Archive for the ‘労働法’ Category
無念の棄却 再審査請求・参加日記【結果編】
◆ 再審査請求、裁決書到着
今年の6月に、東京で行われた再審査請求の結果が到着しました。
審査会場までの様子は”厚労省の対応に不服あり! 労働保険審査会・参加日記【前編】”
事件の概要と対策は”再審査請求の事件の概要と対策 再審査請求・参加日記【中編】”でご覧下さい。
◆ 結果は・・・、無念の棄却
結果は、残念ながら棄却。つまり「負け」でした。
やはり行政の壁は厚く、一筋縄ではいかないようです。
◆ 請求棄却の理由とは
結果を記した「裁決書」の棄却の理由によると、概略こういう事です。
1、今回検討するのは両足の麻痺などの神経症状や関節・運動障害についてである。
2、画像所見、他覚所見がなく、脊髄損傷である事を示す医学的説明はできない
3、厚生労働省の基準は、MRIやCTなどの画像所見で裏付けられる麻痺が対象となっている。
4、今回も画像所見などはないので脊髄損傷ではない
5、脳損傷やその他の原因による可能性については、他覚的な証拠がない
6、よって当初の判断は正しい
話をまとめて言うと、脊髄損傷、その他の障害である事を示す医学的な証拠はないので、下半身が動かないという事実も存在は確認できないと言っているようなものです。
◆ 雑感
確かに証拠がないと言えばその通りなのですが、実際には全く歩くことも立つ事もできないという請求人の現実は関係ないという、極めてお役所らしい回答には説得力を感じません。
今回の再審査請求は、裁判ではなく、あくまで厚生労働省の枠内で間違いがなかったかどうかを再検討するという会です。その会の性格を考えると、こういう結果が出てくることはある程度予想されてはいました。
つまり、役所が最初に下した判断が絶対に間違っている、という証拠を突きつけない限り、対応は変わらないというスタンスの会なのですから。そこは再審査請求という制度上の制約なのかもしれません。
この後、行政訴訟という、厚生労働省を相手取った裁判を起こすことは可能です。
ただ、下半身が全く動かなくなるという突発的な事故の後、家族はそれまでと全く違う生活を余儀なくされ、疲弊しています。裁判を戦うほどの気力や体力はなかなか残っているものではありません。今後、どのような展開をするのかは未定ですが、事前の様子では裁判までは行わないだろうと予想されます。
皆で色々と知恵を絞りがんばってきましたが、とても残念な結果となってしまいました。どんな現実があろうと役所の決めたルールは曲げられないというお役所の画一的対応への無力感をたっぷり味わう事となった案件でした。
FAX番号変更と特定社労士の資格追加のお知らせ
先日、事務所のFAX番号を変更いたしました。
今までは、0568-92-4864でしたが、下一桁が代わり、0568-92-4861としました。電話番号とFAX番号を分離した訳です。
そうすると名刺の表記を変えなければなりません。名刺の表記換えという意味では、もう一つ換えなければならないものがありました。
それが特定社労士の表記です。
特定社労士というのは、社労士の中でも紛争解決手続代理業務というものをできるという資格を有する者のことを言います。
長ったらしい名称ですが、平たく言うと、労使間のもめ事を仲裁する仕組みに参加できるというものです。
残業代の未払いで社員が会社を訴える、という時に、裁判をするとなると双方大きな負担になります。そこで、裁判までは行かないけど、第三者を挟んで話し合いで解決しましょうよ、という仕組みがあるのです。
その時に、労働者や会社の社長の代理になって話し合いに参加できる資格が特定社労士というものなのです。
この資格は、一応研修と試験があって、その合格者が特定社労士になりますという手続をしないと名乗れません。
試験を一昨年に受けて合格していたので、この度FAX番号と一緒に変更しようとなり、申請手続を行いました。
その新税手続が受理され、受領印を捺印された副本が本日返送されてきました。
12月1日から特定社労士となり、紛争解決手続代理業務も取り扱うことができることになります。
今後は、そうした紛争解決に向けた事案も取り扱って行きますので、ご相談等ございましたら是非ご連絡ください。
講演会、出演!! 題して「人も組織も元気にするメンタルヘルス講習会」
本日は、今年一番の目標としていたメンタルヘルス対策の講演を栄の中日パレスで行ってきました。
「人も組織も元気にする メンタルヘルス講演会」と銘打ってのセミナーでした。名北労働基準協会さん主催、名古屋北労働基準監督署後援というビッグネームをお借りしたおかげで、約100名の方にご参加いただけました。
今回の講演会は、10月1日から始まる全国労働衛生週間のキャンペーンとして開催されました。今年の労働衛生週間のスローガンは「心とからだの健康チェック みんなで進める健康管理」となっており、メンタルヘルスに重点がおかれています。私としては、まさに夢のような舞台であり、このような機会を下さいました名北労働基準協会様には感謝に絶えません。
★ こんな事お話しを
内容は、労使関係は契約が基本であり、その契約内容には安全配慮義務が含まれている、という事から説き起こし、パワハラ・セクハラ、長時間労働といった原因となる事案への対策、休職・復職・リハビリ出勤への対応、睡眠管理の勧めといったものでした。少し欲張りすぎたという反省はありますが、様々な業種の実務担当の方々が参加されるという会の趣旨を考えれば、やはり一通り網羅しておくべきで、どれも外せない内容だったと思います。
★ 失敗もあったけれど
自分のパソコンを持ち込んでスライドを映させていただいたのですが、その設定に手間取った事が、実は今日一番緊張した場面でした。というのも、私はMacのKeynoteというプレゼンソフトを使って資料を作成していたため、現場にあるPCと互換性がなく、万一自分のパソコンが上手くつながらなかった場合にはスライドなしで講演しなければならなかったからです。試行錯誤の結果、何とかつながったので一安心しましたが、事前の準備の大切さを痛感いたしました。家のモニターにつないだ時には簡単に接続できたのですが、プロジェクターでは手こずりました。今日ばかりは自前のプロジェクターが欲しいと思いました。
また、この手のプレゼンソフトには、発表者用のあんちょこを書くスペースがあり、手元のモニターにだけそれが表示されるという仕掛けがあるのですが、それも上手く作動せず、実は頼りのあんちょこなしで本番をしのぐ事となってしまいました。無論、考え抜いて作ったものですので、内容は空で言えるくらいにはなっているのですが、本番前にそうした事態に気づくとギョッとしますね。
★ いろいろと嬉しい1日でした
そんなちょっとしたアクシデントもありながら、無事終了する事ができました。また、労働基準監督署長様という大変立派な方とお茶をご一緒できるという貴重な機会もいただき、大変充実した1日となりました。
ずっと以前から構想を練り、直前まで、本当に直前、今朝出かける前まで推敲を重ね、自分でもまずまずの出来だと思う結果を出せたのは本当に良かったなぁと思いました。。
特に、講演会終了後、「とてもためになりました」とわざわざ仰って下さった方がいて、こうした一言が本当に励みになるものなのだと感激しました。
