する審査長は、なかなか恰幅の良い中年の女性です。その両翼に審査員が並んでいます。審査員と我々の間の両側に、参与という労働者・使用者等の意見を代表する人たちが横向きに座っています。
◆ 審理開始、再審査請求の内容を陳述
自分の席に腰掛け、必要な書類を手元に出し、気持ちを落ち着かせます。
審査長が開会を宣言し、早速主張の趣旨を説明するように言ってきます。裁判ではないのですが、内容的にはそれに近く、我々は訴える側、厚生労働省が訴えられる側という形になります。そこで、訴えた我々がその内容を説明するという事になります。口火を切って私が話を始めますが、初めに「書面で提出したことと重複した事は言わないように」と注意されていましたので、書面記載以外の内容を簡潔に述べます。その後、社長が、事故の概要や請求人本人がいかに真面目で安全意識の高い社員であったかなどを証言します。
一通り請求人の意見陳述が終わると、訴えられた側に当たる厚生労働省側の官僚の意見を述べるように求められます。これは、本当に形式的なもので、事前情報の通り、「請求を棄却するよう求めます。」と一言だけ述べて終了します。
◆ 審査員、参与からの質問
ここから審査員、参与からいくつか質問されます。こちらが予想もしないようなことを結構聞かれました。特に、労災の怪我に至る前提の一つとして、事故の重大性を訴えていたので、その点について多くの質問が寄せられました。事故現場での事やその前後の対応は、実際に現場で指揮を執った社長がいてくれましたので、ほとんど社長に回答していただきました。その辺りは現実の対応を知っている社長に同行していただいて本当に助かりました。
あっという間に30分が経ったようで、最後に言っておきたい事はあるか、との問いかけに社長がひとしきり請求人本人の人柄と事故の重大性、現実の傷病の状態をしっかり見ていただいて検討して欲しいという事、この請求が認められる事が社会的な意義があるという事を言っていただき審理は終了しました。
◆ 審理終了後・・・
審査が終わり会場を出た後、エレベーターに乗りそのまま会場を後にします。最寄り駅の浜松町に向かいながら喫茶店を探し、終了後の反省会をしました。言うべき事は全て言ったという事、審理内で答えきれない事があったので、それについては書面で回答する事などを確認しました。回答及び追加の資料提出期限は審理の日から1ヶ月以内との事です。
しかし、口頭審理だけで全てが決まる訳ではないので、引き続き情報の収集に当たり、できるだけ有利になる証拠収集を続けなければなりません。まだ終わった訳ではないのです。とは言え、一息ついた事も事実。夕食がてらビールで乾杯し、しばらく語らった後、新幹線にて帰宅しました。
まだやるべき事が少し残っていますが、良い結果が出てくれる事を切に祈っています。
審査会場までの様子は”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
事件の概要と対策は”再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】”でご覧下さい。
再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】
◆ 事件の概要
さて、今回、東京に出て再審査請求の口頭審理に出席する事になりました。その道中記は
”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
”いよいよ口頭審理開始! 再審査請求・参加日記【後編】”でご覧下さい。
その事件の内容について、守秘義務にかからない範囲で説明しておきたいと思います。なお、本人等が解らないようにといった配慮の元での事例発表の許可を受けております。
事件の概要は次のようなものです。
◆ 事故
大型のトレーラー(20t)で移動中、突然道路が陥没し、車輪がはまり急停止した。運転中のA氏は、落下と急停止の衝撃により、車内搭載の機械(ETC)に頭を激しくぶつけた。シートベルトは着用、ヘルメットもかぶっていた。