★ ご褒美編 カレーとビール
という訳で、昼はカレーを食べました。カレーは良いものなので、嬉しい時によく食べに行きます。
夜は、発泡酒とかリキュールではない、本物のビールでちょいと乾杯です。
労働者の属性の定義を厳格に! 労働関係改正法セミナーに参加して
労働法界隈の今月最大のニュースと言えば労働契約法の改正で間違いないでしょう。
特に有期雇用労働者に関しての取扱いの変化について、企業側はしっかりした対応を迫られることになりそうです。
とは言え、まだ改正されて間がなく、今後どのような展開をとるのか解らない部分もあり、私たち社会保険労務士も積極的な情報収集が課題となっています。
そんな訳で、いち早く対策セミナーを行った名北労働基準協会の「労働関係4法改正等対策セミナー」に参加してきました。
このセミナーは、労働契約法だけでなく、高年齢者雇用安定法、障害者雇用促進法、労働者派遣法と四つも重なった労働関連法の改正について、まとめてやっつけるというタイムリーなものです。
内容については、また別エントリをたてたいと思います。とりあえず、改正法を全体として俯瞰して見た感想としては、労働者それぞれの雇用形態、職務内容について相当しっかりとした定義が必要だ、というところです。
就業規則において、正社員を「期間の定めのない社員」とだけしか定義していないと、5年後に思いもかけない正社員の山を築き上げてしまいかねません。一時的に雇用しただけのつもりが65歳まで面倒見なければならないとしたら一大事です。
この四つ重なった改正のうち、三つが「高齢者」「障害者」「派遣労働」となっていて、実に世相を反映しているなあ、と暢気に考えていたのですが、そろそろ本格的に情報収集しないとやばそうです。
で、せっかく名古屋に出たことですし、向学心にも火をつけられたことですし、こんな雑誌を買ってみました。
特集は「有期・パート・派遣法制の基本的視座」。
まさに今日のテーマそのままです。
最近、日常の忙しさにかまけて本も読まずにいたので、ちょっとネジを巻き直して勉強です。
エアコン29度設定は許されるのか? 熱中症対策との関係から
暑いですね・・・
ここ数日でいきなり暑くなってきました。
表に出ると溶けてしまいそうな熱気です。群馬県の館林では39.2度というとんでもない気温を記録しております。まだ7月中旬だと言うのに。
それでも節電が要請されている昨今、よく言われているのがエアコン28度設定です。
が、原発問題などもあって、さらに節電しようと思われる向きもあるかもしれません。
エアコン設定29度。
果たしてこれは許されるのか、というのが今日のお題です。
エアコン設定温度29度は違法なのか?
どういうことかと言うと、安全衛生法によるとエアコンの設定温度は28度以下でなければならないと書いてある。したがって29度では安全衛生法違反だ、という説があるのです。
安全衛生法というのは、仕事場で働く人たちの安全と健康を守るための基準を定めた法律です。あまりにも過酷な環境で働くと、熱中症や脱水症状など労働者の健康を害するという理由からそのような規定があるものと推察します。
法律にはなんて書いてあるの?
そうした疑問を解決すべく、まずは基本として、法律原文に当たることにしましょう。
そうすると、事務所衛生基準規則なる規則が出てきました。法律ではなく、安全衛生法に基づいて制定された規則に書いてあるんですね。
で、その該当箇所です。
事務所衛生基準規則 第二章 事務室の環境管理(第二条-第十二条)
第五条(空気調和設備等による調整)
3 事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。
これを見ると、確かに空調設備がある事業所は、17度から28度にしろ、と書いてあります。じゃあ、やっぱり29度設定は法律違反か、というとそうでもないのです。
注意していただきたいのは、この法律の語尾、一番最後のところです。
「なるように努めなければならない。」と書いてあります。
いわゆる努力規定というものです。これはまさに文字通り「努力してね」ということです。
つまり、努力してがんばったけど駄目だった、はOK、通ります。
この場合、がんばって28度に設定しようとしたけれど、どうしても日本全国の電力需給を考えると夜も眠れず、つい29度にしてしまった、というのは法律違反ではない訳です。この法律・規則だけから判断すれば。
厚生労働省の言い分は・・・
しかし、この点については、やはり厚生労働省も関心を寄せていて、この事務所規則と節電要請の関係についての立場を表明しています。
平成24年6月6日付けで「今夏の電力需給対策を受けた事務所の室内温度等の取扱いについて」という通達です。
これによると、
電力抑制のため室温を引き上げる場合には、まずは、28 度とするよう努めること。さらに、電力抑制のための事業者の自主的な取組として室温を29度に引き上げることも考えられるが、その場合には、職場における熱中症を予防するため、平成21年6月 19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」に基づく熱中症予防対策を、当該事業場において講じること。
となっています。やっぱり基本は28度でやってほしい。どうしても29度に引き上げるのなら、熱中症予防の対策をとってもらわないと困るよ、ということです。
熱中症対策
では、その熱中症対策って何でしょうか。
こちらも平成21年6月19日付けの通達「職場における熱中症の予防について」があります。
それによると、
【設備面】
・熱い機械と労働者を遮る遮蔽物を造れ
・屋外なら直射日光等を遮る屋根を造れ
・散水するなら、その後の温度上昇にともなう湿度上昇に配慮せよ
・近くに冷房のある休憩所を用意しろ
・氷、冷たいおしぼり、シャワーなど身体を冷やせるもの、水分、塩分補給のための飲料水を備え付けろ
【作業管理】
・休憩時間を確保して連続作業を短縮し、作業強度の強いものを避けよ
・熱への順化(慣れて適応すること)の期間を設けよ
【指導】
・本人の自覚症状の有無にかかわらず、水分、塩分の摂取を指導しろ
・通気性の良い服を着るよう指導しろ
・屋外なら帽子着用を指導しろ
・熱中症をの兆候を発見するために頻繁に巡視しろ
・兆候があったら速やかに作業を中断させろ
・睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食の未接種などの日常の健康管理の指導をしろ
・作業開始前に健康状態を確認しろ
・あらかじめ病院等の所在地、連絡先を把握しろ
・熱中症の疑いがあったら、涼しい場所で身体を冷やし、水分、塩分を摂取させろ
といったことが長々と書いてあります。
もちろん、これらを守らず熱中症などで事故が起こった場合、会社は安全配慮義務違反で損害賠償請求を受ける可能性が出てきます。
29度設定にしなかったとしても、熱中症などの対策は必要かとは思います。が、29度設定にした場合はこれらの対策を講じろ、と名言している以上、なにかあった時にはより厳格に見られてしまうと予想されます。
そう考えると、29度設定というのは安全管理上、又、会社のリスク管理上全くオススメできないと思います。
梅雨から夏への変わり目は熱中症に大注意!!