目立った外傷はないが、足が痺れ、自力で立ち上がったり車を運転し続ける事は困難。傘を杖代わりに何とかその日は帰宅するが、翌日、足が痺れて全く動かなくなっていたため、救急車で緊急搬送される。
◆ 事故後の経過と労災請求
その後、痺れはとれず、足首の麻痺も残存したまま。約3年以上経過した今も、両足首の麻痺の為、立ち上がる事もできず、屋内では這って、屋外では車いすで移動している。リハビリクリニックも通院を続けている。
事故後、約2年後に治癒として傷害補償給付を請求するが、「体幹から両下肢の局所に神経症状を残すもの」として最低等級の14等級と認定。
◆ 審査請求の結論
これを不服として審査請求を行うが、審査の結論は「そもそも残存する傷害は認められない」として等級不該当。その理由は、医師の診断書に「脊髄損傷」と記載されているが、脊髄損傷は「外傷直後の症状が一番強くて、次第に回復する」ものだが、この事件では、事故直後より翌日以降の症状が悪化している。CT、MRI等の画像所見も異常がない。従って、これは脊髄損傷では説明できず、他覚的所見もないので、「後遺障害は認められない」というもの。本来は労働基準監督署長の下した14等級も不該当なので取り消すところだが、審査請求は請求人の有利にする事が目的なので、14級の取り消しは行わない、とした。
◆ 事件についての所感
事件の被害者であるA氏は、未だに自分の足で立つ事ができず、車いすでの移動を余儀なくされていて、リハビリ病院にも通い続けているという事実があります。又、労災認定については、国民年金、厚生年金などの障害年金とは異なり、実際に地方労災医員という医師が診断した上で等級が決められます。実際に1人では立つ事すらできないにも関わらず、そんな事実はないと言い切った結果にA氏は非常な憤りをもっています。又、事業主である社長も、この決定には納得がいかず、審査請求時から不服申立をするようA氏に働きかけています。
事件の内容、A氏への聴き取りを続けて行くうちに、結局書面でしかものを見ていないお役所仕事と、何かと理由をつけて支給額を抑えようという意図が透けて見え、怒り心頭に発っします。
◆ 基本方針
再審査請求をするに辺り、方針としては、まず事故を契機に、事実として歩く事はもちろん、立つ事もできずに苦しんでいる、という現実をまず見て欲しいということを掲げました。
正直、画像所見等がない事から、請求時に14級だったのは「お役所仕事」である労基署の性格上、やむを得ないと思ってしまいます。しかし、それを何とかする役目である審査請求においてこのような判断が下った事には怒りしか感じません。
審査請求では、一般的な脊髄損傷の症状にぴったり適合するか否か、にしか焦点が当たっておらず、A氏が立てようが立てまいが関係ない判断でした。本当に脊髄損傷ではないのか。又、仮に脊髄損傷でなかったとするなら、その他の可能性について考えられないのか、という2点が現実的な対応となります。
◆ 本当に脊髄損傷ではないのか?
まず、本当に脊髄損傷に当たらないのか、については、過去の裁判例に助けを求めます。
やはり脊髄損傷というのはこれまでにも争点となっているようで、調べてみると今回とほぼ同じような症状でも、脊髄損傷を否定まではできない、として認められているケースが多数見られました。
そうした過去の例などを引きながら、今回の件も、必ずしも脊髄損傷を否定するような積極的な証拠はない、と主張しました。
◆ 脊髄損傷以外の可能性を求めて
次に、脊髄損傷以外の可能性についても検討してみました。
すると、頭を強打しているので、画像には映らない微細な傷がついて麻痺などの傷害が残るという症例で労災が認められているという事例がある事が解りました。こうした他の疾病の可能性がある以上、単に脊髄損傷を否定したからと言って労災の等級に該当しないと言い切る事はできない、と主張しました。
◆ 通達ではなく、「現実」を見て!