また、上記の熱中症対策は、エアコンなどの設備がない作業所や、屋外作業などの場合は、問答無用で必要になってくると思います。
水や休憩スペースなどは随時確保するのでしょうが、事業主側の指導などはおろそかになりがちです。特に日常健康管理の指導をしっかりやるのは難しいかもしれません。
それでも、せめて朝、始業前に健康状態を確認しておくことは熱中症に限らず多くの事業場内災害を防ぐ有効な手立てだと思います。
また、現場のリーダーが折に触れて声をかける。こうしたことが社員の健康を守り、ひいては会社のリスクを低減させるものなのだと思います。
てんかんによる交通事故から思う「精神障害者の生き様」
今、世間を賑わわせているニュースに、祇園の交通事故があります。
てんかん患者による人身事故という事で、昨年のクレーン車の事故を思い起こさせます。
抗てんかん薬の反応があったとか、意識はあったようだとか、様々に問題はあるようですが、世論として、てんかん患者の運転は危険だから避けるべき、という風潮があります。
てんかんの危険性
実際、てんかんの発作の可能性のある人が自動車の運転や機械操作などに従事する事は、事故の危険性が高く、多くのてんかん患者もそれらはよく解っている事と思います。
企業側から見ると、単に安全管理上問題があり、労災リスクが高まります。何より、発作時にコントロールが効かない可能性が高く、重大事故につながりやすいという側面は無視できません。
運送関係や機械操作が伴う業種の場合、入社時においてしっかり確認をとっておく事が大切です。
患者側からすれば、聞かれなければ申告する義務はありません。
知らずに雇ってしまった場合、てんかんを理由に解雇するという事は難しくなります。
危険作業がある職場は、入社時にてんかんでないという誓約書なりをとっておく方が良いでしょう。
但し、あくまでも就業上、危険作業に従事するので安全確保のため、という合理的な理由がある場合に限ります。
てんかん患者が運転を自粛すれば問題はなくなるのか?
こうしたことから規制の強化が望まれたり、患者に対する不当な差別が助長されたりする事も別の問題をはらんでいます。
例えば、自動車の運転を一律に規制したとしたらどうでしょうか。
車の運転ができないとなれば、ただでさえ難しい就職がさらに困難になります。また、都心部を除けば、日常生活の移動にも制限を受けてしまいます。
また、単に病気であるという理由だけで権利を奪ってしまって良いのかという議論も出てくる事でしょう。
「てんかんでない事の証明」は可能か?
さらに、運転免許取得時において「てんかんでない事の証明」をとる事が可能か、という問題もあります。
この「てんかんでない事の証明」がとれるのかどうか、少し気になったので調べてみました。
「~である事」の証明は容易ですが、「~でない事」の証明は大変困難です。悪魔の証明とも言われます。
ところが、その証明を必要とする資格がありました。
銃刀法です。
「精神障害若しくは
そのため、精神科の専門医による診断書が必要になるのです。
銃の所持という非常に慎重にならざるを得ない場面では、てんかんのみならず、統合失調症、そううつ病やうつ病などの精神疾患でないという証明も必要となるのです。
殺傷能力という点から考えれば、銃も自動車も同様なのでしょう。しかし、銃と自動車では日常性に天と地との開きがあります。銃規制と同列に扱うべきかどうかは議論の余地があります。
「てんかん」で障害年金はもらえるのか?
この銃刀法のように、てんかんは所謂、精神疾患で、うつ病や統合失調症などと同列に語られます。そうすると、日常生活上の問題は、精神疾患の患者と似てきます。
一番大きな問題はお金でしょう。
うつ病などもそうですが、服薬により症状が抑えられているとしても、病名を告げて応募すれば、一般企業ではまず採用されないでしょう。働く事ができなければ毎日の生活費が出ません。
そこで社会保障の出番となります。
てんかんでも障害年金はでます。
障害年金の認定基準というものがあり、その中に「てんかん」の場合の認定基準も記載されています。
2級の認定基準によれば、
十分な治療をしていても、意識障害や転倒などの重い発作が年に2回以上あるか、転倒まではしない発作が月に1回以上あり、なおかつ、日常生活が著しい制限を受ける者
とあります。
発作の頻度や日常生活でどれほど制限を受けているかを訴える事で受給される可能性は高くなります。
又、てんかんは子供の頃に発症する事が多い病気です。20歳前に発病し、医師の診断を受けていた場合、年金を全く納めていなくても受給できると言う制度もあります。
困っている人は、とにかく専門家に相談する事をオススメします。
(当事務所でも障害年金の相談を受け付けております。私も精神障害の経験者です。安心してご相談ください。相談料は無料です。)
とはいえ、「抗てんかん薬の服用や、外科的治療によって抑制される場合にあっては、原則として認定の対象にならない。」とあります。薬で抑制する事でそれほど頻繁に発作が起きる訳ではない、と言う人は受給が難しくなっています。
てんかん、うつ病など精神障害者と社会
このように、軽度の場合、社会保障の対象にはならないにも関わらず、社会からの差別的待遇はあるため、患者は生活苦に追いやられます。
実際、労務リスクという点で、企業が精神疾患の患者を雇わない事は合理的な選択です。私が事業主であってもそうするでしょうし、顧問先にもそう言うでしょう。そして現実として、病名を告げて応募した場合はほとんど採用されていないと思います。
しかし、障害年金が出る程の障害でもない。
それでも生きていかなければなりません。
企業をはじめとする社会の立場と精神疾患患者としての個人の立場とのギャップが大きく存在しています。
この点について、身体障害や知的障害に比べて、精神障害についての対策は全く進んでいないと思います。
てんかんやうつ病などの精神障害が身体や知的障害に比べて避けられている理由は、いつ症状がでるか解らないという不確定性にあります。
いろいろな経営者に聞いてみても、いつ休むか解らないうつ病患者は雇えない、と口をそろえます。てんかんもいつ発作を起こすか解りません。この先の読めないリスクを背負う事が企業にとっては難しいのです。
そして、ずっと続く不景気により、その傾向は一層強くなってきています。
精神障害者の生きていく道とは 雇われずに働く
では、こうした精神疾患の患者はどうして食べていけば良いのか。
生活保護しかないのか。
正直、「正解」は私には解りません。
しかし、一つの解答として、「雇われずに働く」、という選択肢があると思っています。
「働く」という事は、必ずしも「雇われる」という事ではないのです。
自営業というと、不安定、というイメージが強いと思います。実際、サラリーマンに比べてかなり不安定だとは思います。
ただ、企業に「雇用されない」状態と比べると相当安定してはいる訳です。
病気であるという、どうしようもない現実。
それを知られれば雇われないという現実。
隠す事の後ろめたさ。
隠す事の難しさ。
病気療養のための空白期間、何をやっていたか、と聞かれるだけで破綻する面接。
そうした現実をかいくぐって就職する事に比べれば、手に職をつけて小さく自営業をやる方が現実的なように思えるのです。
私自身、うつ病と診断され、長期間療養したため、雇われる事は無理だと思いました。
自営業であることのメリット 特に精神障害者にとって
自営業は「不安定だ」、という事の裏返しとして、ずっと「安定的に拘束」される訳ではない、という事があります。
企業が精神障害者の雇用を控えるのは、いつでも、いつまででも働けます、という保証がないからです。と言う事は、雇われたら基本的に毎日働かなければなりません。
しかし、自営業であれば、「今日は調子が悪いからパス」、と言えるのです。
もちろん、後日そのツケは回ってきますが、自分の体調のせいですから、それほど腹も立ちません。
カバーしてくれる組織がある訳でもないので大変なのですが、それは実は雇われていたとしても同じ事です。
その日の仕事は誰かがなんとかしてくれるでしょう。でも、会社としてそういう人をバックアップするつもりはないでしょうから、早晩、退職勧奨が待っています。
それに比べれば、少なくとも自営業に退職勧奨はありません。
資金繰り等、困難も沢山ありますが、その分やりがいもあります。一度独立すると解りますが、人から「やらされる仕事」とそうでない仕事ではストレスのかかり具合が全く違います。
今、私自身に、自分の経験を踏まえてアドバイスしろ、と言われれば、迷う事なく自営業を勧めます。
そもそも日本の大企業がいつまでも日本にいるかどうが怪しいという最近の世の中です。障害年金をもらいながら、小さな仕事で補って生活していく、というスタイルがもっとやりやすい世の中になれば精神障害者の生活ももっと楽になるのに、と考えずにはいられません。
社員の健康をめぐる論点 安全配慮義務
今日は労働法の勉強会に出席しました。
石嵜先生という労働法界隈では大変高名な方のセミナーです。大変アグレッシブな論を展開される先生で、毎回知的好奇心を呼び覚まさせてくれる先生です。
さて、そのセミナーの中で今日もっとも強調されていた事の一つに、社員の健康問題がありました。
今、未払い残業代などが社会問題化しようとしていますが、今後の展開は社員の健康問題に発展していくだろうという予測です。健康問題こそが現代の企業にとっての喫緊の課題であるととらえています。
過労死は月80時間以上の残業で問題化!!
最近では居酒屋チェーンのワタミの従業員過労死問題が話題になっていました。ワタミの件は、会長の渡邉美樹氏のツイッター上での発言が炎上の元でしたが、発端は過労死事件です。
自殺のワタミ社員、労災認定=「長時間労働のストレス」―神奈川
居酒屋「和民」を展開するワタミフードサービス(東京)の社員だった森美菜さん=当時(26)=が2008年に自殺したのは、長時間労働によるストレスが原因だったとして、神奈川労働者災害補償保険審査官が労災適用を認める決定をしていたことが21日、分かった。決定は14日付。
5~7日間連続の深夜勤務など長時間労働で、時間外労働は月100時間を超えた。入社約2カ月後の同年6月、自宅近くのマンションから飛び降り自殺した。
今日の石嵜先生の話にも出てきましたが、やはり月80時間以上の残業は問題となってくるようです。労働基準法の改正により、月60時間以上の残業代が2割5分増から5割増に変わった事から、今後の社会情勢的には週60時間が一つの分水嶺になるとの見解もありました。経営の問題もあるけれど、今なら80時間、将来的には60時間を超す残業は相当にリスキーな事になります。
安全配慮義務違反についての新判例 裁判費用は誰が払う?
こうした社会的な動向に呼応するかのように、新しい判例も出てきています。
安全配慮義務違反の賠償でも弁護士費用は請求可能
プレス機にはさまれて指を切断してしまった労働者が、会社側を安全配慮義務違反で訴えた、という事件です。
この裁判にかかる弁護士費用をどちらが負担するのかという点が問題となりました。長くかかる裁判の費用は無視できない金額、数十万~数百万円規模になります。
安全配慮義務というのは、会社が人を雇う場合、働く環境を安全に保つ義務があるという事です。社員が仕事中に怪我や病気にかかるという事は、この安全な環境が保たれていなかったからだ、弁償しろ!という主張が成り立つのです。社員の安全を確保する義務があるのに、それを果たしていないのだから債務不履行だ、という事です。
この時の裁判費用が損害に含まれるのかどうかというのがこの判例の論点です。
これまでの通説では債務不履行の場合は弁護士費用は損害に含まれないとされていました。
債務不履行が問題になるのはお金の支払い問題であるという前提で法律がつくられていました。お金の問題であれば法定利息というのが決まっていたので、争いに必ずしも弁護士をたてる必要はないだろうという判断があり、弁護士費用は損害に含まれないと考えられていたのです。
しかし、今回の判決では、裁判費用が損害に含まれるとされました。これは、この事件が単純な金銭問題ではなく、弁護士を立てて争わなければ到底解決できない難しい事案だと判断したからです。そして、弁護士を雇わなければ解決できない裁判をしなければならないのは、義務違反をした会社の責任であり、損害に含まれるのだ、という事なのです。
長時間労働による過労自殺やうつ病罹患などで訴えるときも、この判例と同じく安全配慮義務違反で訴えることが多いのです。そうすると、同じ理屈を使う事で、さらに会社側の負担が増える可能性が出てきました。
会社側としては、ますます厳しい情勢となってきています。
社員の過労を防止するためには「睡眠管理」が必要不可欠!
やはりこうした問題は、裁判などの争いになる前に食い止めることが一番大切でしょう。戦ったら負けです。戦わないための施策こそが重要なのです。
そもそもそんな長時間労働をさせないという事が一番大切です。が、それができない場合は、社員の健康管理をしっかりする事が必要になります。睡眠不足は人をうつ病にさせる大きな原因であり、また同時にうつ病の解りやすい症状でもあります。
健康管理というと難しいですが、社員1人1人がよく眠れているかどうかを確認するだけでも違ってきます。単に睡眠時間が確保できているかだけにとどまらず、その睡眠の質も良いのかどうかが問題です。十分な睡眠時間があっても、浅い睡眠しかとれていなければメンタルは壊れてしまいます。朝起きた時の睡眠の充実感が得られているか、疲労は回復しているか、そういったところに重点を置いた睡眠管理が大切です。
週に一回でも、月に一回でも、社員1人1人がきちんと眠れているかどうかを確認してください。眠れていない人がいたら、必要な指導をするなり、メンタル系の病院を受診させるなりの対応をとれます。睡眠導入剤を飲むだけでもだいぶ違います。また、会社が睡眠時間について指導する事で社員も睡眠について注意を向けることになります。
メンタルの管理は第一に睡眠です。そして、メンタルの不調も睡眠に出ます。社員の睡眠に注目してください。
有期労働への規制は強ければ強い方が良いのか?