もう少し専門的に言うと、労災の各種補償の支給の法律的要件は、労働基準法の災害補償の規定を満たしていれば良いという事。そして、労働基準法上の傷害補償の法律的根拠を述べ、今回の事件がその支給の要件を満たしているという事を述べました。今回の等級認定の根拠は、実は法律ではなく、厚生労働省内の内部規律文書である「傷害認定基準」という通達でしかありません。あくまで通達でなく法律で、そして傷病名にとらわれる事なく、「現実の状態」を見て判断して欲しい、という事です。
これらの主張がどのような結果をもたらしてくれるのかは解りません。結果が出るのにはまだ数ヶ月を要します。なんとか良い結果が出て欲しいと祈ってやみません。次回、後編ではいよいよ口頭審理に向かいます。
つづく・・・。
実際の口頭審理については”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
”いよいよ口頭審理開始! 再審査請求・参加日記【後編】”でご覧下さい。
厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】
◆ お役所の対応に納得がいかない時は・・・
日々を過ごしていると行政と関わる事も少なからずあるものです。そして、その行政の対応に納得がいかないということもままあるものです。
そうした時は、行政のやり方が気に入らない、と文句を言って適切な対応をし直すように再検討してもらうことができます。その制度として、よくあるのが審査請求というものです。この審査請求という制度を使えば、行政訴訟といった大げさなことをせずに自分の不満をぶつける事ができるのです。
そして、その審査請求でも意が通らなかった場合、さらにもう一度再考を願い出る再審査請求というものが用意されていることがあります。
再審査請求では、書面の提出もできますが、審査をする人たちに会って自分の思うところを直接述べる機会が得られます。審査するのも1人ではなく、複数の委員からなる審査会というものをつくり、その人たちの合議によって決まります。また、参与としてお役人さん以外の人が意見を述べたりもします。
ここでも不服が是正されなければ、もはや裁判しかないという最後の機会なので、審査請求よりもより公平性などが補償されているわけです。
◆ 労働保険審査会に参加してきました
さて、先日、ご依頼をいただいて、この再審査請求のお手伝いをする機会がありました。今回は労災の傷害認定に関する不服申立でしたので、管轄は労働保険審査会というところです。
この労働保険審査会というのは東京にあります。最近はビデオ会議システムが普及していて、必ずしも東京まで出向かずビデオ会議での申立もできるそうです。が、今回は、相手と会ってしっかり話をしたいということで東京に赴くこととなりました。
久しぶりの新幹線にちょっぴりウキウキしながら東京へ向かいます。審査会の開会時間は15時30分からなのですが、不測の事態に備えるということ、直前まで打合せをしたかったということ、心の余裕を確保するためということといった理由で、かなり早めに東京に入りました。
お昼過ぎには参加者全員が集まり、遅めの昼食をとりながら簡単にミーティング。その後、審査会会場の場所を確認してから、近くの喫茶店に陣取り本格的に作戦会議です。当然、これまでに何度も何度も会って打合せをしていますが、直前まで情報収集や新しい証拠探しなどを行っていたので、まずはそれら各自の持ち寄った情報確認からです。最終的に集まった情報から、若干の作戦の修正を行い、話す内容の役割分担などを最終チェックします。
◆ いよいよ審査会会場へ
審査会場となるのは、東京の浜松町にある労働委員会会館というビルです。
審査会は8階で行われますが、まずは審査会出席者の控え室のある7階に向かいます。
ここには担当者の方がいて、出席者の確認、提出書類の確認などを行います。
今回は直前まで資料集めをしていたので、当日持ち込みの書類がありました。審査会開始前に審査官全員分をコピーして渡しておいてくれます。
その後、審査会の配置図が示され、どの場所に誰が座るのか決めるように言われました。
請求人側、入って右側手前の席4つが我々の陣地です。話す順番、主たる代理人が左上の席に座るように求められましたので、私がその席に着く事になりました。
今回は、請求人ご本人は怪我の為出席できませんでしたが、事業主側の社長が事件の証人として出席してくださったので、私の隣の席に座っていただく事にしました。
一通り決めると、することがなくなったので、ソファに落ち着きます。我々の前の回の人とおぼしき方が2名おられましたが、程なくして出て行かれました。そうすると広い部屋の中には関係者だけが残されます。
手持ちぶさたなので掲示板などを覗いてみます。ホワイトボードは「公開審理」と手書きされて、いろいろな注意事項等が貼られています。審査会は1日の間に十数件行われるようで、予定がずらっと並んでいます。
しばらく待っていると、やがて順番が来ました。係員に案内され、いよいよ審査会場へ向かいます。
つづく・・・。
事件の概要と対策は”再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】”で
口頭審理の様子は”いよいよ口頭審理開始! 再審査請求・参加日記【後編】”で