今朝、中日新聞を見ていたらこんな記事が。
厚生労働省の検討している有期労働契約への規制が甘すぎるという内容です。
厚生労働省の考えてる規制は、有期労働で雇える期間は5年までとする内容です。これは一回当たりの契約の期間の事ではなく、何回か繰り返して契約した場合でも、上限は5年、という意味です。これに対して十分な規制でない、というのがこの記事の主張です。
有期雇用の新しい規制の問題点とは?
現在の有期雇用に対する規制は、一回当たりの契約期間の上限を3年と定めるだけです。何度もこの契約を更新したからといって必ずしも正社員にしなければならないという規制はありません。もっとも、裁判では状況次第では正社員と同じ無期雇用と認められるケースもあります。そのあたりの事を踏まえて、繰り返し契約でも5年まで、とする規制案となっているのでしょう。
が、その中に、6ヶ月の期間をおいて改めて雇い入れた場合は通算の年数がリセットされるという、いわゆるクーリング期間制度も盛り込まれており、「抜け道」があるとして批判しています。
さらにもう一歩踏み込んだ規制として、有期雇用の誰かを期間満了を理由に雇い止めした場合には、新たな雇用は禁止すべきだ、とまで主張しています。
それで事態は改善するの?
気持ちは解らないでもないですが、この主張通りの法規制が行われたとして、本当に有期雇用労働者の雇用環境が改善するでしょうか。
おそらく全く逆の効果をもたらすと思います。
人を雇うなら必ず正社員でなければならないという主張はよく聞きます。しかし、日本に解雇規制も大変強く働いており、一度雇ったら会社が潰れるほど苦しくなければ辞めさせられないという状況にあります。
そうすると、雇うなら正社員。ひとたび雇ったら定年まで辞めさせられない。年金が払えないから定年はどんどん延長しろ、という状態になっています。人を1人雇えば、そこにかかる費用は賃金だけでは済まず、2億円以上かかるといわれています。絶対に解約できない2億円を50年近い分割払いで契約しろ、と言われているのと同じです。半世紀先の状況など解らないのですから、企業が雇用に積極的にならないのは当たり前です。
では、企業としてはどういう選択をするのか。ただでさえ安い海外の賃金との競争に疲弊しているのです。当然、さっさと海外に移転してしまうことでしょう。折しも家電製造業がソニーを始め軒並み巨額の赤字発表をしたばかりです。もはや日本の製造業には過大な期待を背負えるほどの競争力はないでしょう。
生き残りをかけて海外へ移転し、人材も海外から調達するようになるでしょう。
これまで雇用されていた人々は、日本での居場所はなくなってしまうかもしれません。
それは非正規社員だけの問題にとどまらないと思います。会社機能をほとんど海外に移転するような事態となれば、正社員は正社員で二度と帰ってこられない海外移住か退職の二択を迫られるのではないでしょうか。
有期雇用や派遣などの非正規雇用についての規制を極度に強化してしまうと、日本には企業が残らず、正社員もろとも路頭に迷うという時代が来るかもしれません。
では今のままで良いのか
しかし、そうは言っても正社員と非正社員の格差はとても大きなものがあり、社会のありようとして看過できるものでもありません。このままの状態を放置すれば、社会はより一層不安定となり、没落の道を歩むしかなくなります。
この二律背反をどうすればよいのでしょうか。
現実的な改善案はないでしょう。このまま日本はズブズブとゆっくり沈んでいくのか、あっけなく一気に沈んでしまうのかのどちらかのように見えます。だったらいっそドラスティックな改革をした方がマシかもしれません。
正規社員と非正規社員の格差を改善するために非正規社員についての規制を強化する、というのではあまりにも素直すぎます。逆転の発想で、正規社員を規制してしまってはどうでしょうか。
つまり、正社員制度の廃止です。
そもそも、一回の有期労働契約の上限3年としているのは、長期の労働契約は労働者を縛ってしまうのでよくない、という発想から来ています。であれば、期間の定めがないという正社員の契約はもっとケシカランという事にならないでしょうか。事実、正社員の座に固執するあまりメンタルヘルスになっても会社を辞められず自殺に至るケースというのは後を絶ちません。
劇的な変革を!
だったら全員正社員でなければいいのです。
これは、自分だけで墜ちていくのは嫌だから全員道連れ、というような後ろ向きの考えではないのです。
今、再就職が難しいのはなぜでしょう。景気が悪いから?それもあるでしょう。しかし、一番問題なのは、一度雇われたら、どんなにダメでも、どんなに必要なくても絶対安泰の正社員が社内に居座るからです。そして、そういう状態だから会社は怖くて人を雇えない。
逆にいつでもクビを切れると思えば会社も雇用を増やすはずです。
能力に応じて、景気に応じて、いつでも解雇できる。にも関わらず雇用は改善する。クビになったって他に景気のいい会社があってそこが求人を出しているから気にならない。
むしろ一つの会社に人生を捧げるという会社人間のくびきから脱することで、余暇を、人生を楽しむライフスタイルが実現するような気がします。社会全体も、有能な人が有望な会社に集まる傾向が強まるので競争力も高まります。会社にとっても、労働者にとっても、社会全体にとっても良い。三方良しの状態ができあがるのです。
それができる日本なのか
問題は、そういう改革が実現できるのか、という事ですね。
今の日本では無理でしょう。でも、かつて江戸時代の爛熟文化から一転、欧化政策に邁進し、アジアで最初に近代化を遂げた国でもあります。文明開化の前夜、日本にそんな改革の機運があったでしょうか。おそらくは黒船から始まる巨大な危機感に追い詰められ、どうしようもなくなってできた改革だったのでしょう。追い詰められたネズミ状態になったとき、日本という国は豹変すると信じています。
今はまだ追い詰められ方が足りないだけ。もっと不景気で、もっと混乱した状態。
たとえば国家の財政破綻とか。
そうなったとき日本人は覚醒するのではないでしょうか。
パワハラの公式見解発表 会社としてできる事/やらなくてはならない事
昨日のNHKニュースでも報じられていましたが、パワーハラスメントについて、初めて行政が定義を発表しました。
それによりますと、
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
となっています。
パワハラの定義のポイント
ここでのポイントは、
(1) 職場内の優位性を背景
(2) 業務の適正な範囲を超え
の二つが重要でしょう。
まず、(1)についてですが、「職場内の優位性」と言う事は、必ずしも「上司⇒部下」だけを意味しないという事です。
ここで言う優位性とは部長や課長などの職務上の「地位」に限りません。人間関係や専門知識などに基づく優位性なども含むとされており、例えば、先輩・後輩関係や同僚同士に加え、部下⇒上司でも成り立ちます。
例えば、年上の部下や古株社員など、職場の人間関係や専門知識などで支配的な立場にある人ににらまれる気弱な上司というような事も考えられます。
「パワハラ」と言った時に、「上司の暴言」というような固定的な発想だけでなく、より広い範囲で考える必要があるという事です。
次に、(2)についてです。
どれくらいの事をしたらパワハラになるのか、という事の指針です。
パワハラの具体例として、本人の能力からすると相当に低いレベルの仕事をやらせる、というものも含まれています。では、どんな場合でも本人の能力に見合った仕事以外はさせてはならないのかと言えば、そうではありません。あくまで業務の適正な範囲内であれば仕方がないという判断になります。例えば、トイレや事務所の掃除といった事は日常的に職場でも行っていると思います。そういった仕事が自分の能力に見合っているとはいえないというケースが多いと思います。しかし、普通の状況であれば、事務所をきれいにするという事は必要な仕事と考えられますから、「業務の適正な範囲」内であると考えられます。
一方で、他にも社員がいるにも関わらず、その人だけに押しつけたり、制裁的に行わせる、となると業務の範囲とは言えなくなってきます。
あくまで仕事に必要な範囲内であるかどうか、という視点が大切となってきます。
パワハラの具体例
では具体的にどういった行為がパワハラに当たるのか、という点について、さらに詳しく見ていきます。
厚生労働省の発表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によれば、パワハラは以下の6つの類型に分ける事ができます。
1 暴行・傷害(身体的な攻撃)
2 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
この中で、1の暴行・傷害や2の脅迫・名誉毀損・暴言などは程度によっては犯罪行為になってしまいます。議論の余地なく「業務の範囲外」と言い切れます。
3の隔離や無視と言った行為も、度が過ぎれば人権問題に発展し得ます。また、仕事上必要であるとは言えませんから、ほとんどの場合「業務の範囲外」と言えそうです。
難しいのは4~6でしょう。
4、5は仕事の内容と個人の能力の問題です。
できそうもない仕事をやれと命じられた方は、「ひどい話だ、パワハラだ」と感じるかもしれませんが、会社としてはそれは難しくても実行しなければならないプロジェクトかもしれません。仕事内容と能力のバランスになりますので、簡単な線引きは難しくなってきます。
6の私的な事への干渉となると、相当微妙な問題となってきます。どこまでが過度なのかも仕事によって違ってくるでしょう。例えば、医師という緊急性を伴う仕事であれば、休日にどこにいるのか、といった私的な事まで把握されている必要もでてくる事もあります。
そうして考えていくと、明らかに犯罪的行為以外については、いくら定義が発表されたと言っても、その判断はケースバイケースであるという事に変わりはなさそうです。
ただ、かなり大々的に報道され、厚生労働省も力をいれているようですので、今後、パワハラの被害者が訴え出てくる可能性は高くなったと思います。
パワハラが起こる事で・・・
ひとたびパワハラとなれば、大切な社員の能力が十分に発揮できなくなってしまいます。パワハラを受けている人は言うに及ばず、周囲の人も嫌な空気を味わいます。また、パワハラをしている側の人も、他人に対してそれだけ強く当たるという事は、何か自分自身も大きなストレスを受けているという可能性もあります。パワハラが起きているという事は、会社の中でパワハラ以外の何か別の問題が発生している可能性も示唆しているのです。
さらに、パワハラが契機となってウツと言ったメンタルヘルスにまで問題が波及してしまう事も往々にしてあります。そうなってくると、会社のパフォーマンスが十分に発揮できないというような生ぬるい問題ではなくなってきます。ウツになってしまえば、仕事自体ができなくなってしまいますし、周囲の人間に与える影響も相当に大きくなります。パワハラをしている人の事を周りの人は恐れるようになるでしょう。「嫌な職場」の誕生です。そうなってしまうと、社員はブラック会社に勤めているという認識になってしまい、関係のない人材まで辞めてしまう可能性があります。
そうした人間関係の問題以外にも、裁判などで訴えられて損害賠償請求されるというケースも考えられます。
ここまでくると、対外的な信用問題にまで発展しますし、実際の金銭賠償も行わなければならなくなります。この賠償問題は、単にパワハラをした人と受けた人という単純な構造ではありません。
安全配慮義務と呼ばれる、社員に安全な職場を提供する義務を会社は負っています。これは労働者を雇っている会社はすべて負っている義務ですが、パワハラでうつ病や自殺などが発生すれば、この義務をしっかりと行っていないとされ、パワハラをした人だけでなく会社にも責任ありと判断される事もあります。もちろん、パワハラをした本人にも個人責任が課せられる場合があり、そうなってくると会社内の空気は相当に重苦しいものになってしまうでしょう。
パワハラ防止のために会社ができる事
そこで、会社としてできる対策を考えていく必要があります。
いきなり会社内の人間関係を円滑にする、と言っても一朝一夕にはいきません。まずはできる事からコツコツと。
簡単にできる事として、会社として、又は社長がトップとして、我が社ではパワハラは許しません、という態度を表明する事です。社内報や朝礼、または就業規則など、会社としての姿勢を示す場面はいくつかあります。そういう場で、正式に「パワハラを許さない」という態度を明確にする事から始まります。
次のステップとしては、どういう場面がパワハラになるのか具体例を考え、それを社員に周知する事です。
先ほども見たように、仕事と能力の問題や私生活についてなど、各会社や部門によって事情は異なってきます。自分の会社ではどういう場面が該当するのかという事をはっきりさせなければ、防ぐ事はままなりません。例を示す事で、社員の意識を喚起する事が必要です。
さらに踏み込むなら、パワハラについての研修などを行う事を考えましょう。
単にパワハラ防止研修として行うよりも、スキルアップ研修やマネジメント研修などの研修の中に取り入れるとより効果的です。こうした研修を受講する人たちというのは、人事上、技術上優位な立場に立つ人材です。自分をアップグレードする一環として、自分が周囲に対して強い力を与える可能性があるという事を自覚してもらう事でパワハラの防止につながります。
この他にも専門の相談窓口の設置や専門機関の利用などの方法もありますが、そうしたものも、実際の解決手段という側面もありますが、パワハラを許さないという会社の意思表示という効果も大きいと思われます。
ちょっとした気遣いをできるかどうかで威圧的な態度を思いとどまったり、そういう振る舞いをする人をいさめる事ができたりします。
結局のところは人間関係の問題です。注意の喚起という単純な方法が最も重要な対策となります。また、そうした啓発活動であれば大きな費用もかかりません。逆に手間も費用もかからないにも関わらず放置していたとなると、会社側の責任も大きいと判断されかねません。そういう意味では、これらの対策は、「会社としてできる事」でもありますが、「会社としてやらなければならない事」でもあります。
大きな問題にならないうちに解決を図っていく事が快適な職場づくりのためには大切な事だと思います。
倹約したら訴えられた?!でござる 「派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令」
今朝、何気なく新聞を読んでいたら、こんな記事を見つけました。
派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令 名古屋地裁
派遣先の三菱電機名古屋製作所(名古屋市東区)で一方的に雇用契約を打ち切られたのは不当として、元派遣社員の男女3人が三菱電機に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟の判決が2日、名古屋地裁であり、田近年則裁判長は同社に計約140万円の支払いを命じた。正社員としての地位の確認については認めなかった。判決によると、3人は請負や派遣社員として同製作所で勤務。2008年12月に契約期間の途中で解雇通告を受け、09年1~2月に派遣会社が解雇した。判決理由で田近裁判長は「リーマン・ショックで雇用情勢が厳しい状況での突然の派遣切りで、経済的、精神的な打撃は甚大」と指摘。「ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者の生活を著しく脅かし、派遣先として信義則違反の不法行為が成立する」と結論づけた。さらに原告2人については業務請負会社の社員として派遣された「偽装請負」だったと認定。労働者派遣法の制限を超えて長期間にわたって就業させていた点に触れ、「規則をないがしろにしながら、一方で自社の生産の都合で派遣契約を中途解約したのは身勝手も甚だしい」と述べた。判決後に記者会見した原告の男性(45)は「これまで追及されてこなかった派遣先企業の責任が認められ、うれしい」と話した。原告側代理人の弁護士は「同様の事案は全国で訴訟になっているが、派遣先の責任を認めた例は少なく意義がある」としている。三菱電機の話 当社の主張が認められず、残念である。今後は判決の詳細を検討して対応したい。
引用元: 派遣契約打ち切り、三菱電機に慰謝料命令 名古屋地裁 :日本経済新聞.
初見の印象は、「何言っているか解らない」でした。
まずは事実関係を整理しましょう
そこでまず内容を確認しましょう。
三菱電機と派遣契約があった
↓
偽装請負もあった
↓
リーマンショック
↓
生産量減少
↓
派遣契約解消
↓
派遣社員、失業
と読めます。
詳しい内容は新聞からだけではわからない事を前提に話しますが、これって三菱電機のどこが悪いんでしょうか?
契約関係を確認しておくと、
三菱電機 ←派遣契約→ 派遣会社
派遣会社 ←雇用契約→ 労働者
三菱電機 ←指揮命令→ 労働者
となります。
いわゆる派遣契約の三角形の契約関係です。
再度確認しますが、三菱電機のどこが悪かったかと言えば、偽装請負をしていたという点です。
派遣労働者が失業した責任は三菱電機にはなく、派遣会社が負うのがこの契約の中身です。
訴えられるべきは派遣会社、という事になります。
なぜ三菱電機を訴えられるのか?
では、なぜ今回三菱電機が訴えられたかというと、憶測ですが件の派遣会社は既に倒産するなりして責任追及できなかったからではないかと。
リーマンショックで派遣切りにあって悔しい!
訴えたいけど雇用主はもういない。
じゃあ、派遣先の三菱電機を訴えよう。
そもそも三菱電機が派遣契約を切ったりしなければよかったのだから。
という論法だと思います。
なんとなく社会正義的には「派遣切り」即「悪」という図式は定着しつつあるので三菱電機も悪いよね、という感情論に流されそうですが、ここは冷静に考えてほしいのです。三菱電機と派遣労働者の関係を。
三菱電機は派遣労働者の雇い主?
繰り返しになりますが、この派遣労働者と雇用関係にあったのは派遣元企業です。
三菱電機から見れば、派遣労働者は余所の人達であって正社員でもなければ期間雇用でもアルバイトですらない。
三菱電機が契約しているのはあくまで「派遣元会社」との「労働力を提供する」という契約です。
派遣労働者は実質的に三菱電機と雇用関係にあったとする社員としての地位確認請求も行っていますが、それについてはきっちり否定されています。
現実のこの契約の内容がどうなのかは現状では知る由もないので憶測になりますが、製造業で働く多くの友人・知人から聞くところによると、この労働者供給契約の中途解約にあたってはメーカー側は相当金額の違約金を派遣会社に支払うのが通例だそうです。この場合に、解雇予告手当相当の一か月分の賃金以上の違約金が支払われていたかどうかは解りませんが、三菱電機ともあろう大企業が、いくら財政逼迫とはいえ、後から揉めることが分かっているこの状況で何ら解決金の支払いをせずに契約解除はしていないと思います。
派遣労働者のもつ労働契約上の権利とは何か?
問題は、その支払先はあくまで派遣元会社である、という点にあるでしょう。
これは、この労働者供給契約の当事者が三菱電機と派遣元会社との間で締結されたものですから当然です。この契約の中に労働者は当事者としては登場しないので、それを直接三菱電機に請求することも難しいでしょう。派遣労働者はあくまで派遣元会社と雇用契約をしているので、この派遣労働者ができる請求というのは、派遣元企業に対して「仕事をよこせ」か「さもなければ休業手当を出せ」しかありません。もっとも、この時点で解雇を言い渡されていたならば、「解雇無効」を訴えることが考えられますし、「一か月分の予告手当」を請求することもできます。いずれにしても、派遣労働者は派遣元会社にしか請求することはできず、三菱電機に対しては何も言う権利がありません。三菱電機はあくまでたまたま「働く場所」だったにすぎず、何ら契約関係にないからです。
にも関わらず、今回の判決では、三菱電機は信義則違反で「派遣労働者に対して」不法行為を形成しているから、「派遣労働者に」慰謝料を支払え、という判決になっているのです。
ここが、冒頭で「何を言っているのか解らない。」という感想につながるのです。
働いていた人たちはひどい目にあっている その想いはどこにあるのか
勿論、実際に働いていた人たちのやり場のない怒りについても解らないではないのです。
働いていた人たちからすると、派遣元会社で働いていたという認識よりも、三菱電機で働いていたという認識の方が強いのかもしれません。単に直接雇用されている人たちとは給料の出所が違っていただけ、と。にもかかわらず、派遣というだけで差別的待遇を受けるという現実もあった。偽装請負で働かせるだけ働かせて使い捨てにされた、という気持ちもあったでしょう。
そうした気持ちは理解できます。そもそも派遣労働という形態事態が問題を含んでいて、かなりグレーな制度だと思います。本来であれば、「短期雇用」というリスクを採っている派遣などの非正規社員の方が、リスクプレミアムとして高い賃金をもらうべきなのに、正社員の既得権益のために給与水準が逆転してしまっているというのも問題です。
しかし、だからと言って法を曲げるべきだとは思わないのです。
派遣契約解消という事と解雇の違い
先ほども確認した通り、三菱電機はあくまで派遣先企業であって雇用主ではありません。三菱電機側からみると派遣労働者は「労働サービスを提供してくれる別の会社の社員」に過ぎないわけです。
直接雇用する労働者に対しては、会社の一員ですからある程度の責任が伴いますが、外の派遣さんについて言えば違います。むしろ三菱電機からすれば自分たちはサービスを受けている「お客さん」な訳です。「客」である自分たちが、自分の都合でサービスを断ることにどんな問題があるのでしょうか。
身近な例に引き寄せて言うとレンタカーで説明します。
車は通常、自分で所有します。所有するという事は所有権を主張できるので自分の好きな時に自由に使えますが、その代わり税金を負担したり、メンテナンスをしたりといった諸々の義務も発生します。普段よく車を使う人は所有することに意味がありますが、あまり使わないという人にとっては車を買うよりも、必要に応じて借りたほうが得なのです。
それがレンタカーです。レンタカーの所有者はレンタカー屋さんなので、税金、メンテ等面倒事は全部レンタカー屋が行います。その代わり、少し高い借り賃を支払って使いたい時だけ借ります。
このレンタカーについて、お金がないから今回は借りるのをよそう、と言ったからといって文句を言われる筋合いはないでしょう。また、1週間借りる約束だったけれど、途中で不用になったから3日で返すと言っても、違約金なり解約金なりを支払えばそれ以上の問題はないでしょう。例えとしては不適切であるというのは承知で言いますが、派遣労働者というのはこのレンタカーと同じ存在であるという事です。あくまでも「労働というサービスを提供してくれる業者の人」というのが原則なのです。手元不如意となれば、まず最初に手を付けるのは不要なサービスというのは誰しもが納得するところだと思います。
勿論、これは期間のある契約なので、それに伴う解約金なり違約金なりという問題は生じます。しかし、それと解雇とは問題が違っている、という点には注意が必要でしょう。解雇するのはあくまで派遣元企業です。需要の減少で仕事がなくなって雇用を維持できなくなったからと言って、無理にでも買ってもらわなければ困る、というのは押し売りと同じです。しかし、この判決は、そういう趣旨に基づいて、さばききれなかった商品に対する補償を買主に迫っている、とも取れるのです。
ただし、これはあくまでも三菱電機が派遣契約解消にあたって、1か月分の解雇予告手当相当額以上の解約金等を支払っているという前提です。もし、それらを何ら支払うことなく、一方的に派遣切りをしたという事になれば、これはもう三菱電機の自業自得という事になります。
裁判所が因縁つけているようにしか見えない件
話を整理します。
①三菱電機は派遣元会社と派遣契約を解消したのだから、それに対して補償金なり解約金なりを相当額払ったかどうか。
②派遣労働者と派遣元企業の間には雇用関係が存在したのだから、解雇については一般の解雇の当不当を考える。
③三菱電機と派遣労働者との間には指揮命令関係はあるが法律的な契約はない。
というのが原則的な考え方です。が、今回の判決では、
④三菱電機が派遣契約を解消したら、次の派遣先が見つからなかったから派遣元会社が派遣社員を解雇した。
⑤だから解雇になったのは三菱電機のせいだ、三菱電機が派遣契約を解消したのはけしからん。
⑥許せないから慰謝料払え。
という事になっています。
なんというか、それは完全に派遣元企業の企業としての力量が足りなかったとか、企業としてちゃんとしていなかったから従業員に迷惑をかけたとかいう事であって、売り上げが減って解雇したんだから、買ってくれなかった奴が悪いと言っているのと全く変わらないわけです。
これ、景気が良くて、次々と派遣先が決まるという情勢下であったとしても同じ結果になるのでしょうか。
景気が悪くて生産縮小しなければならないのは三菱電機のせいというわけでもないでしょう。どこのヤクザかと思うような因縁っぷりです。
雇用調整を一切認めない国、日本
日本は解雇規制が異常なまでに強いとは思っていましたが、まさか、派遣契約を解消したら不法行為が成立して慰謝料支払いとか、もう資本主義を標ぼうするのをやめてくれとクレームが来てもおかしくないレベルです。
そもそも直接雇用している社員を整理解雇するためには、整理解雇の4要件というものがあって、
①会社がつぶれそう
②クビにしないためにはあらゆる犠牲をいとわず頑張った
③辞めさせる人間は平等に選べ
④しっかり労働者に説明しろ
というようなものです。
③、④とかは理解できますが、①、②については非常に?マークが飛び交います。
潰れるくらいまでほっといたら、解雇くらいでは追いつかないレベルにまで事態が逼迫しませんか、とか、社員を雇うことが会社の存在意義じゃないんですけど、とか。
その中に、正社員クビにするからには、アルバイトやパートのクビも先に切ったんだろうな、という恐ろしいことも書いてあったりします。勿論、派遣社員のクビは真っ先駆けてぶっ飛ばせ、という事です。確か、職業に貴賤はない、と道徳の時間に習ったような気がするのですが、社会的身分としての社員区分というものは存在するようです、裁判所の中には。
しかも、最初にクビを切るべしと裁判所から推奨されている派遣労働者ですら、直接雇用でないにも関わらず、不法行為と認定されて慰謝料請求です。
日本の将来が心配でたまらない
2チャンネルの中のニートたちの言葉に「働いたら負け」というものがあるそうです。
一旦働きだしたら会社に奴隷労働的に尽くさなければならないので、経済的にも身分的にも自由なオレ達は勝ち組、という自虐的なネタです。
しかし、この裁判の判決とかを見ていると、むしろ逆に、企業は「雇ったら負け」といった状況に陥りつつあります。
年々増加する給与外労働コストとでも言いましょうか。端的に訴訟リスク激増とでも言いましょうか。そりゃ、出れる会社はみんな海外に出たほうが良いんじゃないかと本気で思ってしまいます。
この調子では、本当に10年後とかに残っている企業なんてほとんどなく、円高なんて飛んでもございません、スーパー円安、ってか、巨額の国債がさっぱり売れずにデフォルトしてますんで円は紙屑同然買い手なんて1人もいません的な将来が見えてきますが気のせいでしょうか。
もういい加減、法律の世界の人達も、現実について本気で真剣にまじめに、かつ具体的に有効な策を考えてみるべき時期が来ていると思います。
このままでは本当に日本はヤバいと思いますし、その原因の一つがこの異常なまでの労働者保護政策だと思います。
そろそろ社会主義はやめて資本主義を導入しないと間に合いませんよ。